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親戚と久々にあった時の空気感

すこーし真面目な回かもしれないやつ

「おかえりなさいませ、お嬢様」


「ただいま、爺や!」


 "わあ、貴族のやり取りを絵に描いたようだね!"


 そんな感想を持ったのは、エファちゃんに連れられてお家、もとい豪邸にやってきた今しがたのこと。

(エファちゃんの中で)話が決まってすぐ、それでも遠慮しようとした俺だったのだが。

 いいからいいから、とエファちゃんが何か呪文を唱えたと思うと周囲が歪み、俺は気がついたらだだっ広いメインホールらしき場所に立っていた。

 視界に飛び込む十数箇所の扉、更には人が横に10人は手を伸ばして広がれそうな階段。どこを見てもなんか高そうな壺やらシャンデリアやらがある。


"とんでもねぇところに来ちまったよ。てかここ、豪邸というより、城?"


俺が本当に来ていい場所なのか?場違いじゃないか?と考えていると。


「おや?貴方さまは……」


 爺やと呼ばれていた燕尾服を着た精悍(せいかん)な顔つきの初老の男性と目が合い、咄嗟に挨拶する。


「あえっ!?いやあの、逆鏡響也(さかがみきょうや)と申します!すみません、急にご厄介になる流れになりましてっ!」


 なんだろう、意味もなく動揺してしまう。執事さんから妙な力強さのようなものを感じるからだろうか?だが、そんな俺に対し、爺やさんは朗らかに笑う。


「いえいえ、構いませんよ。(わたくし)の名はガウス、当家の執事でございます。何かありましたらご気軽にお申し付けください」


「あっ、はい!これはこれはどうもご丁寧に」


 ぺこぺこと頭を下げる。現代日本人の習性ここに極まれり。

 そんな俺を見てくすくすと笑うエファちゃんが、パンと手をたたくと、先ほどの女性二人組が音もなく現れた。


「さぁ、シャエル、リスタ?貴女たちもご挨拶よ!」


 どこかテンション高めで、自慢げに胸を張るエファちゃん。だが、対照的に二人の挨拶は


「……シャエルです」

「……リスタだ」


 の一言のみだった。ちなみにシャエルさんが目つきの鋭い髪の短い方で、リスタさんが腰まで髪を伸ばしている柔和な顔つきの方である。雰囲気と話し方が対象的な方々のようだ。


 だが、そんなことより。

 

 どちらも真顔。まるで表情が凍りついてるかのような2人である。いきなり押しかけるような形になってしまっている以上、そりゃ全員が全員にこやかにはいかないよなぁとは思うものの、もはやそういう次元ではないくらいに真顔なのだ。


「えと、逆鏡響也です。よろしくお願いします」


 三人、ほぼ同時にぺこりと礼をする。


「「「…………」」」


 無言。何も始まらない。空気が凍ったような時間が過ぎていく。だが、そんな空気を打ち破ったのは、やはりエファちゃんだった。


「いいわ。二人とももう行きなさい」


「「はっ!では、失礼いたします」」


 どこか冷たいような口調で命じたエファちゃんに対して礼をしたのち、散!という言葉がぴったりな素早さでいなくなる二人。もしかして何か俺、やらかしたのだろうか。


「キョウヤ様、お気になさらず。アレは、いつものことなのです」


 ガウスさんはそう言いいながら、エファちゃんにどこか憐れむような視線を向ける。

 エファちゃんは、どこか悲しい目をしているように見えた。



 ――――――――――――――――――――


「ここがキョウヤ様の部屋でございます。夕食時にはお嬢様がどうしてもご自身でお呼びに来るということでしたので、暫しお待ちください」


「わかりました。何から何まで、ありがとうございます」


 あの妙な空気感漂う挨拶の後、エファちゃんはガウスさんにいくつか指示のようなものを与えると、着替えてきますね、と部屋に行ってしまった。

 俺はどこか重い雰囲気を纏うエファちゃんに何か声をかけることも出来ず、ガウスさんに連れられて自分が借りることになる部屋にきている。


 部屋は十二畳はある広さで、やたら高そうなベットと、これまた高そうな装飾付きの本棚、ステンドグラスで彩られた窓、あとはどうみても本物の宝石付きのテーブルが置いてある。あるのだが、なんというか、あれだ。


(……全部慎重に使わせてもらおう)


 俺が硬く心に決めていると、ガウスさんが先ほどの件ですが、と。どこかいい(はばかる)るような表情で語り始めた。


「先ほどの件は、あの二人に変わって私がお詫び申し上げます。というのも、あの二人は。少々、心を病んでしまっているのです。今後意思疎通に難があるかもしれませぬが、何卒ご容赦ください」


