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(13)フロイデントゥク、連邦議会皇室控室、3月6日午後4時22分

 燃え盛る暖炉の後ろの隠し扉から、分厚い眼鏡をかけた男が現れる。その男、アノイ・リフトレブロ・ドレイクは、暖炉から這いでながらアクスープに言う。

 「このたびは、主席にご着任、おめでとうございます」

 連邦行政委員会新主席グレッグ・アクスープは社交辞令を口にする。

 「君と、女帝陛下のおかげだ」

 「そのとおりですな」とドレイク、アクスープの神経を逆撫でにする、「わが連邦体制監査委員会公安情報局の多大な貢献によるという事でしょう」

 女帝は険悪になりそうな雰囲気を変えようとする。

 「局長たるあなたが、わざわざお越しとは、余程の事なのでしょうね」

 「そう」と彼は勧められもしていないのに椅子にどかっと座る。「私の部下……仮にXとしておきましょう……そのXが、ヴァストリアントゥオでこのような写真を撮影してきまして」

 彼は数枚の写真を机に並べる。各種の兵器。

 「これが、どうかしたのかね?」

 女帝は写真の片隅を凝視した。

 「何やら複雑な文字が書かれているようですね」

 「さすが、ルオ・レヒトム(われらが母)、お目が高い」とドレイクは写真を説明していく。

 「こちらはジョンゴンとジェグズイ軍の用いる多連装ミサイル『自走(ジソ)噴進弾(フンシンダン)』、そして対空ミサイルの『(ウオ)(エン)』。洋上哨戒機の『紺碧(コンペキ)』『二式(ニシキ)大艇(ダイテイ)』。一方、こちらはグラゼウン軍が採用している攻撃ヘリ『(ラン)(ライ)』、兵員輸送機『左川(サガワ)』、戦闘攻撃機『(ヒシ)一式(イシキ)(カイ)』……」

 アクスープは写真を手に取り、ドレイク局長にたずねる、「これ、ヴァストリアントゥオで撮影された……。そう、言ったね? しかし、どうもジペニア語のように聞こえるが」

 「つまり、ジペニア商人が武器をヴァストリアントゥオに輸出しているという話ですのね?」と女帝。

 ドレイクはにっこり笑って首を横に振る。「この輸送機を作った軍需産業会社の左川(サガワ)重工(ジユコ)は、贈収賄事件にかかわっており、ジベニア政府指導者と極めて深い癒着関係にあります」

 ドレイクは、結論を否定したいと願う二人に、冷酷に宣告した、「すなわち、ジペニア政府そのものが、いや少なくともジペニアの戦略軍事組織ジェーターそのものが、ヴァストリアントゥオの紛争に介入しているのです」

 「何かの間違いではないのかね」

 「たとえば、ヴァストリアントゥオに潜伏する武器のブローカーがジペニアから購入した武器を転売している……とか?」

 ドレイクは再び、顔を横に降る、「ヨシシゲル級原子力空母2隻、シデハラ級巡洋艦2隻、クロシオ級大型戦略原潜4隻が、ンカイ海軍基地を出港、西へと向かったという情報が入っております」

 「女帝陛下、案ずるには及びませんぞ。ヴァストリアントゥオを早く制圧してからジペニアを迎え撃てば良いのですから」

 ドレイクは入って来た場所、すなわち燃え盛る暖炉の後ろの隠し扉から出ようとする。

 「もしも」と女帝、「ジペニア軍本隊が介入する以前にヴァストリアントゥオを制圧すれば……」

 「うむ、それが最善でしょうな」とドレイク、振り返る。

 「……ジペニアは、その時でも介入するでしょうか」

 ドレイクは考え込む。

 「今からでもジペニアに真意を糺せぬか」とアクスープ。

 「おそらく、まともな対応は得られないでしょう」とドレイク。「わが国の3月というのは、ジペニアでは1月になります。1月の最初の7日は『正しい月』とかいう祝祭。その次の7日間は15日『成年の儀式』なる祝祭の準備。それが終わると、来年度の予算を組みはじめます。ジペニアの年度はわが国の暦の6月から始まるので、ね。それまでは、たいした反応は期待できませんよ。もっとも、あの国はいつでも期待はできないのですがね。……そうそう、ジペニア国王の誕生日は6月29日です。ジペニアが参戦するとすれば、その日になる可能性は、極めて高いといえます」ドレイクは暖炉の中に入った、「だから、その日までに、ヴァストリアントゥオ問題を片付ける必要がありますぞ」

 「どうもありがとう」と女帝はだれもいない暖炉に礼を言った。「近衛軍をザゾへ」とアンナ・カーニエ。

 「近衛軍は、女帝陛下をお守りするためにある軍隊ですぞ」

 「ええ、そうです。私も、ザゾに向かいます。ザゾにて政務を取ります」

 「もしものことがあったらどうするのです?」

 「そのときは、娘アーリアをお願い」

 「……考え直していただけませんかね」

 「でも、早期終結のためには、下手をすると、先帝陛下がなされたように核兵器を持ち出さざるを得なくなりますよ」

 「うむ……」

 「私が陣頭で指揮を取り、士気を極限にまで高めて早期終結させるのと、私が首都に残って原水爆を乱用して人心を動揺させるのと、いずれが良い結果を残すとお思い?」

 「他に方法はないのですか」

 「ありますわ」

 「どのような?」

 「全大陸間弾道弾でジペニアを先制核攻撃するのです」

 「そんな……。超大国間の全面核戦争ではないですか。それこそ、焼きたてのヌロックスみたいにこんがりと、地球が焼けてしまいますよ」

 「でしょう? 私が最前線に赴くのが、一番よろしいのですわ」

 「わかりました。わかりましたけれども、今すぐに行くというのはやめてください。あしたの午後まで待ってください。その間に手続きしますから。そう、明日の衛兵交替時に、女帝陛下に閲兵してもらい、そこで演説してください。それから……」

 女帝は、くすっと笑う。

 「何か……?」

 「いえ、あなたにすべてお任せいたしますわ。よろしくお願いします」

 女帝は丁寧にお辞儀をする。内閣主席は困惑する。彼は思う。……彼女を扱いやすいなんて言う奴はとんでもない間抜けだ。彼女は扱いやすいのではない。彼女が他の者を扱いやすいのだ。


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