19話
お昼ご飯を食べ終えた頃には、私もすっかりカンシオンに慣れて自然と撫でれるようになっていた。ここまで打ち解けるのはルナも流石に予想外だったのか、少し驚いた様子だ。
「あなた………人よりモンスター相手の方が仲良くなれるんじゃないかしら」
「それって別に嬉しい事じゃないよ………?」
「そうかしら?本気でテイマーを目指すのなら、これ以上ない程素晴らしい才能だと思うわ」
「今は別にその気はないや………」
今はまだ自分の事に手一杯で、モンスターをお世話できるだけの余裕は無いし。それに、テイマーはとても珍しいから、その扱いもあまり良いとは言えないみたい。前の世界にいた頃で考えれば、人が猛獣を連れて街を歩いているようなものだろうし。
「それに、自分のためにモンスターを戦わせるのはあんまり良い気はしないかな」
「………本当に、あなたって損をする性格ね」
ルナは呆れたような、それでも分かっていたように呟く。前にも言われたし、何となく自分でもそうなんだろうなぁって思ってるけど。それに、前も言った通り私はそれでもいい。
今の私は、少なくとも自分を守れるだけの力はルナにもらった。まだ使いこなせているというには程遠いけど、他人に迷惑をかけてばかりの頃とは違う。自分で出来ることは………自分でやらなきゃ。
「クゥ?」
その時、カンシオンが顔を擦り寄せてくる。勿論モンスターの言葉は分からないけど、なんとなく慰めてくれているような気がして、そっとカンシオンを撫で返す。さっきアリアさんが、カンシオンは人の心を感じ取れると言っていたけど、本当なのかもしれないなって思ったり。
「………ふふ。君は優しいね」
「クゥクゥ」
嬉しそうに鳴くカンシオンを見ていたら、テイマーもいいなぁってちょっとだけ思ったりもするけど。やっぱり、この子を戦わせる姿を想像したら凄く申し訳ない気がする。
そして、無言で私とカンシオンを見ていたアリアさんが声を掛けてきた。
「………テイムはしないの?」
「えと……しないです。この子を戦わせるのは可哀想なので………それに、水辺に住むモンスターを育てれる自信はないですし」
「ふぅん………」
アリアさんは意外そうにそれだけ呟く。そんな風にカンシオンと戯れながら、食後の小休憩が終わった頃。商人さんが口を開く。
「そろそろ出発しようか。多分、このペースなら明日にはオルムに着くだろうからね」
その言葉に頷いた私達は立ち上がる。そんな私達を見てカンシオンはここを去るのだと察した様子で、立ち上がった私のローブをそっと咥えて引き留めてくる。
「あっ………えっと………ごめんね。私達、もう行かなきゃいけないんだ」
「クゥ………」
私がそう言うと、カンシオンは寂しそうに鳴く。それでも言いたいことは伝わったのか、そっとローブを放してくれた。けれど、何かを伝えたそうにしていたカンシオンに私は向き合う。分かってあげられるかは分からないけど、その努力はしたいから。
「………」
「………」
そして、しばらくこの子と見つめあっていると、カンシオンの赤い瞳がぼんやりと光を放っている事に気が付いた。何をしようとしているのかと思って口を開こうとしたその時、私の目の前に青い光を放つ何かが現れる。
水晶玉………のようなそれがゆっくりと降りてきて、私はそれを両手を伸ばして受け止める。私の手のひらに収まったそれは、放っていた光が消えてとても美しい水晶のような玉が現れた。
「えっと………ルナ、これなに?」
「………まさか。これは流石に予想できなかったわね」
「え?え?ルナ………?」
ルナが明確に驚いている様子を見るのは初めてだ。あのルナが驚くなんて、これとんでもない物なんじゃ………そして、同じくそれを見ていたアリアさん達にも動揺が走っていた。
「りゅ、龍玉………?」
「………あなた、本当に何者なの?自発的に竜種が人に龍玉を与えるなんて聞いたことが無いわ」
「え?えっと、あ、あの………龍玉って何ですか?」
龍玉が何かは分からないけど、アリアさん達の反応的にやっぱり普通の水晶玉ではないのは分かるけど………そんな私の問いに答えたのはエルクさんだった。
「長い時を生きた竜種は、その中で高まった自らの魔力を込めた特別な石を作ることが出来るんだ。所持しているだけで持ち主の魔力を高め、作り手によって異なる力を持つという。しかし………」
「し、しかし………?」
