参佰弐拾
車で二時間ほど移動し着いたテーマパークは、テレビでコマーシャルを見ない日はないほどに有名なところだった。
わたしたちより早くやってきた人もいて、駐車場の空きスペースは十数台分しかないように見える。
人の多さにホッと胸をなで下ろすと、珋二さんはそれを辟易した溜め息と取ったみたいだ。
「力がなくて悪いな……」と本当に力をなくしたように肩を落としている。
たぶん梓先珋二という名前のことで。
前回のことだって気にしているようだし。
自分の名前で大きな施設を貸し切るという行為は、なんだか特別な意味を持っているらしい。
珋二さんにとって大事なそれが出来なかったからなのか、さっきまでは保たれていた目が冴えるような格好いいオーラが今は消えてしまっている。
「ううん。むしろ、大勢の人が楽しんでいるんだなって思えたから、かなり安心した」
フォローでも何でもなく本心からそう伝えると、珋二さんはなぜか安堵したようで微笑を浮かべる。
彼の顔色に、少しだけ覇気が戻った。
テーマパーク内のアトラクションも、当たり前と言えばそれまでなのだけれど、やはり前に行ったところとは大きな差がある。
子どもが遊んでいるパンダの乗り物は、塗装だけじゃあなく性能も良いみたい。
ハンドル部分にタッチパネルがついていて、テーマパークのキャラクターが踊る動画を流している。
コーヒーカップのアトラクションからは、どれだけ耳を澄ましても軋む音ひとつ聞こえてこない。
テーマパークと聞かされて必ずセットで思い浮かべるジェットコースターは、今日も作動中で、上空から悲鳴と歓声の混じり合う声がそれはもう、一つの大きな声みたいに纏まって聞こえてくる。
すべてのアトラクションに行列が出来ていて、人の多さについては言うまでもない。
着いて早々、お化け屋敷の場所をパンフレットで確認したわたしは、悠二くんの腕にしがみついた。
もちろん、彼が恐怖におののく悲鳴を一番良い場所で聞くためだ。
わたしがニコニコしながら余所見もせずお化け屋敷へ足を進めると、後ろから追ってくる声があった。
「僕もついていくよ」
唇で弧を描く椎名は、そう言ってわたしとは反対側にまわり、悠二くんの腕を掴む。
お化け屋敷の入り口は、ジェットコースターの入り口と近い。
わたしと椎名を引きずって、悠二くんはおどろおどろしい建物から遠ざかろうとする。
だけどこっちも必死で反対側にある陰鬱な受付に連れて行き、血の手型がついた血文字で大人と書いてあるチケットを3枚買った。
悠二くんは、お化け屋敷に連行である。
彼も最初は開き直って平気そうにしていたのに、途中から本気で怖がりだして涙目になった。
挙げ句に床へ座り込んでしまうから、椎名と二人で坊主頭の成人男性が笑ってくれるように、と自分の失敗談なんかを語りながら宥めつつ奥へと進んだ。
わたしは小学生の頃に金平糖だと思い込んで、小指の先くらいの岩塩の粒を口に目一杯入れたことがある。
そんな冗談みたいな経験を語り、悠二くんの気を紛らわせていたのだけれど。
その時、いかにもおばけに扮装した人が出てきそうな怪しい襖の向こうから、クスクスッと声が漏れてきていた。
怖さとか驚きとかじゃあなく、恥ずかしさで屋敷の出口を目指したのは初めての体験だ。
もう二度と、面白半分で悠二くんをお化け屋敷に連れて行くことはしない。
黒いカーテンの向こうから漏れ出す外の光を見つけて、悠二くんは一目散に駆け出していった。
後を追って先に外へ出た椎名に続くが、外と内の明暗の差に目元を手の陰で覆う。
足下を見ながらようやく光に慣れてきたかな、と顔をあげた時だった。
目の前で起こっている光景に、わたしはその場で呆けて立ち竦んだ。




