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60話

 あれから随分と平和になったオルム。大規模な襲撃はもうないけど、護衛の仕事自体は念のためと言うことで残ってはいた。

 ただ、定員もかなり少なめに絞られてどうしてもお金が必要な人向けの依頼みたいな扱いになってるらしくて、元々そっちで困ることがなかった私が定員を埋めるわけにも行かないし…………ってことで、冒険者としての活動はちょっとだけお休みになっていた。そして、冒険者ギルドのサポートの窓口でリーウェナ行きの馬車を探していた。


「近々リーウェナまで向かう馬車はいくつかありますね。やはり海神祭が迫ってきているというのもあるんでしょう」

「海神祭………えっと、じゃあ………3日のうちに出るところは………」

「えーっと………3日はないですね。5日後なら1件、商人からの募集がありますが」


 5日後かぁ……まぁ、急ぎの用事があるわけじゃないからいいんだけど、折角私にとっての課題が見つかったし、早めに街を出たいなぁって思ってたんだけど。


「そんなにお急ぎなんですか?」

「え?あ、いえ………そういうわけじゃないんですけど、あんまり長居し過ぎると旅立つのが辛くなっちゃうので……」

「そうですか…………ギルドマスターはそれを狙ってなるべくここに留まってほしかったようですが、やはりそう思い通りにはいかないみたいですね」


 そんな受付嬢さんの言葉に、私は曖昧な笑みを返す。正直、今の時点でも親しくなったアウルさんやガウスさん、ダインさんに、ここに残るであろうアリアさんたちとの別れは悲しいから。街に愛着まで出来てしまったら、猶更ここを離れづらくなってしまう。


「5日後でよろしければ、ギルドから連絡を入れさせていただきますが」

「あー………はい。じゃあ、よろしくお願いします」

「承知いたしました」


 リーウェナに向かう予定も取れたし、5日後まで何をしようかな………そんな風に考えながら私はギルドを出た。アウルさんとは何度か話してるし、ガウスさんとも会ってるけど………ダインさんとエルクさん達はあの森のゲートに関することで何か気になることでもあるのか、度々あそこの事後調査をしてる街の錬金術師さんたちに同行して何かを調べてるみたい。


「気になること、かぁ………だれが何のためにあんなゲートを作ったのかは確かに気になるけど、エルクさん達が調べる理由は何だろうね」

「さぁね。でも、そういう余計なことに首を突っ込みたがる人間は一定数いるもの。彼らもそういうタイプなんでしょう」

「あ~………そう、なのかな?」


 あれから色々と考えてみたけど、私の中で浮かんだのはこの街………というよりは、この国と敵対する国からの工作かなと思ってみたりしたけど。そんなのちょっと考えてみれば誰でも思いつくよね………他に思いつくことは私にはないけど。


「でも、ゲートが作られてたってことはここを狙ってる人がいるってことだよね………大丈夫なのかな?」

「大丈夫なんじゃないかしら?あれだけ大規模にやったんだもの。警戒だって強まるでしょうし、次にまたここを狙うとしたらかなりのリスクがあるでしょう。これから冒険者の数は減るでしょうけど、今回の件を知った王国が直々に人手を補充する、なんてこともあり得るわね」

「………他の国が関わってるかもしれないから?」

「正解よ」


 そっかぁ………あんまり考えたことなかったけど、やっぱりそういうのってあるんだな………向こうの世界でも無かったわけじゃないけど、私が住んでた国とは全く無縁な話で。遠い場所の話だったから、全然実感もなくて、今の話を聞いても勿論すぐに実感が沸くなんてことはなかった。


「一応、本格的な戦争が起これば冒険者も召集されることはあるわよ?私としては、あなたにそんなことへ関わってほしくはないけれど」

「私も嫌だな………無理だと思う」

「それでいいのよ。強制参加というわけじゃないんだから、もし召集があっても断ればいいの。あなたはこの国に縛られる必要もない冒険者なのだし」


 そうだけど………そういう時、今まで知り合った人たちはどうするんだろう………なんて、心配しても何かできるわけじゃないけど。争いが身近になると、悩むことも増えるんだなぁ。


「だからみんな程々に適当に生きてるのよ。未来のことを考えすぎてもどうしようもないもの。そんな小難しいことを考えるのは一部の偉い人間だけでいいわ」

「適当になれたらなぁって自分でも思うけど、やっぱり癖で考えちゃうんだもん………」

「まぁ、今のあなたには必要な部分もあるからそこはいいわ。いずれその塩梅も身に着けていくでしょう。そうでなきゃ、こっちの世界でも苦しいことばかりになってしまうわよ」

「ん………」


 ルナと話しつつ、私は何となく市場に向かっていた。何か欲しいものがあったわけじゃないけど、宿に帰って何もしないのも勿体ないなぁって。依頼を受けれればいいんだけど、元々ここは平和な領地だったらしくて、依頼もほとんどないし。

 魔法使い連盟の支部がないから、そっちでお仕事をするのも出来ないし………そういえば、リーウェナには連盟の支部はあるのかな?


