第四章:予言者の壇上
断頭台に消えたはずのロベスピエールは、5年前のテニスコートで目を覚ます。なんと、テニスコートの誓いが行われる瞬間だった。
終わらない処刑の日々と恐怖政治を繰り返してはならないと、ロベスピエールは立ち上がる。
静寂は、一瞬で訪れた。
ロベスピエールが壇の中央に立った瞬間、球戯場の空気が変質した。五百七十七人の議員の誰もが、この痩身の青年を知らなかった。知らないからこそ、壇上に突然現れたその姿に困惑し、ざわめきが起き——そして、ざわめきが消えた。
消えた理由は、ロベスピエールの目だった。
三十一歳の青年弁護士の顔をした男が、三十六歳の死刑囚の目をしていた。千三百七十六人の処刑を見届けた目。親友の首がギロチンから転がり落ちるのを見た目。自分自身の顎が砕け、血が溢れ、死刑執行人の助手に跳ね板へ押さえつけられる瞬間を経験した目。
その目が、五百七十七人を見渡した。
人間は、理屈ではなく本能で、危険を察知する。球戯場の議員たちは、壇上の男が何者であるかを知らなかった。だが、あの目が纏っている重力を——あまりにも多くの死を吸い込んだ瞳孔の、底なしの暗さを——動物的な直感で感じ取った。
興奮していた議員が口を閉じた。拳を振り上げていた議員が、腕を下ろした。隣の者と話していた議員が、言葉を止めた。
球戯場が、凍った。
六月の蒸し暑い空気の中で、五百七十七人の体温が一斉に下がったかのような、不自然な静寂。高い窓から差し込む光の柱の中で、埃の粒子だけが音もなく舞っている。
バイイが壇の端で腕を組み、ムーニエと並んで立っている。「三分」という約束の時間が、今、始まった。
ロベスピエールは、大きく息を呑むこともなく、声を張り上げることもなく、演説の常套句で始めることもなく——ただ、氷のように冷たい声で、事実を述べた。
「諸君。我々は今日、歴史的な宣誓を果たした。憲法制定まで解散しないという、この誓いは正しい。私はこの誓いを全面的に支持する」
当たり障りのない出だしに、数人の議員が小さく頷いた。だが、ロベスピエールの声の温度が——その声に含まれる、場違いなほどの冷静さが——彼らの安堵を許さなかった。
「だが、諸君。この宣誓の先に何が待っているか、考えたことがあるだろうか」
沈黙。
「私が今から申し上げることを、妄想と笑わないでいただきたい。三日後——六月二十三日——国王は親臨会議を開く」
ざわめきが走った。親臨会議の噂は議員たちの間でも囁かれていた。だが、日付を断言する者はいなかった。
「国王は四千の兵をこの議場の周囲に配置し、我々に向かってこう宣言する。『国王の承認しない議案は一切無効である』と。身分別議決の維持を命じ、国民議会の解散を要求する」
ざわめきが大きくなった。議員たちが顔を見合わせている。
「我々はそれを拒否するだろう。ミラボー伯爵」
名指しされたミラボーが、壇の下から顔を上げた。
「伯爵は、おそらくこう叫ぶはずだ。『我々は人民の意志によってここにいる。銃剣の力によってのみ追い出されるだろう』と」
ミラボーの目が見開かれた。その言葉は——まさにその台詞は——ミラボーが胸の内で温めていた、いずれ国王に面と向かって叩きつけてやろうと考えていた言葉そのものだった。まだ一度も口にしていない。脳裏でリハーサルしていただけの言葉を、壇上の見知らぬ青年が寸分違わず読み上げた。
「……おい」
ミラボーが低い声で言った。両足を踏ん張り、黒い上着の肩を怒らせて、壇上のロベスピエールを睨み上げている。
「なぜ、それを知っている」
ロベスピエールは、ミラボーの問いに答えなかった。視線をミラボーから外し、議場全体に向き直った。
「勇ましい言葉だ。美しい抵抗だ。だが、その先を聞いてほしい」
ロベスピエールの声が、半音下がった。球戯場の空気が、さらに冷えた。
「国王は、ネッケルを罷免する」
衝撃が走った。ネッケル——財務大臣ジャック・ネッケル。第三身分の希望の星。彼の改革路線だけが、王室と民衆の架け橋になり得ると、この場にいる議員の大半が信じていた。そのネッケルが罷免される。
「いつだ」
誰かが叫んだ。
「七月十一日だ」
ロベスピエールは、日付を告げた。二十一日後の未来を。まるで天文学者が日食の日時を告げるように、一切の躊躇なく。壇の端に立つバイイが——本物の天文学者が——その精密さに息を呑んだ。
「ネッケルが罷免されれば、パリの民衆は激昂する。暴動が起きる。武器庫が襲撃される。そして——」
ロベスピエールは、一拍置いた。
「——七月十四日。バスティーユ牢獄が陥落する」
球戯場が、完全に静まり返った。
バスティーユ。あの巨大な要塞。パリの東端に聳え立つ、王権の象徴。鉄の扉と分厚い城壁に守られた、難攻不落の監獄。あれが——陥落する?
