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62話

 大体2週間くらい。けれど、アリアさんは初めて会った頃のように私以外の他の冒険者の前では寡黙で、周りもそんなアリアさんに積極的に声を掛けようとすることはなかった。

 それでも私とは普通に喋ってくれるし、道中で出てくるモンスターは森での襲撃に比べれば大したこともない。気まずさは全く感じていなかった。


「………潮の香りがしてきたわね」

「え?………あ、ほんとだ」


 アリアさんの言葉通り、ほんの少しだけ海特有の潮の香りがしてきていた。海が近くなってきたのは私でも分かる。

 アリアさんが一緒の旅路も楽しかったけど、ここからは街での活動。私は冒険者としての仕事もあるし、一緒にいれない時間が増えるのは少し残念だった。


「アリアさんはお祭りは見るんですよね?」

「勿論よ。そのために来たと言ってもいいもの。あなたは?まだお祭りまではしばらくあるし、観光でもするのかしら」

「私は………お仕事ですね。この街でしか経験出来ないような依頼もたくさんありそうですし」

「ふぅん………真面目ね。お金に困っているわけではないでしょう?」

「そう、ですね………」


 正直、今は冒険者の仕事を忘れて観光を楽しむというのも考えたけど………ここには魔法使い連盟の支部もあるみたいだし、活動実績を作っておくに越したことはないと思う。

 冒険者としての経験もまだまだ足りてないしね。


「まぁいいわ。宿を取った後については自由行動だし。でも、依頼で1日空けるようなら先に言って」

「分かりました」


 私が頷くと、アリアさんは同じように頷いて遠くの方に見え始めた大きな時計塔を窓から見つめる。


「それにしても、本当にあなたとの旅は平和そのものね」

「そうですか?………確かに襲撃は少なかったような?」

「そうね。まぁ、この規模の商隊を相手にしたくないから襲ってこなかったのが大半でしょうけど」


 アリアさんの言葉に、私は「なるほど」と納得する。じゃあ安全のためにどこも大人数で旅をしたらいいんじゃ………と思ったけど、その分お金も掛かるだろうし、リスク分散の観点では危険もあるのかも。


「そういえば、エルクさんたちはどれくらいオルムに留まるんですか?」

「さぁね。彼らも彼らの事情があるから、それがどれくらい掛かるかは私にも分からないわ」

「そうなんですね………」


 あのゲートに関係する事情………もしかしなくても、それはゲートを作った何者かに関することなんだろうけど………


「まぁ、私たちは私たちのことを考えればいいの。いいわね」

「分かりました」


 それから少しして、私たちはリーウェナの門をくぐる。街は青い屋根と白い壁で出来た建物が多くて、感じる潮の香りを運ぶ風もあってとても爽やかな雰囲気があった。何より、遠目に見える青い海が光を反射し、私はその光景に目を奪われてしまう。


「綺麗………」

「そうね。お祭りが近いからか活気もあるようだし。暫くは退屈しなさそうじゃないかしら」


 私の呟きにルナが同意する。行きかう人々の数はオルムと比べると遥かに多くて、聞こえてくる人の声もずっと大きい。窓の外から景色を眺めていると、商人さんが声を掛けてきた。


「お疲れさま。リーウェナについたよ」

「あ、はい!ありがとうございました!」


 私は御者席の方に頭を下げてアリアさんと共に馬車を降りる。一緒だった馬車からも冒険者の人たちが降りてきていて、それぞれで今後の予定について話しているみたいだった。


「えっと…………この後は宿を取るんですよね?」

「えぇ。もう当てはあるから着いてきて」

「え?わ、分かりました」


 ………もしかして、アリアさんはここに来たことがあるのかな?いつも通り日傘を差しながら慣れたように歩くアリアさんを見てそう思う、どちらにせよ、宿探しに困らなくていいのは助かるかも。

 でも、まずはこの街の地理に慣れないとすぐに迷いそうだ。


「アリスは?宿を取った後はギルドにいくの?」

「そう、ですね。カードの登録もしなきゃですし」

「エルク達も新しい街へ来たときはいつもそう言ってたわね」


 アリアさんと話しながら私たちは街を歩く。どうやら目指す宿は海の近くにあるみたいで、海へ続く大通りを真っ直ぐに進んでいた。


「アリアさんはこの街に来たことがあるんですか?」

「昔にね。でも、お祭りを見るのは今回が初めてよ」

「10年に一度でしたっけ………この街に来るヴァルヌって、いつも同じ個体なのかな」

「恐らく同一の個体だと言われているわ。確証はないけれど」


 ってことは………凄く長生きなんだろうなぁ。この世界では100歳程度ならそう珍しくもなくて、一部のドラゴンとかに至っては永遠の寿命を持ってるなんて聞いた気がする。ヴァルヌがどうなのかは知らないけど、1000歳はいってたりして。


「仕事に熱心なのはいいけど、お祭り当日は開けておきなさいよ。大体ヴァルヌが来る2日前には街で通達があるはずだから」

「分かりました」

「………あと、ずっと思ってたんだけど」

「?なんですか?」

「いつまで敬語なのよ」

「えっ………」


 私が思わず立ち止まると、アリアさんもやれやれといったような表情を浮かべながら立ち止まって振り返る。


「人付き合いが得意じゃないのは分かっていたから、自然と敬語が抜けるのを待っていたけど………この調子じゃいつになるか分からないもの。その子と話しているときは敬語じゃないんだから、それが素ってわけでもないでしょう?」

「えっと………あー………その、癖というか………うーん………」


 思えば、こっちに来てから殆ど他人にため口を使うことなんてなかった。オルムで子供たちと遊んだときくらいかもしれない。


「まぁ、無理にとは言わないけど。出来ればもっと気軽に話したいと思ってるわ」

「えっと………じゃ、じゃあ、その…………頑張る、ね」

「そうしてくれると嬉しいわ」


 アリアさんは小さな笑みを浮かべて頷くと、再び歩き始めた。敬語じゃなくなるだけでこんなに緊張するなんて………と思いながら私もその後に続く。


「今日からいきなり仕事に出るって訳でもないでしょう?カードの登録には同行するから、終わったらご飯を食べに行きましょう。ここでしか食べられない海産物も多くあることだし」

「あ、うん………」

「ふふ、ぎこちなさが凄いわね。まぁ、そのうち慣れてくれると嬉しいけど………それにしても、まだお祭り前だっていうのに凄い活気ね。寧ろ慌ただしいというべきなのかしら」

「………慌ただしいというか、実際に慌てているような?」


 気付けば街の活気はやや物々しさを感じる喧騒に変わっていて、海のほうへと走っていく人々の姿が多い。そんな人たちを何かあったのかと不安げに見ている人もいて………


「………何かあったのかな?」


 私のそんな疑問に、今まで無言だったルナが私に告げる。


「そうでしょうね。気になるなら行ってみたらいいんじゃないかしら?宿を取るのは今すぐじゃなくても問題ないわ」


 気になると言えば気になるけど………私一人で決めるわけにも行かないし、アリアさんに聞いてみよう。そう思ってアリアさんの方を見たとき、彼女は既に人の群れが向かう方向へと歩き出していた。


「えっ!?い、行くんですか!?」

「あなたも気になるんでしょう?それに、もしかしたら海神祭に関わる事かもしれないし」


 そう言って迷うことなく歩き出したアリアさんに、私も慌ててその後ろ姿を追うのだった。

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