 スッと頭を下げてくるガウスさん。いや待ってくれ。


「いやいや、頭をあげてください。突然押しかける形になってしまってこちらこそ申し訳ないんですから!」


「キョウヤ様、それは本当に構わないことなのです。寧ろ、感謝を申し上げたいほどでして」


「いやあの、感謝って。いきなりわけわからない男が押しかけたのに……」


 突然わけわからない状況に放り出され、助けてもらったのはあくまでも俺なのだ。しかも、こんな立派な部屋まで貸してもらって。

 二転三転する状況だったゆえ、勢いに乗ってここに来てしまったが。こんなに良くしてもらえる理由も、エファちゃんがいい子だという理由をのぞいても正直わからない。

 こちらが感謝こそすれど、感謝してもらえることなんてまだ何もしていないのに。


 そう伝えると、ガウスさんはふと微笑み俺の手を取って再度、頭を下げた。


「キョウヤ様。お嬢様にとって、貴方様との出会いこそ救いなのです。今はお分かりにならないとは思いますが、何卒。何卒お嬢様と仲良くしていただけますよう。お願い申し上げます」


「…………はい」


 真摯なガウスさんの瞳を受け、俺はただ頷くことしかできなかった。



 ――――――――――――――――――――

 あれから。ガウスさんは一通り部屋の設備の説明をしてくれたあと、部屋を出ていった。


 俺はといえば、言われたことの意味がよくわからず考え込んでいたのだが。思い当たる節がやっぱりないため一旦考えることをやめ、所持品の整理をしていた。


「腕時計はやっぱり動かないなぁ。あと、不思議とスマホの電源も減らないし……」


 電源が減らない。だがアプリの起動はできる。写真も撮れるし動画も無事撮れるし再生できるのだが、なぜか時計はこちらにきた時間のまま。

 インターネットには流石に繋がらなかったが、アプリにオフライン保存していたビジネス書や趣味の本とかは読むことができた。

 ついでに言えば機種変更の時に大容量モデルが安売りだったため、音楽や映画なども調子に乗って結構買っていたりした。そのため、娯楽には暫く事欠かなそうではあった。


「残念だけどこの世界の本、読めないもんなぁ」


 チラと部屋にある本棚を見る。ガウスさんから説明を受ける際、ビビりながら高そうな装飾付きの戸を開け、何冊か手に取ってみたのだが文字は理解できない。元の世界風に言えばアラビア文字のようなものにしか見えないためだ。言葉は通じるのになんでだろうか。


「あとは、と」


 スーツの裏ポケットに入っていた物を出す。ポケットティッシュ、ハンカチ、レザーの手帳。

 あとは、あとは……!?


「あれっ!?そういや鞄がねぇ!」


 会社のパソコンやら資料が入っていたはずの鞄が無い。まずい、どこかで落としたか!?


「なんで気が付かなかったんだ!?いや、色々あったとは言えさぁ!」


 ガーっと頭をかきむしりながら、ベットに思わず倒れ込んでしまう。


 アレがないと会社に迷惑を……


 迷惑を…?


「……とりあえず、もういっか。考えるのよそう」


 色々あったとはいえブッチした身分でいえたことではないが、会社とか世間体とか迷惑とか、今考えても仕方ない。色々とどうかとは思うが。

 そんなことが頭の中でぐるぐるする中、結構疲れていたようで、段々意識が遠くなっていく。

 ふと窓の方を見ると、夜になりつつあるようだ。そりゃあ眠くもなるだろう。でも。


「でも、まずぃなぁ。エファちゃんが呼びにく……る…」


 意識が薄れる。どこか遠くでコンコンというノックの音が聞こえるが、今は答える気力もなく。


 俺は微睡の中に、落ちてしまっていた。



 ――――――――――――――――――――



「キョウヤさん?」


 ノックしても声をかけても返事がない。ふとドアノブをまわしてみると鍵が開いているため部屋に入ってみる。


(あ、いた。ありゃ、寝てますね……)


ベットに寝ているキョウヤさんがいた。

せっかく招いたのに使用人に呼びに行かせるのは面白くないと思い、自分で呼びに来ると決めていたのだが。彼はどうやら寝てしまったらしい。


「キョウヤさーん、ご飯ですよ」


 彼の前に回って声をかけるものの、ぐごごと構わずにいびきをかいている。どうやらとんでもなく疲れていたようだ。

 今なら何しても起きないほどの熟睡だろう。だからなんとなく、なんとなくベットの横に並んで寝てみる。


「………キョウヤさん」


 ふと、呟いてしまう。今日起きたこと、私にとっては奇跡に等しい出会い。


「私を、―――――さいね?」


 それは、誰の耳に残ることもなく。宙に溶けた。

最後の伏字はエファリアの秘密なのでまだなーいしょ。内緒!

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