拾弐
「ところで、どこに向かってるの?」
何か状況とか諸々含めてデジャヴ感出てるけど、目的地も知らされないまま、流されて移動させられるのは、凄く面白くない気持ちだ。
「お前んち」
「ふーん」
どうりで何か見たことある交差点だ・・・・え?
「え!?何で!?」
「うるっせえ!耳のそばでデカい声出すな!」
「ごめん」
どうやら私の心からの叫びは、相手の脳にまで浸透した模様。
りゅうじさんが、頭を抑えてる。
「いや、でも何で、私の家なの!?」
「は?帰りたいんじゃないのかよ?」
いや、言ったけども。帰りたいけども。だからって、そんな恐い顔しないで欲しい。
「何か違う!帰りたいけど、送ってくれとは言ってないじゃん!」
「どっちだって同じだろうが!」
「ぜんぜん、違う!」
むしろ、何で同じになったのか、不思議で仕方がない。いや、だから顔恐いってば。
車はもう交差点を抜けて、真っ直ぐ走っている。抗議しても、停車してくれる様子が無い。
「もう!ここで降ろしてくれたら、自分で帰るから!」
「じゃあ、勝手に降りろ」
はあ〜〜!?走ってる最中に降りたら、普通に怪我するわ!
「何?怪我させたい訳!動けなくなって、後続車に轢かれても良い訳!」
私の最後の訴えに、凛々しく整った眉が、片方だけピクリと動いた。
そして、何か言い出しそうな、細かい口の動き。
良し、勝った!と勝手に思った私は、
「・・・チッ」と小さく舌打ちが出たのを、聞き逃さなかった。
うわっ。すっごい腹が立つ!いや、でも我慢だ。私がんばれ。ちゃんと停車を指示してくれてるんだから、ここは抑えて私!!
言い争っていたら、また更に家に近付いたらしい。ここから数分歩けば、私の家に着くという距離で、車は静かに停まった。
約3日もお世話になって、不本意だけど家の近くまで送ってくれたし、一応お礼は言わなきゃな。
こんな見た目がイケメンな人と過ごせるのも、これで終わりになると思うと、少し気持ちが沈む。
「・・・ありがと」
後部座席から降りて、ドアを閉める前に一言だけ告げた。
やっぱり少し寂しいって、思ってるのかもな。自分の中で一番先に顔を出した感情に、心を寄せて相手を見た。
「あー。じゃあな」
その相手は、こちらを見ることもなく、片手間にドアを中から閉めた。
そして、そのまま車は発進し、あまりの対応に放心状態の私を置いて、やがて見えなくなっていった。
帰ってから、抱き枕にしてるクッションを、サンドバッグの様に思いっきり叩いた。
「あいつ!すっごい嫌なやつ!!嫌なやつ!!」
・・・・「へっくちょ!!」
「兄貴!大丈夫っすか!?」
「風邪ですか!?」
「いや、大丈夫だ」
日本の都会のどこかで、くしゃみをした人物がいた。