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16話:初討伐クエスト(前編)

 能力(スキル)の階級は、基本それほど大きな差はない。他人よりも努力をすれば、上の階級の能力(スキル)を持つ人を抜かすことも可能だ。

 しかし、それは下位三階級の場合のみ。上級の上である特級と超級の上位二階級には、死に物狂いで努力しても抜かせないことが大多数。それも、可能なのは特級や超級に怠けて努力しない者を抜かすことのみ。

 元々の素質を持ちさらに努力の成果を得られる事が早い上位二階級は、基本下位三階級から抜かされることは無い。


「――出来ました。上級ポーションです」


「――――」


 俺は、目の前で起きた光景に言葉を失った。

 リュカの短い詠唱の直後、空瓶の中が一瞬で赤色の液体で満たされ、リュカはコルク栓で手際よく蓋をしていた。


「上級、ポーション……?」


「――? はい」


 上級ポーションとは、普通の治癒ポーションの中では一番位の高いポーションだ。それは、錬金術で生計を立てている人でさえ一時間で一本作ることがやっと。今のリュカの錬成時間では、下級ポーションでさえ作れないはずだ。


「リュカ、それ……本当に上級ポーションなのか……?」


 治癒ポーションは、ハイルの花とコンソラ草の成分を混ぜ合わせて作る。よって、治癒ポーションはハイルの花のピンク色の色素が色濃く出るため、ピンク色をしていることが多い。

 しかし、ハイルの花では安定しない効果をコンソラ草で抑える。つまり、ハイルの花とコンソラ草の比率でポーションの効果も決まる。

 コンソラ草の割合が多ければ色は薄く、少なければ濃い。赤に近いこのポーションは、訊くまでもなく上級ポーションだった。


 それなのに、そう分かっていたはずなのに、俺の口は疑問の言葉を発していた。


「え? ――そうですよ。鑑定してもちゃんと上級ポーションって出てきます」


 見れば分かるであろう俺の質問に、リュカは首を傾げて鑑定をし直した。そしてやはり、その結果は変わらない。見ての通りの、上級ポーションだ。


 ――上位二階級が凄いことは知ってたけど、まさかここまで……? 俺だって懐柔(テイム)は超級だけど、上限が無いってだけでそこまで強いっていう実感はなかった。

 でも、村にいた錬金術師と比べればリュカの規格外さがよく分かる。俺の村にも錬金術の中級を持つ人がいたが、その人が上級ポーションを作るには二時間弱掛かってた。下級ポーションでさえ二十分くらいかかってたんだ。

 なのに、リュカは上級ポーションをたった数秒で――?

 リュカの料理能力(スキル)と同じ超級を持っている俺が言うのもなんだが、上位二階級――チート過ぎじゃないか……?


「リュカ。王宮以外の場所で、その錬金術を使ったことは?」


「王宮以外の場所ですか……いえ、多分ないと思いますよ。僕も最近冒険者になったばかりで、それまではずっと王宮の外に出ることが少なかったですから」


「そうか。なら、今後知らない人の前でその錬金術は使っちゃダメだ。外とか一人の時も、今の錬金術は使わないでくれ」


「え? 別に大丈夫ですけど、何でですか?」


 ――自覚は無いのか?


 俺の今の言葉に、不思議そうな目を向けて首を傾げるリュカ。そんなリュカの様子に、俺の頭にはその言葉だけが浮かんだ。


「リュカの錬金術のスピードは、他の人と比べて断然早い。もしそれを悪い輩に見られたら、リュカを攫ってポーションを作らせ続けようとする可能性があるんだ(容姿も超絶可愛いし)。――だから、信用出来る人がそばにいる時以外、外とか人の目につくようなところで無闇に使っちゃダメ。いい?」


「そうなんですね……分かりました、気をつけます。――でも、アルくんのことは信用してるから、使っても良いですよね!」


 うっ……か、可愛い……


 人差し指を立てて念押しする俺に、リュカはニッコリと微笑んで首を軽く傾けた。


「ま、まぁ……信用してくれてるって言うなら、いいけど……」


「はい! 信用してます!」


 んあぁぁぁぁぁぁぁっ! 何だ!? 俺はツンデレなんかじゃないはずなのに、寧ろ可愛い子に対してはデレデレだったはずなのに、素直にありがとうって言えねぇ……!

