新たなテロル——ギロチンなき世界の暴力——
1795年。2月。
ロベスピエールの執務室に、イギリスからの最新報告書が届いた。
タレーランの情報網ロンドンのシティに散らばった金融エージェントたちの報告書。その中に、一通の異質な文書が混じっていた。ロンドンの公衆衛生に関する非公式の報告書。タレーランのエージェントが、イギリス議会の議員の書斎からどのような手段でか入手したものだった。
報告書の内容は、こうだった。
テムズ川が、死んでいる。
ロンドンの工場群紡績工場、製鉄所、石炭ガス製造所から排出される廃水と煤煙が、テムズ川を黒く、悪臭漂う下水溝に変えている。ロンドンの貧民街では、工場労働者が慢性的な呼吸器疾患で倒れ、幼児の死亡率が農村部の三倍に達している。だが、イギリス政府は、この問題に手をつけていない。工場主たちの政治的影響力が強く、規制を求める声は議会で握り潰されている。
ロベスピエールは、報告書を2度読んだ。
3度目は読まなかった。読む必要がなかった。
なぜなら、この報告書に書かれていることはレザンドリー川で起きていることと同じだったからだ。
* * *
ロベスピエールは椅子から立ち上がり、壁に掛けられた風刺画マラトの『自由を数えた男たち』を見つめた。帳簿に没頭する自分たち。自由の女神に背を向ける自分たち。
「同じ轍だ」
独り言が、執務室に響いた。
「イギリスは石炭公害を放置し、内部から腐敗している。工場主たちの利益が労働者の命よりも優先されている。政府はそれを知りながら、経済成長を止めることを恐れて何もしない。そして、我々はまったく同じことをやっている」
ロベスピエールの脳が、もう一つの未来の記憶を検索した。
だが、公害の記憶はなかった。自分が生きていたフランスには、産業革命が起きていなかった。フランス革命の混乱と恐怖政治がフランスの産業発展を遅らせ、イギリスが産業革命の覇権を独占した。ロベスピエールが持つ未来の知識には、産業公害のデータが含まれていなかった。
これは予見できなかったバグだった。
逆行転生者の最大の弱点。未来の知識は、自分が見聞きした出来事についてのみ有効だ。改変された歴史が生み出す新しい問題については、何の予見もできない。
ロベスピエールは、窓際に歩み寄った。パリの冬の空。灰色の雲がセーヌ川の上を低く流れている。
「このまま放置すれば何が起きる」
計算が始まった。
レザンドリー川の汚染は、デムーランの記事で公になった。民衆は怒っている。だが、今のところ、怒りは「管理者への怒り」だ。ラメット伯爵やデータを改ざんした者たちへの怒り。システムそのものへの怒りではない。だが、公害が放置され、被害が拡大すれば、怒りの矛先は管理者からシステムへ、そしてロベスピエール自身へ移行する。
そうなれば。
ロベスピエールの脳裏に、あの記憶が蘇った。民衆の暴動。バスティーユの襲撃。九月虐殺。恐怖政治。ギロチン。怒りが制御を失ったときに起きること。
公害を放置すれば、民衆の怒りが爆発する。怒りが爆発すれば、暴動が起きる。暴動が起きれば、鎮圧が必要になる。鎮圧には暴力が必要になる。暴力が暴力を呼び、恐怖が恐怖を呼び新たな恐怖政治が始まる。
一滴の血も流さずに革命を成し遂げた。
その成果が公害という、予見できなかったバグによってすべて崩壊する可能性がある。
「それだけは絶対に避けねばならない」
* * *
その夜、ロベスピエールはダントンを呼んだ。
巨漢の民衆派議員は、深夜にもかかわらず、上機嫌でやってきた。コートの襟を立て、頬を赤くし、手にはワインのボトルを持っている。
「こんな時間に呼び出すとは、よほどの用事だな。飲むか?」