「勿論あるわよ。リーウェナは数少ない港町の中でも特に発展しているから、海棲の珍しいモンスターの素材が多く出回るの。連盟はもちろん、冒険者ギルド以外のギルドや団体も多く支部を建てているわ」

「………何となく答えは分かってるけど、何でそんなことルナが知ってるの?」

「ふふ、秘密よ」

「だよね………」


 絶対答えてくれないんだろうなぁって思いながら聞いてみたけど。けれど、ちょっとだけ考えたのは………ルナは間違いなく、過去にこの世界にいたんだと思う。というか、そうじゃなきゃこの世界のことを知ってることがおかしいんだけど。

 そして、多分何かの理由があって私がいた世界に来て、そこからうちで飼われていたのかな。うちに来た理由は分からないけど、飼われていたのは大体20年くらい………近年発見されたって言ってたバジレクスや、数年前にルールが変わった連盟の試験のことは知らなかったと考えれば寧ろ納得できるし。


「あら、良い推理ね。探偵も初めてみる?」

「………結局、そこから答えを導き出せないし。探偵にはまだまだかな」

「ふぅん………じゃあ、私の招待も旅をしながら考えてみるのはどう?」

「んー………それもいいけど、結局ルナが何者でも私にとっては大事な家族だから。答えはそんなに重要じゃないかも。知られたくないなら、無理に知る必要はないかなって思ってるけど」

「………そう」


 まぁ、答えが気にならないって意味じゃないけどね。けど、一緒にいてくれれば私はそれでいいや。それよりも………


「………そういえば、リーウェナでの冒険者の依頼って何があるの?海のモンスターを倒すって大変じゃない?」

「そうね。もし海に出てモンスターを倒すという話なら、まず遠距離攻撃が出来る人間じゃないと話にならないと思うわ。だからこそ、連盟が支部を建てて魔法使いを集めているわけでもあるのだけど」

「そうなんだ………」

「とはいえ、モンスターは海にしか現れないわけじゃないわ。でも、せっかくあなたは魔法を使えるんだから、海のモンスターと戦ってみるのもいいと思うわよ?基本的に、そういったモンスターの素材は貴重だから重宝されるし」

「でもそのためには船がいるでしょ?」

「貸出もしているはずよ。それに、商隊の護衛と同じく漁に出る船の護衛を請け負う代わりに、依頼されたモンスターの討伐に協力してもらうように取引をするというやり方もあるわね」

「なるほど………」


 海のモンスターかぁ………遠距離攻撃が出来るとはいっても、やっぱり地上で戦うのとは違うんだろうなぁ。ルナがいるとはいっても、私が自分で使えるのは結界魔法だけだし。守りの結界が得意なのは私らしいなぁと思うけど、賢者を目指すなら色んな魔法が出来ないとダメだろうなぁ………多分座学になるだろうし、魔法使いって大変なんだな。


「言っておくけど、あの結界さえあればあなたは魔法使いとして大成出来るわよ。防御しかできないというなら中堅程度で収まったでしょうけど、散らばった魔力を再利用して術式の再構築と再編集を同時に行い攻撃に転用するなんて、グランドの魔法使いですら出来る芸当じゃないわ」

「………そ、そうなんだ?でも、それってあのルールには入ってないんでしょ?」

「単純な技術の話だから当然よ。けど、あなたのそれは最早人の技ではないの。人類史初といってもいいような革新的な技術と言ってもいいわね。だから私はあなたに可能性を見出したのよ」

「………賢者になれるかもって?」

「えぇ。私の予想すら超えた力を才能だけで見せてくれたんだもの。期待してしまうのも当然でしょう」


 そうなんだ………自分のことになると全く実感が沸かないけど。とにかく、目指すと決めたならがんばろう。その中で、最初の目標だった自分を変えたいって目標も、達成できると思うから。



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