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45話

 私が作った料理を食べた後、ガウスさんは体力回復のためにすぐに眠り始めた。そこまで凝った自覚はないけど、私の出したご飯をみんなが美味しいと言ってくれたのが嬉しかった。

 私のルナを撫でながらぼーっとしてるけど、アウルさんは武器の手入れをしていた。すると、ルナがわたしに声を掛けてくる。


「ねぇ、アリス。今のうちにもう一つのマジックアイテムを鑑定したらどう?」

「もう一つの?…………あっ、忘れてた」


 短剣もそういえば見つけてたね。火籠が便利すぎて、すっかりその存在を忘れていた。

 ルナは肩に移動し、代わりに私は短剣を取り出す。そして、杖を向けて小さく呟く。


「『鑑定』」



――――――――――――――――――――――――――


『疾駆の短剣』

魔道具・C等級

「高純度の風魔石を鍛えた短剣。使用者に疾風の力を与える」


1.魔力を供給することで使用者の速度を上昇させ、遠隔攻撃を1回無効化する風の鎧を纏う。ただし、強力な攻撃は防ぐことが出来ない。


2.魔力が供給されている間、この短剣で斬り付けた部位に風の刃による追撃が発生する。


――――――――――――――――――――――――――



「へぇ。こっちもそれなりの当たりね」

「そ、そうなんだ…………」

「えぇ。あの籠に比べたら雲泥の差といっても良いでしょうけど。それでもCランクの冒険者が1年必死に働いてやっと、くらいの値段かしらね」

「わ、凄い…………でも私には使えないよね、これ…………」

「短剣の時点で分かってたでしょう」


 なんでそんなこと言うの!なんて思いつつ短剣を仕舞う。これは売却かなぁ…………遠隔攻撃を無効化してくれる風の鎧はちょっと惜しいけど………うーん。


「アリス、さっきの鑑定したのか?」

「え?あっ、はい。そうです」

「へぇ、どうだったんだ?」


 アウルさんにもさっきの疾駆の短剣のことを話す。すると、これまた苦笑を浮かべて話し始めた。


「凄いな。アリスは強いだけじゃなくて運もいいのか」

「たまたまですよ…………あ、あの」

「なんだ?」

「アウルさん達はこれからどうするんですか?その…………」

「あぁ…………そこまで心配しなくても大丈夫だ。俺達の事は俺達で何とかするよ。ま、依頼を持ち掛けた時の通り、俺を奴隷にして売るって言うなら従うけどな」

「そ、そんなことしません!」

「ははっ。だろうな。アリスならそう言ってくれると思ってた」


 ガウスさんを助けたいと思ってここまで来たのに、アウルさんに対してそんなことをするなんてあまりにも惨い仕打ちすぎる。ただ、お金の問題はすぐ解決できることでもないと思うけど………


「アリス。他人の事情にあまり踏み込み過ぎるのは良くないわよ。何でもかんでも責任を負おうとするのはやめなさいって言ったでしょう?」

「………」


 ルナの言葉に私は無言で頷く。もう既に個人的な情が出来てしまったのは当然だし、正直これからの事が心配にならない訳じゃないけど。家庭の問題に自分から深入りするのも、それはそれで違うというのは何となく理解できたから。


「………アリスはこれからも旅を続けるのか?」

「えっ、あ、そうですね………まだ旅も始めたばかりなので」

「そうか………正直、オルムに残ってくれたら嬉しかったんだが」

「………そう言っていただけて嬉しいです。でも、まだ沢山やりたいこともあるので」

「だろうな………まだ無理だけど、いつか俺も旅に出たいとは思ってるんだ。諸々の問題を解決して、もし旅の途中でまた再会できたら………その時は、また俺とパーティーを組んでくれるか?」