「飲まない。座ってくれ、ダントン」
ダントンが椅子に座った。ロベスピエールの顔を見て、笑みが消えた。
「……何があった」
「右院に、ルアーブルの公害問題について、正式な調査委員会を設置してほしい」
「右院に?それは当然やるべきことだ。デムーランの記事を読んだ。あいつの筆は相変わらず鋭い。だが、左院の壁は厚い。ラメットたちが握り潰す」
「だから、右院主導で動いてほしい。民衆の代表として。左院が拒否しても右院が独自に調査を開始し、結果を公表する。左院の承認は不要だ。右院の調査権限は、憲法で保障されている」
ダントンが、ワインのボトルをテーブルに置いた。
「ロベスピエール。お前がそこまで言うなら、よほど深刻なんだな」
「深刻だ。このまま放置すれば民衆の怒りが暴走する。デムーランの記事で火がついた。火は今は小さい。だが、放置すれば」
「燎原の火になる」
「そうだ」
ダントンが、両手で顔を覆った。大きな手。天然痘の痕が刻まれた顔。この男は、民衆の怒りを知っていた。自分自身が、その怒りの体現者だったからだ。
「わかった。右院で調査委員会を立ち上げる。委員長は俺がやる」
「ダントン」
「俺以外に適任がいるか?民衆は俺を信頼している。俺が動けば、彼らは信じる。『右院が動いている。政府は見て見ぬふりをしていない』と。怒りのガス抜きだ。お前の得意技だろう、ロベスピエール」
ロベスピエールは、答えなかった。
ダントンの言葉は正確だった。痛いほど正確だった。
* * *
2月末。
パリの夜が突然揺れた。
午後11時23分。
バスティーユ監獄の東翼の壁が、轟音とともに崩壊した。
爆発だった。
爆発の閃光が、パリの東部の夜空を一瞬だけ橙色に染め、衝撃波がサン・タントワーヌ通りの窓ガラスを粉々に砕いた。煙が立ち上り、瓦礫が飛散し、近隣の住民が叫び声を上げて通りに飛び出した。
バスティーユ。
旧体制の象徴。絶対王政の暗黒を体現する要塞監獄。史実では1789年7月14日に民衆に襲撃され、フランス革命の象徴的事件となった場所。だが、この時間軸ではバスティーユは襲撃されなかった。パンの値段が下がり、フランが流通し、民衆が飢えなくなったこの世界では、バスティーユを襲撃する理由がなかった。
バスティーユは1795年の今も監獄として機能していた。小規模な犯罪者や、フラン経済圏の規約に違反した密輸業者が、収監されていた。
その東翼が爆破された。
幸い、爆発は深夜だった。東翼には監房がなく、倉庫と管理事務所があるだけだった。怪我人は奇跡的に出なかった。爆発の規模から推定すれば、数十人の死者が出てもおかしくなかった。だが、犯人はあるいは意図的に人のいない区画を選んで爆破していた。
殺すことが目的ではなかった。
メッセージが目的だった。
* * *
翌朝。バスティーユ監獄の現場。
ロベスピエールは、瓦礫の前に立っていた。
冬の朝の冷たい空気の中に、硝煙ともう一つ、奇妙な化学的な臭いが漂っていた。甘く、鋭く、喉の奥を刺す臭い。あの臭い。レザンドリー川の水面に漂っていたのと同じ臭い。
ラヴォアジエが、瓦礫の中から、黄色い結晶の断片を拾い上げた。
「ピクリン酸だ」
51歳の化学者の顔は、蒼白だった。
「ピクリン酸。コールタールから蒸留されるフェノールに、硝酸を反応させて合成する爆薬。もともとは染料として知られている。黄色の染料だ。だが、乾燥させて衝撃を加えれば爆薬になる」
「染料が爆薬になる?」
「そうだ。アニリン合成のプロセスの中間生成物だ。我々の工場で、毎日、大量に生成されている。この結晶は、ルアーブルの工場から流出したものだ。あるいは盗まれたものだ」