「馬鹿な」
後方の席から、嘲笑混じりの声が上がった。
「バスティーユを民衆が落とすだと?あれは正規軍でも攻略に数週間かかる要塞だぞ。何の根拠があって——」
「根拠はない」
ロベスピエールは、嘲笑した議員の方を見もせずに言った。
「根拠はない。だが、事実だ。怒り狂った民衆は、根拠など求めない。計算もしない。ただ殺到する。守備隊長ド・ローネーは降伏し、そして群衆に殺される。首を切り落とされ、槍の先に刺されてパリの街を練り歩かされる」
球戯場の空気が、変わった。嘲笑は消えていた。議員たちの顔に浮かんでいるのは、もはや困惑ではなかった。恐怖だった。この男が語る未来の、生々しすぎる細部に対する、本能的な恐怖。
「守備隊長の首が槍の先に——そんなことが——」
「起きる」
ロベスピエールは断言した。
「起きる。そして、それは始まりに過ぎない。バスティーユの陥落は、この国に、暴力というものの味を教える。甘い味だ。中毒性がある。一度味わった者は、二度と手放せなくなる。民衆は学習する。暴力によって王権を屈服させることができるのだと。そして、その学習は——」
ロベスピエールの声が、さらに低くなった。
「——やがて、この場にいる諸君自身に向けられる」
沈黙が、重かった。
天井の梁が軋んだ。高い窓の外を、雲が横切り、球戯場に差し込んでいた光の柱が一瞬翳った。その一瞬の暗転が、議員たちの心に落とした影は、雲が去った後も消えなかった。
最初に動いたのは、ミラボーだった。
「ならば!」
激情の塊のような男が、壇の下から吠えた。太い首に血管が浮き、紅潮した顔が球戯場の薄暗がりの中で燃えるように赤い。
「ならば、先手を打つべきだ!国王が軍を動かす前に、我々が武器を取る!アンヴァリッドの武器庫には三万丁のマスケット銃がある!議会が開会すると同時に武器を奪い、我々自身の軍を組織し——」
「そうだ!武器を!」
「戦おう!」
「国王に屈するな!」
球戯場が、再び沸騰した。恐怖が、瞬時に攻撃性へと変換された。追い詰められた動物が牙を剥くように、議員たちは本能的に暴力へと手を伸ばした。
史実通りだった。
寸分違わず、史実通りだった。
ロベスピエールは、壇上で、薄気味悪い笑みを浮かべた。
それは笑みと呼ぶにはあまりにも冷たく、あまりにも悲しい表情だった。五年間の暴力を知り尽くした男が、暴力の起源を目撃している表情だった。ビッグバンの瞬間を観測する天文学者の表情に、あるいは近かったかもしれない。
「やはり」
ロベスピエールが、静かに言った。
その声は大きくなかった。だが、球戯場の沸騰を、一瞬で凍結させた。
「やはり、そうなる」
議員たちが黙った。ミラボーが、拳を振り上げたまま、凍りついた。
「武器を取れ。戦おう。国王に屈するな。——美しい言葉だ、ミラボー伯爵。だが、あなた方は今、まさに私が予言した通りの反応をしている。恐怖を暴力で上書きしようとしている。それは人間の本能だ。動物的な、制御不能の反射だ」
ロベスピエールは壇上を一歩、前に出た。
「そして、その反射に従えば、何が起きるか、お教えしよう」
球戯場が、石のように固まった。
「あなた方は武器を取る。国王の軍隊と戦う。勝つかもしれない。おそらく勝つだろう。だが、勝った後、あなた方はその武器を手放せなくなる。武器を持った者は、次の敵を探し始める。王を倒した後は、王を支持していた者を探す。その次は、革命に十分な熱意を示さない者を探す。その次は——」
ロベスピエールの目が、議場を横切った。
「——この場にいる仲間を、互いに疑い始める」
沈黙。
「あなた方は、数年後、その武器で互いの首を切り落とすことになる」