「そうですね………じゃあ、その時を楽しみにしてます」

「あぁ。約束だ」


 私達は頷き合って、それからは私達もガウスさんが起きた後に備えて休息をとることになった。実際、3時間しか眠れてないし、多少疲れは溜まっていた。

 ガウスさんが動けるようになったとしても万全な状態で戦えるわけじゃないし。私達が守りながら帰らないといけないんだから、今日以上に気を張るのは分かり切った事だった。そうして暫くの睡眠をその小部屋で取っていた私達だけど、このまま後はただ帰るだけ………と思っていたのは、眠っていた私達が同時に目を覚ますまでだった。


「………え?」

「なんだ、今の………」

「――――」


 三者三様の反応を示すけど、多分感じたものは一緒だと思う。肌を刺すような圧倒的な気配。目覚めたばかりの頭が一瞬で覚醒を促されるほどの危機感に苛まれていた。

 そして、ガウスさんとルナは閉じられたドアの方を見て目を見開いている。私とアウルさんはそれが何を意味するかは分からずとも、このダンジョンに何かが現れたのだと言うことだけは理解できていた。


「………最悪ね。やっぱりあなた運が悪いわよ。粛清者が召喚されるなんて」

「え、な、なに?しゅ、粛清………?」

「ダンジョン内で短期間に多数のモンスターが排除された時、稀にダンジョン内に召喚されるモンスターの事よ。ダンジョン攻略の最中で、仮に召喚されてしまえば生存率は限りなく低くなると言われるわ………召喚されるモンスターのランクは最低でもAランク最上位。今の気配からしたら、Sランクは間違いないわね」

「え、Sランク………!?そんなの、どうすればいいの………?」

「粛清者はダンジョンの中から生きた人間が一人残らず居なくなるか、その戦意を消失させれば退去させることが出来るわ。でも、後者は勿論相手を退ける事が出来るくらいの実力があれば………だけど」


 そんなの無理に決まってる。そして、アウルさんにはガウスさんがルナと同じような説明をしていた。それを聞いたアウルさんは青ざめ、私達は顔を見合わせる。


「ど、どう、しますか………?」

「………一度召喚された以上、俺達がここにいる限り奴は消えねぇ。どうにか粛清者の目を掻い潜りながら進むしかないな」


 ガウスさんが苦々しげに呟く。今粛清者が何階層にいるかは――――そう考えていた時、私達は同時に呼吸を止める。ドアの前で何かを擦るような音が聞こえてきたからだ。それは長く、そしてとても小さな音。

 そこで何となく呼ばれたモンスターの種類が分かった。多分、呼ばれたのは蛇型のモンスターだ。けれど、ドアの前を通過しただけで分かる圧倒的な生物としての格差。

 駄目だ。こんなモンスターに見つかっちゃいけない。そう思った私達はただひたすらに息を潜め………ようやくその音と気配が遠のいたのを感じて息を吸った。


「………こうなったらグズグズしていられない。早くこのダンジョンを出るぞ」

「で、でも………」

「怖いのは分かるが、奴が部屋の前を通り過ぎた今がチャンスだ。行くぞ」


 ガウスさんはバックを抱えて立ち上がる。もう動くだけなら問題はなさそうだけど、もし見つかってしまったら………そんな想像をして、私は背中に冷たい汗が走った。


「アリス………こんなことは言いたくないけど、覚悟は決めておきなさい。最悪の事態もあり得るわよ、これ」

「言わないで………」


 私達は可能な限りゆっくりとドアの方へ向かい、アウルさんは震える手でドアを開く。そして、ゆっくりと顔を出して周囲を見ると、ゆっくりと頷いた。

 私達はその後に続いて部屋を出る。Sランクと言うことは、火籠の光も当然見えてしまうだろう。でも、このまま真っ暗闇を進むのも――――


「………」


 身体が動かない。それは魔法を掛けられたとかではなく、突き刺さる殺気のせいだった。暗闇の奥に、いる。私達を見ている。


「………」


 震える手で火籠を掲げ………ゆっくりと火を灯す。照らされた暗闇の中に、黒い体の一部が見えた。長くしなやかで、無数のウロコが光を反射するその身体。私達はそっと顔を上げ………黄金の細い瞳が、私達をはっきりと捉えていた。





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