ロベスピエールは、黄色い結晶を見つめた。
染料と爆薬。美と暴力。同じ化学物質が、使い方によって、布を染めることも、建物を破壊することもできる。ラヴォアジエの質量保存の法則が、ここでも残酷に機能していた。エネルギーは消えない。形を変えるだけだ。美のエネルギーは、暴力のエネルギーにいつでも変換できる。
「フーシェ」
ロベスピエールが、現場に立ち会っていたフーシェに声をかけた。
蒼白い顔の元物理教師が、瓦礫の隅で、メモを取っていた。フーシェの目は薄い灰色の、爬虫類的な目だった。冷たく、正確で、何も見逃さない目。
「爆破事件の詳細を調べろ。犯人を特定しろ。そして、ピクリン酸がどこから流出したか、経路を追え」
「了解した」
フーシェは、余計なことを言わなかった。頷き、メモを鞄にしまい、現場を離れた。蒼白い影が、瓦礫の間を音もなく滑っていった。
* * *
3日後。フーシェの報告書が届いた。
犯人は特定されていた。
ルアーブルの染料工場の元工員3名。いずれも、アニリンの健康被害で解雇された労働者だった。手が紫色に変色し、慢性的な咳に苦しみ、工場を追われた男たち。
彼らは、工場で働いていた間にアニリン合成プロセスの一部を学んでいた。化学の体系的な教育を受けていたわけではない。だが、毎日の作業の中で、「この液体とこの粉末を混ぜると、こうなる」という経験的な知識を身体で覚えていた。
解雇された後、彼らはパリの貧民街に流れ着いた。工場から持ち出したあるいは、仲間の工員から譲り受けた少量のフェノールと硝酸を使って、地下室で、ピクリン酸を合成した。
爆破の動機は復讐だった。
自分たちを病気にし、追い出し、見捨てた国家への復讐。パンと道路とオペラで民衆を幸福にしながら、工場の中で人間を殺しているシステムへの復讐。バスティーユは、旧体制の象徴ではなく、新体制の象徴として爆破されたのだ。
フーシェの報告書の末尾には、こう記されていた。
「犯人らは逮捕済み。ただし、問題は犯人個人ではない。問題はピクリン酸の合成に必要な原料が、ルアーブルの工場から容易に流出し得るということ、そして、基礎的な化学知識さえあれば、誰でも爆薬を製造できるということである。工場の廃液からフェノールを回収し、薬局で購入可能な硝酸と混合すればピクリン酸は合成できる。この技術は、もはや国家の独占ではない。流出している」
* * *
ロベスピエールは、フーシェの報告書を読み終えた後、長い間動かなかった。
ギロチンなき世界の暴力。
この言葉が、脳の中で反響していた。
5年間をかけて、フランスからギロチンを消した。一滴の血も流さない革命を成し遂げた。恐怖政治を回避した。粛清を回避した。だが、暴力は消えなかった。暴力はヒュドラの首のように形を変えて、再び現れた。
ギロチンの代わりに、化学爆薬。
断頭台の代わりに、バスティーユの壁。
刃の代わりに、ピクリン酸の結晶。
暴力のエネルギーは消えない。形を変えるだけだ。ラヴォアジエの法則が、ここでも冷酷に真実を告げている。
テロリズム。
この時間軸のフランスは、テロリズムという概念をまだ持っていなかった。だが、ロベスピエールの記憶の中には恐怖政治の記憶が鮮明に刻まれていた。テルール。テロルの語源。国家による恐怖の支配。だが、バスティーユの爆破は、国家によるテルールではなかった。国家に対するテルールだった。
方向が逆転している。
恐怖政治では、国家が民衆を恐怖で支配した。今回は、民衆の一部が虐げられた労働者が国家を恐怖で攻撃している。
新たなテロル。
ギロチンなき世界で生まれた、ギロチンに代わる暴力。
* * *
