表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/52

続・阿呆烏

「あ、今夜もか」

 からすてん黒峰くろみねは、そっと長屋の扉を開けた。

 閉めたはずの扉のカギが外れている。

 ということは、あの方があがりこんでいるということだ。


 6畳の和室に行くと、女ぬらりひょんの主楽入ぬらりくらりが、しき布団ぶとんに寝そべって『銭形ぜにがたへい捕物とりものひかえ』を読んでいた。

「クロ、夜の巡回、ご苦労であったな」

「恐縮です」

 一応かしこまってから、

「そんなにこの家が心地よいのですか?」

「おう。余計なものがなくて落ち着く」

 そこで、くらりは読んでいた本を置き、

「このまま、ここに住み着きたいぐらいだ」

「えっ……」

「はは、冗談だ。本気にするな、阿保あほがらす

 黒峰の顔を見て、からかうように笑った。


 *   *   *   *   *


 主楽入ぬらりくらりは現・みなみ魔地まちぎょうしょのおぎょうであり、黒峰くろみねとは主人と家来の関係にあたる。

 その関係が、あわや男女のそれになりかけたことは『阿保あほがらす』でも書いたが、それ以来、くらりは週に2~3日ほど黒峰の長屋に来ては、こうしてくつろいでいるのだ。

 最初こそ困惑していた黒峰も、

「なぁに、おまえをからかうのがおもしろくて、つい来てしまうのだ」

 これまでの関係を崩さないためのくらりの気遣いを察して、こばまないでいる。

 実際、あの夜以外で、くらりが黒峰にからだをゆだねたことは一度もない。

 ただ、いつもそでをだらしなく着ているので、目のやり場には困っているが……。


 黒峰が巡回の報告をすると、

「そういえば、きょう、あたらしい魔廻まわりがあいさつに来たぞ」

魔廻まわりがですか?」

 おもわずき返してしまった。

魔廻まわりなら、その地区の親分のところへあいさつをしに行くべきでは?」

「ふつうはな。だが――」

「だが?」

「あやつらは生まれも育ちも、ちと特殊でな。そのことをおれに知らせるために、わざわざぎょうしょまで来てくれたのだ」

「あやつら? ひとりではないのですか?」

「来たのはふたりだ。ある意味、ひとりと言えんこともないがな」

「?」

「まぁ、そのうち会うだろうから、たのしみにしておけ。ところで、クロよ。おまえ、たしか、あしたは非番だったな」

「はい」

「じつはな、父上が京都のうまい酒を送ってきてくれたのだ」

 くらりの父・ひょうろうはお奉行の座を娘に譲ったあと、家来ふたりと日本全国を漫遊まんゆうしているのだ。

「おまえにくれてやる」

「お気持ちはうれしいですが、せっかく飄四郎さまが送ってくれたのです。わたしではなく、くらりさまが――」」

「少し前から、おれはブランデー派だ。家来ならそれぐらい知っておけ」

「…………」

「おっと、もうこんな時間だ。あしたも仕事があるので、おれは帰らせてもらうぞ」

 そして、くらりは立ちあがりながら、

「クロ、酔うのは勝手だが、裸で外には出るなよ」

 再度からかうように笑うのだった。


 くらりが長屋を出たあと、黒峰は居間にむかった。

 テーブルには名酒と名高い迦楼羅(かるら)のギフトボックスが置かれている。

「ブランデーなんて、飲んだことないくせに」

 くらりが日本酒一筋なのは、黒峰どころか家来みんなが知っている。

 本当は自分だって飲みたいだろうに、それを我慢して黒峰に譲ってくれたのだ。

「ありがとう、りっちゃん」

 せっかくの名酒だ。どうせなら、うまいさかなも欲しい。

「たしか牛肉と舞茸まいたけがあったはず。バターと醤油でいためるか」

 そうひとりごちながら、黒峰は冷蔵庫を開けるのだった。

 

(続・阿保烏・完)

 





これからもゴクハナのエピソードは投稿していく予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