「龍玉は、竜の永い一生に一度しか精製する事が出来ない。長生きをしている竜を討伐した際、稀に手に入れる事も出来るらしいが………簡単に言えば、とても貴重な魔道具だと言うことだ」
「一生に一度………どうして、そんなものを私に?」
「はは、この中でカンシオンと最も心を通わせたのは君じゃないか。その君が分からないのであれば、俺達が分かるはずがない………が、作られてしまった以上はそれを放置しておくわけにもいかない。受け取っておきなさい」
「………そう、ですか」
こんなものを持ってて良いのかな………なるべく人目に付かないように、空間魔法で暫くは保管しておくことになりそう。貰った物だから、貴重だからって理由で売ったりはしたくないし。
すると、その様子を見ていた商人さんは頭を掻きつつ、困ったように笑顔を浮かべる。
「………期待の新人だとは聞いていたけど、予想以上だよ。短い旅でこんなに面白いものが見れるとは思わなかった。それ、どうするんだい?もし売るつもりがあるのなら、うちの商会で是非買い取らせてもらいたいところだけど。値段は勿論、相応に頑張らせてもらうよ」
「あ、いえ………折角貰った物なので、大事にしたいと思います」
「ふふ。だろうね………そう答える人間でなければ、カンシオンもそれを譲ったりはしないはずだ。しかし、それの取り扱いには気を付けるんだよ。君のランクを考えれば、無理にでも奪おうとする輩は必ず現れるだろうからね」
商人さんの言葉に頷く。そして貰った龍玉をしまうと、私はもう一度カンシオンの方へと振り返った。
「………ありがとう。大事にするね」
「クゥ!」
カンシオンの満足げな声を聞いて、私も笑みを返す。………こうやって、誰かに自然に自然に笑えたのは久し振りかも………相手はモンスターだけど。
ただ、貰うばかりでは流石に申し訳ないから。
「君みたいに、凄い物は贈れないけど………」
私は目を閉じて、重ねた手の中に白い花のアクセサリーを思い浮かべる。私の願いはすぐに形となり、出来上がったそれをカンシオンの角に通してあげる。
「クゥ!!」
「うん。どういたしまして」
カンシオンが喜んでくれたことにホッとしつつ、私達はカンシオンに別れを告げて馬車に入る。出発の直前、やっぱりカンシオンの事が気になってしまった私は窓から外の様子を見たら、まだあの子はこちらをずっと見ていた。その姿に少しだけ寂しいような、申し訳ないような気持ちになってきて小さく「ごめんね」と呟いてしまう。
「そんな風に謝るくらいなら、やっぱりテイムした方が良かったんじゃない?」
「………大丈夫です。これから旅を続けていく上で、こういった別れは一度や二度じゃないと思いますから」
「その通りだね。旅は出会いと別れの連続だ。だからこそ、その一つ一つを忘れないように、大事に覚えておいてあげてほしい。きっと、それが君の為になると思うよ」
「はい………分かりました」
あの龍玉を見るたびに、きっとこれからも私はカンシオンのことを思い出すのだろう。凄く短い間だったけれど、とても心が温かくなった時間だった。ただの憶測だけど、カンシオンは贈り物という形で自分の証を残したかったんだと思う。
そして、一つ聞いてみたいことがあった。
「そ、その…………えっと………アリアさんって、モンスターに詳しいんですか?」
「………えぇ。まぁどちらかと言えば詳しいと思うわ。変?」
「いえ、そんなことないです……………私も、もっと色んな事を知りたいなって思うので」
モンスターは人間の敵。そんな風に聞いていたけど、カンシオンを見ていたら絶対的にそういう訳でも無いと思う。勿論、どんなモンスターとも分かり合えるのは無理だと思うけど。
お互いを知ることで、戦う以外の道だって選べるんじゃないかな。なんて思うのは、私がまだこの世界の事を知らなさ過ぎるからだろうか。
「そ。じゃあ、折角だから私が今まで出会ったモンスターの事を教えてあげるわ。どうせこの旅も明日までだし」
「え?い、いいんですか?」
「知りたいって言う貴女の気持ちは、私も分かるもの。それに、珍しいものを見せてもらったお礼よ」
そう言って、アリアさんは今までの旅で出会ってきた色んなモンスターの話を聞かせてくれた。どういう力を持っていて、どんな生き方をしているのか。
その事を語るアリアさんは今までよりも明らかに饒舌で、雰囲気も和らいでいた。やっぱり、少しだけアリアさんとは仲良くなれたみたい。私はアリアさんの話を聞きながら、その事にも一人喜んでいたのだった。