ロベスピエールが内部の危機に直面している頃、ドーヴァー海峡の向こうでは別の動きが始まっていた。
ロンドン。ダウニング街十番地。3月。
ウィリアム・ピット首相の執務室には、フランスからの報告書が今度は歓迎すべき内容を伴って積み上げられていた。
「レザンドリー川の汚染。工員の健康被害。データの改ざん。そしてバスティーユの爆破」
ピットが、報告書を一枚一枚めくった。35歳の首相の顔に、久しぶりの笑みが浮かんでいた。だが、それは喜びの笑みではなかった。獲物の弱点を見つけた猟犬の笑みだった。
「ついに、ほころびが見えた」
ピットの向かいに座っているのは、外務大臣ウィリアム・グレンヴィル男爵だった。45歳。ピットの従兄弟であり、最も信頼される閣僚。
「首相。このフランスの内部問題を、どう利用しますか」
「利用?いいや、グレンヴィル。利用するのではない。増幅させるのだ」
ピットが立ち上がり、壁の世界地図の前に歩み寄った。
「フランスの強さは我々がこの5年間、苦しみ抜いて学んだように経済力と技術力だ。フランの支配力。道路網の効率。科学技術の優位。軍事力ではなく、経済力で、フランスはヨーロッパを征服した」
「はい」
「だが、その経済力の中核にあるのがあの忌々しい染料だ。アニリン。モーブ。フランスの産業革命の心臓部。その心臓部が、今、フランスを内部から蝕んでいる。公害と健康被害と、技術の流出。そしてテロリズム」
ピットが、地図のフランスを指で叩いた。
「ロベスピエールは天才だ。あの男は、我々が軍事力で対抗しようとしたときには、まったく隙がなかった。だが、今彼のシステムに亀裂が入っている。亀裂から崩壊させることは難しい。だが、亀裂を利用して同盟を組むことはできる」
「対フランス同盟ですか」
「そうだ。5年前に失敗した対フランス大同盟の、再結成だ」
グレンヴィルが、眉を顰めた。
「5年前とは状況が異なります。オーストリアは不可侵条約に縛られ、プロイセンはポーランド分割に夢中で、教皇庁はフラン経済圏に組み込まれ、マルタ騎士団はフランスの海上税関になっている。同盟の相手がいません」
「相手はいる。フランスの内部崩壊が彼らの目を覚ますのだ」
ピットが、ロンドンのエージェントが入手したデムーランの記事のフランス語原文のコピーをグレンヴィルに手渡した。
「これをウィーンに送れ。ベルリンに送れ。マドリードに送れ。サンクトペテルブルクに送れ。すべてのヨーロッパの宮廷に、フランスの内部崩壊の証拠を送りつけろ。『見よ、フランスの革命の正体を。華やかな芸術祭の裏で、川が死に、労働者が倒れ、監獄が爆破されている。これが、フランスが世界に輸出しようとしている文明の真の姿だ』と」
「プロパガンダですか」
「プロパガンダではない。事実だ。事実はプロパガンダよりも強力だ」
ピットが、窓際に歩み寄った。テムズ川が、霧の中に見える。テムズ川もまた、工場排水で汚染されている。だが、今はそれは問題ではない。今の問題は、フランスの弱点を突くことだ。
「グレンヴィル。ウィーンのフランツ二世に、こう伝えろ。『フランスの不可侵条約の裏側で、フランスの産業が公害を撒き散らし、テロリズムを生んでいる。フランスの経済システムは、ヨーロッパの安全に対する脅威だ。不可侵条約の前提が崩れている』と」
「前提が崩れている、と」
「タレーランがウィーンで不可侵条約を結んだとき、『フランスは革命を輸出しない』と約束した。だが、フランスが輸出しているのは革命ではなく公害だ。レザンドリー川の廃水は、やがてセーヌ川に流れ、セーヌ川から海に流れ、海流に乗ってヨーロッパの海岸に漂着する。公害は、国境を越える。関税では止められない。不可侵条約では防げない」
