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61話

 あれから5日後のオルムの西門。今日からリーウェナまでお世話になる商隊の馬車は3つで、付き添うのは6人。それなりに腕利きが多いらしくて、今回の旅は安全だろうと商人さんは喜んでいたのが印象的だった。そして荷物もそこそこ多いから、全員で荷物整理を手伝ってそれも終わりようやく出発………そう思っていたとき、馬車の中から一人の少女が顔を出す。


「そっちの作業は終わったかしら?」

「はい、終わりました」


 初めて会った時とは比べるまでもなく、穏やかに声を掛けてきたその少女…………アリアさんに頷く。先に言っておくと、実は今日出立だった商人さんがアリアさんだった訳じゃないよ?

 あの翌日、偶然街で会ったアリアさんも話をして私の次の目的地がリーウェナだと伝えたら、「良かったら一緒に行かない?」と誘われてしまったのだった。

 エルクさん達はいいの?とは勿論聞いたけど………


「彼ら、まだ例の件で調べたいことがあるみたいで暫くここに残るのよ。元々、互いにやりたいことがある中での旅だったから、それに文句はないけれど………折角なら、私もリーウェナのお祭りを見てみたいの。エルク達とは調査が終わったら合流するつもりだから、それまでの護衛と言うことで頼めないかしら?」


 と、アリアさんは言っていた。元々一人は心細いなぁって思ってたし、特に断る理由はないかな、って思って承諾した。


「よし。手伝ってくれて助かったよ。それじゃあ、そろそろ出発するとしようかね」

「はい、分かりました!」


 この商隊を纏める男性の言葉に頷いて、私はアリアさんのいる馬車に入って席に座る。すると、ルナはすぐに私の膝に降りて座り込んだ。この馬車の主な積み荷はオルムで取れた沢山の木材で、魔力を含んだ木材は大型船の建材として凄く価値が高いらしい。

 ………あ、そういえば商売のことで思い出したけど。まだあのSランクモンスターの尻尾の解体も終わってないなあ。と言うか、フォレストドラゴンの素材もまだ手元にあるし。どうにかしたいなぁと思いつつ、いろいろあった末に忘れてしまっていた。

 まぁ、どこのギルドでも売れるからいいけど………折角だし、お肉は自分で調理してみるのもいいかなぁなんて思ったり。


「あの時とは違うけど、また暫くよろしく頼むわ」

「はい、こちらこそ。えっと、リーウェナでの宿はどうするんですか?一応、護衛ってことになってるんですよね?」

「護衛とはいっても殆ど名目よ。彼らもそんな感じだったし、宿は別だったわ。でも、そうね………私が部屋を取るわ。あなたは私と部屋が一緒でも問題ない?」

「えっ、い、いいんですか?」

「えぇ、もちろん」


 正直、誰かとプライベートな空間を共有するなんてこと一度もなかったからちょっと緊張するけど。お泊り会みたいなのに憧れがなかったわけじゃないから、少しだけ楽しみだなって思う気持ちもあった。それに、アリアさんとはゆっくり話せる時間が欲しいなって思ってたし。


「リーウェナまでは大体2週間くらいの旅よ。あなたが今度は何を見せてくれるのか、楽しみね」

「うぇ………そ、その期待には応えられるかどうか………」

「別にそれでもいいわ。あなたは見てるだけで飽きないでしょうから」

「そ、そうですか?」

「えぇ。少なくとも、オルムでのあなたの噂を聞いてるだけでも退屈しなかったわよ?『黒猫の魔女』さん」


 その呼び名、まだ慣れないんだけどなぁ………悪戯っぽく言ったアリアさんは、きっとそれを分かっててわざと言ってるんだろうけど。


「………アリアさんって、ハプニングとか好きなんですか?」

「退屈は嫌いね。流石に誰かが傷付くようなら話は別だけど」

「そうなんですね…………えっと、じゃああの森のことを調べてたのは?」

「あれはエルク達の手伝いよ。私は結構色んな所に顔が利くから、そういうのは得意なの。私も彼らに情はあるし、可能な限り力にはなるつもりだっただけ………でも、そのためにあなたまで巻き込んだのは………正直悪いと思ってるわ。ごめんなさい」


 アリアさんが少し目を剃らして顔を俯ける。もしかしてあの時私にあの事を伝えたのは、エルクさん達の力になれるように私を誘導するためだったのかも………でも、私はそれに対して怒りなんてあるわけもなくて。