球戯場に、氷が張った。六月の蒸し暑い空気の中で、議員たちの背筋を冷たいものが走った。
ロベスピエールの笑みが、消えた。代わりに、壇上の男の顔に浮かんだのは、絶対的な確信だった。予言者の確信。あるいは、預言者の確信。
「物理的な武器は、この革命に必要ない」
断言だった。
「剣も銃も大砲もギロチンも、すべて過去の遺物だ。野蛮な、非効率な、取り返しのつかない過ちを量産する旧時代の道具だ。我々が——フランスの第三身分が——この国を真に支配するために必要なのは、武器ではない」
ロベスピエールは、ゆっくりと、視線を動かした。
五百七十七人の中から、一人の男を探した。
見つけた。
「そのことを、誰よりも深く理解している人間が、この場にいる」
ロベスピエールの視線が、議場の左翼——第一身分の聖職者たちが固まっている区画——の一角に停まった。
「タレーラン司教」
名指しされた男が、微かに身じろぎした。
シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール。オータン司教。ペリゴール伯爵家の長男にして、内反足のために軍人の道を断たれ、聖職者として三部会に送り込まれた男。三十五歳。鷹のような目と、狐のような口元と、蛇のような沈黙を持つ男。
この瞬間まで、タレーランは完璧に存在感を消していた。第一身分の聖職者議員として球戯場にいながら、宣誓にも万歳三唱にも、ミラボーの激昂にも、ロベスピエールの演説にも、一切反応を見せていなかった。座ったまま、杖を膝に立てかけ、片方の足を庇うように組み、薄い唇を閉じたまま、すべてを観察していた。
シェイエスが「理論の影」に身を潜める男だとすれば、タレーランは「沈黙の影」に身を潜める男だった。だが、その沈黙の奥にあるものは、シェイエスの理論よりもはるかに危険で、はるかに実用的で、はるかに冷酷だった。
名指しされたタレーランの表情は、変わらなかった。
変わらなかったように見えた。
だが、ロベスピエールには見えた。タレーランの右手の指が——杖の握りを掴んでいる指が——一瞬、白くなったのを。
「タレーラン司教。あなたは聖職者でありながら、この三部会に出席しておられる。第一身分の特権を手放してでも、第三身分と行動を共にする覚悟を持って。その覚悟の裏にあるのは、信仰ではないでしょう。あなたの覚悟の裏にあるのは——計算だ」
タレーランの薄い唇が、かすかに動いた。だが、声は出さなかった。
「あなたは知っている。武器で革命を遂行すれば、何が起きるか。この国が血で溺れるだけではない。外国が——オーストリアが、プロイセンが、イギリスが——介入してくる。フランスが内戦で弱体化した隙に、周辺国が牙を剥く。あなたの頭の中には、すでにそのシナリオが描かれているはずだ」
タレーランが、初めて口を開いた。
「……面白い」
声は低く、乾いていた。感情の色が完全に抜き取られた、外交官の声だった。三十五歳にして、すでにその声を完成させていた。
「面白い、とは」
「名も知らぬ若い弁護士が、私の頭の中を覗き込んでいるつもりでいる。それが面白い」
タレーランは杖を握ったまま、座ったまま、壇上のロベスピエールを見上げた。
「だが、仮に——あくまで仮にだが——君の言う通りだとしよう。仮に、この革命が武力に訴えた場合、外国の介入を招くとしよう。それで?」
「それで、ではない」
ロベスピエールが即座に返した。
「あなたに聞いているのだ、タレーラン司教。この場の議員たちに、その危険を説明していただきたい。私の言葉では足りない。地政学の論理を、あなたの言葉で語っていただきたい」
