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ヤーさんのお姫様  作者: 不知火 初子
五章 ひとりでだって強くはなれるよ
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参佰弐拾壱




お化け屋敷の出口から少し離れたところで、わたしは驚きから声も出せずにいた。



新たに姿を見せたこちらに、刺すような目を向けてきた相手は、すぐに自身の胸に抱き込んだ小柄な男性へと視線を戻す。




「よお、椎名。元気そうで何よりだ」


涸沼(ひぬ)さん。久しいですね」




名前を呼んで親しげに声をかける男の人は、椎名の首に腕を回して逃げられないようにしている。


対して捕まっている椎名は、自分より頭二つ分ほど身長が高い大柄な男性に淡々と応じた。



とても既視感のある光景だ。


約1年前にも見た、危機的状況だ。



でも危うさで言ったら、椎名のほうがまだ行動に余裕があった。


涸沼さんは、傷つけると言ったら躊躇せず実行しそうだ。


そうせざるを得ないよう、追い詰められていると思わせる雰囲気がある。




身じろぎすら許されないような緊迫感が走った。




「こんなところで何してるんですか」


「冷てぇなあ。仲間だろ、俺たち。あ。前は、だったな」




涸沼(ひぬ)と呼ばれた男の人は、けけ……と笑ってゾッと背筋が凍るような目をした。




状況的に椎名のほうがつらそうだけれど、今、困惑して動けずにいるのはわたしだ。


逆に、椎名の表情は平然としていた。


動揺の見えない友人を前に、チラリと視線を巡らせて坊主頭を探す。



一番先にお化け屋敷を出た悠二くんは、椎名を正面に見ていた。


でも位置はわたしと椎名の距離より遠い。




たぶん涸沼さんよりも長く一緒にいるだろう彼も、仲間だったと聞いたことがある。



そして今は、少しその関係性が変わっているかもしれない。


わたしと違って友人と呼べるものではないだろうけれど、このまま放っておけるほど無関係とも言いがたい間柄であることは確かだ。


現に、悠二くんは威嚇するような怖い顔を相手に向けている。



ただ、内心では平静じゃあいられないのか。


足を踏み出しあぐねている彼は、八の字になった眉を更に顰めた。



そんなわたしたちに用はないらしく、涸沼(ひぬ)という男性は引きずるように椎名を抱えてジリジリと後退していく。


まるで、どこかに連れ去ろうとしているみたいだ。




なんか、このシチュエーション見たことあるな。



よりにもよって、わたしは危険だと鳴り喚く思考の隅で別のことを考えていた。


過去と現在の情景は、少しブレながらも合わさる。



悠二くんが置かれた立場に、今は椎名がいる。


椎名がいた立場に、今は涸沼(ひぬ)さんがいる。




ひねくれた友人はひどく冷静で、たぶん悠二くんも当事者ではないせいか落ち着きを取り戻し始めていた。




でも、ダメだ。


視線は、周りを見渡すように動く。



わたしはまた、珋二さんと柳一さんの姿を探していた。


そして同時に、今は、助ける明確な理由を持っていることに気付く。




わたしの脈略のない話題にも付き合ってくれる友人を、誰かが強引とも呼べる方法で動けないようにしているのだ。




離れた場所にいる悠二くんは、口をひらきかけている。


だけど声がその喉から発されるより、わたしの体が一息早く動いた。





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