「そんなことないです。アリアさんが教えてくれなかったら、もっと被害が広がってたかもしれないですから」


 正直元から他人事気分じゃなかったし、アリアの忠告がないままあの日を迎えていたらもっと酷い事になっていたと思う。

 私が感謝することはあっても、謝られる理由なんてないはず。


「そう………あなたならそう言ってくれると思っていたけどね。ところで、話は変わるけどリーウェナのことについてどれくらい知ってるのかしら?」

「えっ、えーっと………海神祭が近々あって、漁業が盛んで、海に棲むモンスターの素材が出回ってるから色んな団体や組織が集まってる………とかですか?」

「あら、意外と情報は集めてるのね。感心したわ」

「あ、あはは………」


 全部ルナから聞いたなんて言えないよ。ちらりと私の膝に乗るルナに視線を落とすと、「にゃ~」とわざとらしく鳴く。


「そういえば、その猫と話せるんですってね」

「え?あ、そうですね…………そういえば言ってませんでした」

「そうね。まぁ、使い魔なら不思議ではないけど…………話は戻るけど、リーウェナで活動する時は周囲の目には気を付けなさい。色んな人が集まる分、噂になれば騒動は免れないわよ」

「………仕官を持ち掛けられるとかですか?」

「それで済めばいいけど。下手をすれば、多少強引な手段であなたを手中に納めようとする人も現れるかもしれないわ」

「ぇ………」


 今まで聞いた話の中でも一番最悪に近い話かもしれない。モンスターと戦うのならまだしも、人との衝突は………


「まぁ、そういう時は私に相談しなさい。荒事よりはそっちのほうが慣れているもの」

「慣れてる………?」


 人付き合いは苦手って言ってたような………舌戦が得意ってことなのかな?確かにそう言われたらそうっぽさもあるけど。


「まぁ、ね。エルクたちと旅をしている時もそういうのは私がやってたのよ。彼らも冒険者としての実力は本物だもの。そういう手合いに目を付けられることもままあったし」

「………確かに、お二人とも凄く強かったです。エルクさんはCランクと聞きましたけど、試験さえ受ければBランクは確実だと思うんですけど」

「でしょうね。私は暫く街に滞在して試験を受けるのも提案したのよ?けど、彼が自分のために旅を止めるのは嫌だと言って聞かないの」

「あ~………そうだったんですね」


 エルクさんなら確かに言いそうな気がする。というか、私も今は旅を優先してランクアップを止めてるところだっけ。


「そういうあなたはどうなの?とてもDランクで収まる器じゃないでしょう」

「えっと………Cランクへのお話は貰ったんですけど、ちょっと先延ばしにさせてもらってて………」

「あなたもじゃない。あなたは私たちと違って一人なんだから、予定なんて自分で決めれるでしょう?」

「あはは………私、まだ新人気分が抜けてなくて………今のままCランクになっても、上手くやれる気がしないので」

「そう?………まぁ、あなたが言うならそうなのかもね」


 そういって肩を竦めるアリアさん。本当に最初にあったころが嘘のように親しみやすいけど、3人だけの時はいつもこんな感じだったのかな?


「でも、あなたならいつか………向かう先が違っても、私たちの耳に届くくらいの冒険者になれると思うわ」

「そう、でしょうか?………なれたら、嬉しいですね」

「あら、意外ね。目立つのは嫌だというと思ったわ」

「前までなら、そうだったんですけど………私にも、少しだけ目標が出来たので」


 賢者になる………人が未だ成し得たことのない偉業。それを目指すのなら、注目を浴びるのは避けられないのは分かってる。それでも、目指してみたいと思ったから。


「そ………夢があるのはとても良いことね。頑張りなさい」

「はい、ありがとうございます」


 そうして、私たちの旅は始まった。前回より長い旅だし、オルムの周辺は平和だとは言っても離れたらそうもいかない。数日もしたころには、馬車を狙うモンスターの襲撃もあったけど。腕利きの冒険者もいるし、何より街道にドラゴンが出てくるはずもないし。

 ほとんどは接近すら出来ず私の魔法でどうにかできていた。守りやすい結界魔法が得意だったのもあって、危機という危機もないまま旅は一週間が経ったのだった。



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