表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/43

飲み屋の花子さん 6

東浄(とうじょう)(いち)()

 不意に名前を呼ばれて、(ゆび)(つめ)大橋(おおはし)をわたっていた一華はうしろを振り返った。

「え……御手洗(みたらい)くん?」

 自分を呼んだのは5メートルほど手前にいる極導きわみちだった。ほかに人のすがたはない。

「どうしたの、こんな時間に?」

「どうしてもあなたに会いたくてね」

 目を細めた極導がニコニコしながら、こちらに歩いてくる。

「あなたが、この時間にここを通るのはわかっていましたよ。なんせ、毎日、川のなかから見てましたからね」

「え?」

「彼氏といっしょだったもんだから、帰りが遅くなるかもしれないと思ってたんですが、こうしていつもの時間に会えて、うれしいですよ」

「彼氏って、おるるのこと? ちがうの、あの人は――」

「そこのあぱーとに住んでるのも知ってますよ。その歳で一人暮らしとはなかなか立派なもんです。けど、いくら家賃が安いとはいえ、こんな物騒な場所で暮らすのはやめといたほうがいいですぜ。あっしみたいなのに襲われますからね」

 極導がクククと笑った。

「ちがう……あなたは御手洗(みたらい)くんじゃない」

「ほう、わかりますかい」

「だれ? あなたは一体だれなの?」

「名乗るほどのもんじゃねえ。ただの外道ですよ」

 そう言って、極導のすがたをした外道は、いきなり一華の手首をつかんだ。

「きゃあっ!」

「きょうは殺してから犯すって決めてたんだ。いっしょに来てもらいますぜ」

 外道は一華を抱きかかえると、軽々と橋の欄干(らんかん)を飛び越え、そのまま川へ落下した。


 *   *   *   *   *


 指詰川(ゆびづめがわ)に落ちると、流兵衛りゅうべえはわざと(いち)()のからだから手を離した。

 見る見るうちに一華が下流へ流されてゆく。

 このまま(おぼ)れるもよし。岸に()いあがったところを絞殺するもよし。

 流兵衛はからだを水に変え、一華の命の行方(ゆくえ)を見物することにした。


 一華は必死に泳いだ。

 服を着たまま、全身で黒い水を切り裂き、岸に向かって泳いだ。

 泳いで、泳いで、泳いで――やっと浅瀬にたどり着いた。

 なんとか岸にたどりついたものの、その時点で一華の体力はつきかけていた。

 逃げようとしても立ちあがることができず、助けを求める声も出せない。

(仕上げといくか)

 流兵衛はかわうそのすがたに化けると、岸にあがり、ずぶぬれの一華の首に手をかけた。

 ぐっと指に力をこめる。

 のどが絞まり、一華が大きく口を開けた。

「たす……け……」

 ふり絞って出した声が、川の流れに掻き消される。

(これで終わりだ)

 流兵衛はさらに指に力をこめた。


(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