 可愛すぎて眩しすぎて、今のリュカの顔を直視することも出来ない……


「きゅー……」


「――ん? どうした、スイ?」


『んーん、別にー』


 リュカの可愛さに悶絶していた俺の横で、スイが項垂れるような声を漏らした。

 そんな声に俺は赤らめた頬を元に戻してスイの方を見るが、スイの方から目を反らされてしまった。


 まぁ、スイもきっとリュカになれていないだけだろう。時間が経てば自ずと仲良くなるだろうし、それまでは様子見だ。


「取り敢えず、今日はもう休もっか。明日はリュカの作ってくれたポーション持って、魔物討伐だ」


「はーい」


 流石王都と言うべきか、この近くにある宿屋はほぼ全て温泉付きらしい。宿泊代も良心的だし、王都というだけあって大凡のものが揃う。


 そうして俺たちは入浴と夕食を済ませ、それぞれのベッドで明日のクエストに備えて就寝し、そのまま朝を迎えて王都の隣にある森に再び向かった。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 今日受けたクエストは、ゴブリンの討伐。

 ゴブリンはスライムと同じ最低ランクのF。お互い素手なら十歳くらいでも勝てる。よってゴブリンの討伐は、討伐クエストとしてはかなり報酬も少なく、その上ゴブリンの素材はどれも殆ど金にならない。その為受ける人が殆どいないらしく、受付の人曰く数が多くなっているかもしれないとのこと。


「魔法も使えない腕力も子ども並み。それに加え物理攻撃も魔法攻撃も効くのだから、単体ならスライムの方が微妙に厄介かもしれない。――でも、ゴブリンの厄介なところはその集団性。ゴブリンは十から数十、場合によっては総数百も超す集落を作る。そんな数で一気に押されれば、余程の実力がなければ捌ききれない。絶対に一人になっちゃダメだぞ」


「分かってます。それに、僕は能力(スキル)で全然戦えないので……あの、その、えっと……護って、くれますか……?」


 うぐふっ……か、可愛い……


 顔に手を当てて、俺は頬を赤くしながらそう思った。

 上目遣いで水色の瞳をキラキラと輝かせるリュカに、俺はただただ絶句するしかない。リュカの可愛さは、俺にとってはそれだけの破壊力を持っているのだ。

 こんな可愛くお願いされたんじゃ、否が応でも護り抜かなければならない。


「大丈夫だ。リュカのことは、俺が絶対に護る。だから、リュカも遠慮しないで俺に護られろよ」


「は、はい! でも、成る可く迷惑はかけないようにするので。それでもダメだった時に、助けてください!」


「分かった。なら、ダメだと思った時は直ぐに俺を呼んでな。頑張るのと、無理は違うから」


 リュカの性格はかなり素直で、自分の能力(スキル)のことも含めてちゃんと自身の力を理解している。

 だから、今回のようにしっかりと伝えるべきことを伝えておけば、リュカは過度な無理はしないだろう。もしも危険が迫れば、きっと俺のことを呼んでくれるはずだ。


「まぁ、今回は群れから外れて行動するゴブリンを狙うから大丈夫だと思うけど」


 ゴブリンは、群れで行動する習性があることから、役割分担がしっかりしていることが多い。

 例えば、総数百を超えるの大きな集落を纏めているゴブリンキング。数十レベルならいいところハイゴブリンだろうが、その他にも狩りを主とする弓使いや剣使い、ナワバリ争いがあるのならば魔法を行使する個体などもいるだろう。

 つまり、狩りに出るために集団から外れる個体が必ずいる。複数で狩りをするとしても、五,六体が妥当だ。

 そのくらいの数で、聞いた通りの実力なら、俺もかなり楽に倒せるはずだ。


「――と、早速ゴブリンっぽい足跡見っけ。数からして四体くらいか? まぁこのサイズならハイじゃないだろうし、まず負けないと思うけど、初めての討伐クエストだし一応は気を付けよう」