タレーランの目が、細くなった。
長い沈黙があった。
球戯場の五百七十七人が、タレーランを見ていた。第一身分の隅で存在感を消していた跛行の司教を、初めて正面から見ていた。
タレーランは、立ち上がった。
杖を突き、内反足を庇いながら、ゆっくりと。だが、その動作には、ミラボーの激情にもバイイの威厳にもない、別種の力があった。計算し尽くされた所作。一歩一歩が外交的布石であるかのような、精密な歩行。
彼は壇上には上がらなかった。自分の席の前に立ち、議場全体を見渡せる位置で、杖に両手を重ねた。
「私の名を呼んだ若い弁護士に、ひとつ訂正を申し上げる」
タレーランの声が、球戯場に響いた。低く、乾いて、しかし驚くほど明瞭に。跛行の聖職者の声には、壇上に立たずとも空間を支配する、不思議な浸透力があった。
「仮にではない。確実にだ」
議員たちが息を呑んだ。
「フランスが武力革命に踏み切れば——国王の軍隊と民衆が衝突すれば——外国は必ず介入する。必ずだ。仮にではない。これは地政学の法則であり、ヨーロッパの均衡の論理であり、ハプスブルク家とホーエンツォレルン家の本能だ」
タレーランは杖を一度、床に突いた。乾いた音が球戯場に響いた。
「理由を申し上げよう。マリー・アントワネット——我々の王妃は、オーストリア皇帝レオポルト二世の妹だ。フランスの王室に危機が迫れば、オーストリアは黙っていない。王妃の安全を名目に、軍を国境に集結させる。そしてプロイセンがそれに乗る。ホーエンツォレルン家は、常にハプスブルク家と競い合いながら、フランスの弱体化という一点では利害が一致する」
「イギリスは?」
誰かが叫んだ。
「イギリスは、最も危険だ」
タレーランの目が、鋭く光った。
「ピット首相は、フランス革命の理念がイギリスに波及することを何よりも恐れている。フランスが共和制に移行すれば、イギリスの王政そのものが脅かされる。ピットは反仏大同盟を組織し、フランスを包囲するだろう。海軍力で我々の貿易を封鎖し、経済を窒息させる」
タレーランは、議場をゆっくりと見回した。
「つまり、こういうことだ。諸君が武器を取れば、フランスは二正面——いや、三正面、四正面の戦争に引きずり込まれる。東からオーストリアとプロイセン。西からイギリス。南からスペイン。北からオランダ。フランスは孤立し、包囲され、外からは軍事的圧力で、内からは戦費の重圧で、この国は——」
タレーランは言葉を切った。
「——崩壊する」
球戯場が、完全に沈黙した。
ミラボーが、振り上げた拳を、静かに下ろした。
ロベスピエールは、壇上から、タレーランを見下ろしていた。
この男だ、と思った。
この男の頭脳が必要だ。地政学の冷徹な計算。ヨーロッパの権力均衡を一枚の地図の上で操作する能力。六つの政権を渡り歩き、そのすべてで権力の中枢に座り続ける、あの恐るべき生存本能と政治的知性。
史実において、タレーランはロベスピエールの敵だった。タレーランは革命の初期に亡命し、恐怖政治を海の向こうから眺めていた。ロベスピエールが処刑された後、フランスに戻り、総裁政府で外務大臣となり、ナポレオンに仕え、ナポレオンを裏切り、ブルボン朝に仕え、ブルボン朝を裏切り——六つの頭を持つ男。
だが、今、この瞬間、この球戯場において、タレーランは敵ではない。まだ敵になっていない。まだ、使える。
タレーランの論理は、ロベスピエールの「暴力の無意味さ」を、完璧に裏付けてくれた。内側から——恐怖政治の記憶から——暴力を否定したロベスピエールの主張を、タレーランは外側から——地政学の論理から——補強した。
内と外。
