43話
守り人を倒した後、アウルさんは『強化』を受けたことで「高ランクモンスターとの戦闘経験を得ることが出来るから」と言って率先して現れるモンスターと戦ってくれていた。
Bランクモンスターとも互角………それか上回るほどの力は頼もしくもあるけど、全く何の代償もないって訳じゃないから、しばらくしてその強化は解除することにした。
「………ふぅ。流石に少し疲れたな」
「限界を超えた動きをしていましたからね…………強化の影響で体力の消耗も激しくなっていましたし、もう無理はしないでください」
「分かってる。でも、あの力の代償が体力の消耗程度なんて、ちょっと破格だな」
「い、良いことだと思いますよ………?」
強化魔法系は習った知識だと色んな術式があるけど、必ず何らかの負担を強化される側に掛けてしまうらしい。
ルナのおかげで私は負担が軽い形式の強化でもあんなパワーを出せているけど、強化の中には生命力を削るような邪法まであるってルナが言ってた。
そして、私が魔法のイメージを正確に出来ていなかったら、そうなっていた可能性もある。
「いやまぁそうなんだが…………自分で言うのも何だけど、上を目指していてもまだ俺は平凡なDランク相応の実力しかないし、そんな俺がBランクと単独勝利が出来るのはやっぱりおかしいと思ってな」
「で、でも逆に考えれば、アウルさんは地力を上げるだけでBランクのモンスターと戦えるくらいに技量があるってことじゃないですか?」
「はは、本当にアリスは人を褒めるのが上手いんだな」
少し照れ臭そうにアウルさんは笑みを浮かべる。褒めるのが上手いかどうかは分からないけど、少なくとも人のやる気を奪うよりはずっといいかな、と思う。
返す言葉は見つからなくて、また愛想笑いで誤魔化しちゃったけど。そんな時、また通路にドアを見つけて私達は顔を見合わせた。
「アリス、周囲の警戒を頼む」
「分かりました」
私はアウルさんに頷いて周囲の気配に集中して、アウルさんはドアの方に近付いていく。
すると、肩にいたルナがそっと声を掛けてきた。
「今回の事、あなたは何を思った?」
「…………私は、もっと強くなりたいって思ったよ」
私の心の内は知っているはずだから、こうやって問いかけたのはその再確認なんだろう。
ずっとルナは言っていたけど、強さがないと何も出来ないんだ。自分の意思を通すには、それだけの覚悟が必要だって初めて実感した。
戦うのが怖い、なんて言い訳は取り返しが付かなくなってからじゃ役に立たないんだって。
「そう。その自覚を得ることが出来たなら、ここへ来たのは正解だったわね」
「そう…………だね。でも、まだガウスさんを見つけれてないし」
「…………」
すると、無言でルナはが扉を確認しているアウルさんへ視線を向ける。え?まさか…………
「あれ?鍵は閉まってないはずなんだが、何故か開かないな…………」
「そ、それ、内側から塞がれてるってことじゃ…………」
「…………!」
私の言葉にハッと目を見開くアウルさん。けど、一度自分を一度落ち着かせるように深呼吸した後、ドアを叩く。
「親父!アウルだ!ここにいるのか!?」
扉の奥にそう呼び掛ける。多少抑えているとは言え、声を張ったことでモンスターが寄ってくるかもしれない。そう思った私は周囲の警戒に戻る。
「おい!誰もいないのか!?」
もう一度ドアを叩く音が通路に反響する。内側から塞がってると言うことは、誰かいたのは確実。
仮にガウスさんじゃなかったとしても、取り敢えず確認は絶対にしなきゃいけないと思った、急いでドアの方へ向かう。
「私がドアの向こうにある障害物を退かしてみます」
「あぁ、頼む!」
私はドアに杖を向け、杖の先から細い魔法の糸を出してドアの隙間に通す。まずは障害物の形と大きさを把握するために、その糸でドアを塞いでいる物体の形をなぞっていく。
「長方形………取っ手があるってことはタンス?…………うん。イメージ出来た」
私はもう一度ドアに杖を向け、さっき作ったイメージでそれを念力で退かす。すると、扉の先で重く何かを引きずる音が聞こえてきた。それを聞いた私達は顔を見合わせ、頷く。
「じゃあ、入るぞ」
「…………はい」
アウルさんがゆっくりとドアを開く。火籠に照らされて見えた部屋の中には珍しく朽ち果てたタンスや机などの家具が置かれていたけど、私達は部屋の奥を見て息を飲む。
そこには大柄な一人の男性が大きなバックパックを大事そうに抱えたまま、壁に背を預けてぐったりと座り込んでいたのだから。
「親父ッッ!」
アウルさんがその姿を見て男性に駆け寄る。私は呆気に取られつつ、念のためにドアを閉めてその後に続いた。
「アウルさん!その方が…………」
「親父!親父しっかりしろよ!頼む、頼むから起きてくれ!!」
私の声が聞こえていない様子のアウルさんがガウスさんの肩を揺する。よく見れば、ガウスさんの全身には無数の傷があって、特に脇腹の大きな裂傷で床に大量の血が溜まっていた。
鉄臭いような、そんな臭いに少しだけ体が強張るけど、同時にルナがそっと声を掛けてくる。
「落ち着いて、まだ彼は生きているわ。でも急ぎなさい。既に風前の灯火と言っても過言じゃないわよ」
「っ、アウルさん!まだガウスさんの息があります!急いで治療をするので、少しだけ離れてください!」
「ッ…………すまない、頼む」
アウルさんは固く手を握りしめて、ガウスさんから離れる。そして、今度は私がガウスさんの側に向かい、杖を持って一度目を閉じる。
目蓋の裏でガウスさんの傷が癒えて元通りになるイメージを想起すると、そっと口に出す。
「『癒えよ』」
その言葉と共に、ガウスさんの体を緑色の光が包み込む。変化は一瞬で、大きく裂けてしまっていた脇腹の傷がすぐさま塞がっていき、その他にも全身に刻まれていた様々な傷も同時に消えていく。
「…………」
アウルさんはその様子を無言で見つめつつ、少しだけ赤くなった目元を拭っていた。
何はともあれ、ひとまずの目標は達成出来た。あとはガウスさんの意識が戻ってから考えよう。




