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ヤーさんのお姫様  作者: 不知火 初子
五章 ひとりでだって強くはなれるよ
301/643

参佰壱





──── 人は一人では生きられない。




──── 一人でいることが強さに繋がるのなら、こんな時代まで子孫を残したりはできない。






文さんが読んでいた本の中に、そんなことを言う人物がいた。


彼女もこの言葉には半分同意らしく、何か言いたげに眉を顰めはしたものの、さいごには沈黙を選んだ。





けれど、わたしはずっと、その内容に違和感を抱いている。


だからといって一人を選ぶとか、群れることを嫌うわけではないけれど。



むしろ依存のように、周りと同じ普通であることに縋っていた自分が言うには、一番不釣り合いな考え方になるかもしれない。




それでもわたしは、人はひとりでだって強くなれると思うのだ。








**







傷つける選択をしないように気をつける。


といっても、相手の言葉をすべて取り入れるってことではなくて。



意見の違いは、たぶんお互いに傷つけ合う行為でもある。


だけど関係を築いていく上で欠かせない、避けることのできない痛みなのだろう。





「おはよう」



おはよう、といつもなら返ってくる彼女たちの声は、もう2週間も聞いていない。



以前のわたしなら、ただ関係が終わるだけだって諦めて、少しずつ距離を置いて関係を絶ったかもしれない。


だけど、自分から手放そうとするのはもうしたくないから。





ちゃんと話せていたら良かったのか。


きちんと相談していたら……なんて考えが頭に浮かぶ。


後悔ばかりの意識を払うように、いつの間にか俯いていた顔をあげる。




今さらなんだよ、ぜんぶ。


どうしたって、見知らぬ他人になんて戻れないから。


知ったなら、知り合ってしまったなら、あとは知り続けるか知らない振りをするかだけなんだ。




話せば和解できるとは思わない。


聞いてくれなくても良い。


話したあと、わたしとの関係を無かったことにするかどうかは、彼女たちに任せるほかないのだ。




2人はいつだって優しいし、将人に関わっていた事だって本気で心配してくれていたのだろう。



珋二さんたちと知り合ったばかりの頃だって。


わたしに訪れた新しい関係が良いものであることを、心から願っていてくれたかもしれないのに。




先に突き放したのは自分だというのに、今は彼女たちを求めてやまない。



わたしは知ってしまった。


自分が物凄く貪欲で、醜いほどに傲慢であることを。


自分本位で愚かで浅はかで、そのうえ欲深いなんておぞましいにも程がある。



けれど、仕方ないから別離しましょう……なんて方法はもう選べないのだ。


選びたくないのだ。






正直な気持ちで向き合うことは、とても苦しくてツラい。


その代わり、たった一つだけでも得られたものが、実は自分の本質を築く大事なものなのだろう。





遠ざかる背中に想いを向ける。


振り返ってくれる日が、いつか来ますように。


応えてくれるまで、どうか心が折れませんように。



新しい出逢いだけじゃあなく、これまで一緒に笑ったり楽しんだりしてくれた彼女たちにもそばにいて欲しいと、ずっと願っていられますように。




今の心境を無視する快晴の春は、わたしの痛む胸にささやかな風を添えた。





新章はじまりました!


今後ともよろしくお願いします。

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