ふたつの論理が、ひとつの結論を指し示している。
武力による革命は、破滅への道だ。
議場の議員たちの顔を見れば、その結論が浸透していることは明らかだった。ミラボーの拳は下りている。武器を叫んでいた者たちは口を閉じている。恐怖と興奮に代わって、困惑が——そして、かすかな希望が——五百七十七の顔に浮かび始めている。
「ではどうすればいいのだ」と、誰かが今にも問うだろう。
その問いを引き出すために、ロベスピエールはタレーランを使ったのだった。
タレーランが、杖を突いたまま、壇上のロベスピエールを見上げた。
二人の視線が交差した。
タレーランの目には、先ほどまでの冷笑は消えていた。代わりにあったのは、知性が知性を認識したときに生まれる、あの特殊な光だった。警戒と好奇心と、そして——ほんの微量の——畏怖。
「若い弁護士」
タレーランが言った。
「名前は何だったかな」
「ロベスピエール」
「ロベスピエール。アルトワの、ロベスピエール」
タレーランは名前を舌の上で転がすように繰り返した。
「ロベスピエール。君は——何者だ」
その問いには、「君はどこの議員だ」という意味は含まれていなかった。タレーランが問うているのは、もっと根源的なことだった。三十一歳の無名の弁護士が、なぜこれほどの情報を持っているのか。なぜオーストリアとプロイセンの介入を予見できるのか。なぜミラボーの心の中の台詞を知っているのか。なぜネッケル罷免の日付を断言できるのか。
ロベスピエールは、答えなかった。
代わりに、薄い笑みを浮かべた。タレーランに向けて。
知性が知性に向ける、あの特殊な笑み。
「タレーラン司教。あなたは今、私を分析している。この男は何者か、どこから情報を得ているのか、利用できるか、危険かと。いつもそうやって人間を分析してきたのでしょう」
「…………」
「だが、今日は分析しなくていい。今日は、あなたに一つだけお願いがある」
「何だ」
「この場を——私と一緒に——正しい方向に動かしてほしい。武器ではない方向に。血ではない方向に。あなたの頭脳が描ける、最も合理的な方向に」
タレーランは、長い沈黙の後、杖を一度床に突いた。
「君の言う『正しい方向』とやらを、まだ聞いていないが」
「今から、お話しします」
「……面白い」
タレーランは二度目の「面白い」を言った。だが、最初の「面白い」とは、明らかに温度が違っていた。最初のそれは冷笑だった。二度目のそれは——
共犯者の、笑みだった。
ロベスピエールは、壇上で、議場を見渡した。
五百七十七人の議員が、沈黙して、壇上の男を見ている。
万歳三唱の熱狂は消えていた。ミラボーの激昂は鎮まっていた。武器を求める叫びは止んでいた。代わりに、球戯場を満たしているのは、研ぎ澄まされた静寂だった。嵐の前の静けさではない。嵐を回避した後の、張り詰めた、しかし理性的な静けさ。
完全に沈黙し、冷静さを取り戻した議員たちが、壇上のロベスピエールを見ていた。
一人の議員が、声を上げた。
「それなら——我々は、どうすればいいのだ?」
待っていた言葉だった。
ロベスピエールの五年間が——千三百七十六人の血が——砕けた顎の痛みが——断頭台で途切れたアルゴリズムが——すべて、この瞬間のために収束した。
ロベスピエールは、息を吸った。
六月のヴェルサイユの空気を。
そして、口を開いた。
ロベスピエールの予言と、タレーランの言う地政学の論理を知り、フランス革命が起きればどのような展開になるかを聞かされた議員たち。
革命は起こす。けれど、王は殺さない。
「我々は、どうすればいいのだ?」
ロベスピエールの答えとは?