「はい!」


 うんうん、相変わらず良い返事だ。でももうちょっとその可愛さを抑えて欲しいなぁ。可愛すぎて他のことに集中出来なくなりそうだ……


 そうして地面にある足跡を辿って行くと、狙い通り狩りをしているゴブリンを発見出来た。どうやら、一頭の猪を三体のゴブリンウォーリアで囲んでいるらしい。レッドボアのような魔物でもない猪に三体とは、やはり流石はFランクと言ったところか。


「――よし、先ずはあいつらからだ。スイ、大剣!」


 ――このゴブリン戦で、新しくなった俺の大剣を初めて振るう。国王陛下から紹介されたカルロスさんに造ってもらった大剣……教えて貰った性能を試すのは、今日が初めてだ。


 ――――


「――? スイ? スイ!?」


 スイに呼びかけ、スイが大剣を俺に渡してくれる。これは、俺とスイのいつもの戦い方だ。

 それなのに、スイからの応答が感じられず、大剣が俺に向かって投じられない。そんな非常の事態に辺りを見回すと、そこにスイの影は無かった。


「ス――」


「ギギィッ!」


 姿が見えないスイを探そうとした瞬間、俺の言葉はなんとも耳障りな声に遮られた。


「――チッ、こっちが先か! テメェらに構ってる暇はねぇ!」


 俺の言葉を遮ったのは、猪を囲んでいたゴブリンだ。スイがいないことで取り乱し、大きな声を出した俺に気付いたらしい。

 そうして俺に向かってくるゴブリンを見て、俺は咄嗟に腰に付けていた非常時用の短剣を引き抜いた。


 ――前から三体、ゴブリン相手なら引くまでもない。先ずは正面の先頭を斬って、その後は左右の順に片付けていく。


 ウォーリアらしきゴブリンは、俺の短剣と同じくらいの大きさの剣を片手に持っている。しかし、斬り方を知らないゴブリンたちは玩具を振り回す子どもに等しい。そんな、「持って振る」だけの拙い動きを容易く躱しながら早速一体目の首を裂き、続けて二体目三体目も素早く仕留める。


 思ってた以上に楽に倒すことが出来たが、今の俺にはその余裕はない。早くスイを探さないと――!?


「――()づッ!?」


 ゴブリンを倒しスイを捜しに行こうとした瞬間、俺は突如左肩を走り去った痛みに苦鳴を上げた。

 咄嗟に右手で抑えた左肩に目を向ければ、そこには先の尖ったもので引っ掻かれたような傷跡がついている。しかし、傷は浅く広いものであり剣などで斬られたものではない。


「――矢?」


 ふと足元に視線を落とすと、そこには地面に転がった矢があった。


 もしもこれが俺の肩に傷をつけたものなら、どこかに弓を射った者がいるはず……


「――ッ、アーチャー。ウォーリアだけじゃかかったか!」


 次の攻撃に警戒しながら周囲を見回すと、背の低い木の枝に弓を構えたゴブリンがいた。


 ゴブリンに素早く木に登るほどの技巧はないだろうし、きっとウォーリアを援護するために最初から木にいたのだろう。

 しかし、今のがゴブリンで良かった。ゴブリンの武器は剣にしろ弓にしろ決して立派なものでは無いし、力もないので突き刺さるほど鋭くもない。


「ゴブリンが射る矢なら、俺が投げた方が幾分マシだ――!」


 俺はノロノロと矢をセットするゴブリンを目掛け、地面に落ちていた矢をそこまま投げる。弓ではなく直接腕から放った矢はゴブリンの頭に刺さり、体勢を崩したゴブリンは簡単に木から落ちる。


「俺の邪魔をするな――ッ!」


 木から落ちて悶え苦しむゴブリンの胸を短剣で一突き。するとゴブリンは暫く手足をピクピクと痙攣させ、その後ピタリと動かなくなった。


「リュカ、怪我はないか?」


「あ、はい、大丈夫です! 僕のところには来てません」


 俺の突然の質問に、リュカは呆気に取られていたような顔をハッとさせて頷いた。


「そうか、良かった。――ゴブリンの回収は後回しだ。早くスイを捜すぞ」


「はい、急ぎましょう!」


 地面に四肢を投げ出して倒れるゴブリンを放ったらかし、俺とリュカは走って来た道を引き返した。

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