「フランスの公害がヨーロッパに脅威を与えている、という論理で、不可侵条約の破棄を正当化する」
「正当化するのではない。正当化される状況を作るのだ」
ピットの目が、鋭く光った。
「フランスが内部崩壊を食い止めようと苦闘している間に我々は、外部から圧力をかける。内と外、同時に攻める。フランスのシステムが二正面作戦に耐えられるかどうか試す」
グレンヴィルは、数秒間沈黙した。それから、頷いた。
「外交文書の起草に取りかかります。ウィーン、ベルリン、マドリード、サンクトペテルブルク全方面への同時発信」
「急げ。ロベスピエールが内部の問題を解決する前に包囲網を完成させなければならない。あの男は問題を解決する速度が、異常に速い。時間との競争だ」
* * *
3月。パリ。ロベスピエールの執務室。深夜。
机の上に、3つの報告書が並んでいた。
一つ目。ダントンの右院調査委員会の中間報告。ルアーブルの公害の全容と、被害者の数。死者4名。重症者16名。軽症者50名以上。レザンドリー川の生態系の壊滅。
二つ目。フーシェの極秘報告。バスティーユ爆破事件の犯人の供述。ピクリン酸の合成経路。そして、フーシェが独自に探知した情報。「同様の化学知識を持つ元工員が、パリ市内に少なくとも12名存在する。彼らが連携すれば、バスティーユ以上の規模の爆発を、複数の地点で、同時に起こすことが可能」
三つ目。タレーランの外交報告。「ロンドンのピット首相が、デムーランの記事のコピーをヨーロッパ各国の宮廷に配布している。対フランス同盟の再結成を呼びかけている可能性が極めて高い。ウィーンのフランツ二世は態度を保留しているが、プロイセンのフリードリヒ・ヴィルヘルム二世は関心を示している模様」
内からの腐敗と暴力。
外からの包囲網。
二つの脅威が、同時に、フランスを締めつけようとしている。
ロベスピエールは、三つの報告書を扇状に机の上に並べた。
そして蝋燭の炎を見つめた。
断頭台の記憶が、蘇った。砕けた顎。包帯の痛み。群衆の罵声。ギロチンの刃が陽光を受けて光る瞬間。あの記憶が、ロベスピエールの判断力の根底にある。あの記憶が、「一滴の血も流さない」という誓いを支えている。
だが今、その誓いが試されている。
公害を放置すれば、民衆が暴動を起こす。暴動を鎮圧するには暴力が必要になる。暴力が暴力を呼び恐怖政治が始まる。
テロリズムを放置すれば、爆破事件が連鎖する。国家の威信が失墜し、秩序が崩壊する。
包囲網を放置すれば、ヨーロッパ諸国がフランスに軍事介入する。軍事介入に対抗するには軍隊が必要になる。ナポレオンが待ちに待った機会を得る。
すべてが同時に崩壊しようとしている。
ロベスピエールは、蝋燭の炎を見つめながら計算した。
内部の問題と外部の問題を、別々に対処すれば時間が足りない。ピットが言った通り、二正面作戦は困難だ。
だがもし。
もし、内部の問題と外部の問題を一つの解決策で同時に片づけることができたら?
一つの問題を解決すると同時に、もう一つの問題の前提を破壊する。二つの脅威を、一つのアルゴリズムで、同時に無力化する。
ロベスピエールの脳が凄まじい速度で回転し始めた。
蝋燭の炎が揺れた。窓の外のパリが、ガス灯の光に沈んでいる。どこかで犬が吠えている。セーヌ川の水面が、冬の月を映している。
数分が経った。
あるいは、数時間が経ったのかもしれない。
ロベスピエールは、ペンを取った。
白い紙に、一語を書いた。
「公開」
その一語の周囲に、矢印と数式が、蜘蛛の巣のように広がっていった。
アルゴリズムの設計が、始まっていた。




