5話:運命の人
俺の驚きを他所に、執事であるオーダンさんは俺の最初の疑問全てに詳しく答えてくれた。
先ず、ここが王宮であることは間違いないらしい。この建物の中を歩いて見て回った時、至る箇所に王族らしき物品や装飾品が飾られていた。ここは確実に、グレイス王国の国王を初めとした王家一家が住んでいる宮廷である。
オーク討伐からは既に数時間が経ち、俺はこの宮廷で朝を迎えたらしい。
そして次に、スイは無事だが、主本人から直接従魔である確認が取れない以上、一応は魔物として管理しているらしい。また、万が一に備えて大剣もしっかりと王家で保管。オークの死体も同様。
少年の安否は心配するなと言われた後、直ぐにそれも証明されると言われた。
そして最後になったが、俺がここにいた理由。それは、今俺の目の前に在る。
「――アルフェイル・フロンティア、だな?」
「は、はい」
重々しい空気の漂う、広く何とも眩い部屋。そんな部屋の中央に敷かれたレッドカーペットの上で、俺は片膝を付いて心臓をバクバクさせている。
こんな緊張、この世界に来てからはもちろん、前世でも味わったことがない。
でも、こればかりは分かって欲しい。俺の緊張も、決して誇張などではない。だって、だって、だって――、
「私はこの国の王、スティーブン・フォン・グレイスだ」
――だって! 今目の前に、この国の王が座っているのだから!
俺が何故ここにいるかと言うと、時は数分前。
俺は執事のオーダンさんからさっきの説明を受け、そのままここに案内された。何をしに行くも、どうすればいいも、その答えは行けば分かるのみ。さっきまでの丁寧な説明はどうしたのだと、本気でツッコミを入れたくなるほどだった。
そしてそれを我慢して渋々付いてきたら、まさか玉座の間に連れて来られるなんて……!
確かに言われた通り疑問は吹っ飛んだけど、それと一緒に余裕も吹っ飛んで意識も飛びそうだっての……!
「まぁ、そう緊張せずとも良い。余は自分の寛容さには自信がある。悪意のない間違いなど責めぬし、急な上に少々強引だったという自覚もあるからな。どうか落ち着いて話してもらいたい」
そ、そうか。確かに、少しでも失礼の内容にとは思ったが、相手はこの大国の王。王都の雰囲気や活気を見れば、それらを統べる者がどれほどの器なのか一目瞭然。俺のいた集落の待遇についても国民への配慮が感じられるし、あんな辺境の地までしっかりと管理しているこの国の王なら確かにそんな理不尽はしないだろう。
まだまだ重々しい雰囲気ではあるが、少しは気持ちも楽になった。
「お気遣いありがとうございます。それで、今回はどのようなご要件でしょうか……?」
「うむ、そうじゃな。先ずは其方と会わせたい者がおる。――呼んでくれ」
「承知致しました」
部屋の奥の玉座に座る国王は、俺の問に右手を上げて合図をした。すると直ぐ隣にいる執事は、速やかに部屋の外へと向かう。
王の隣に立っていたのは、俺に色々と話をしてここまで連れて来てくれたオーダンさんだ。この国の王のすぐ隣に立てるあの人は、この王宮の使用人の中でも一番信頼されている人なのだろう。
「お連れしました。――ルーカス様、こちらへ」
「は、はい……」
「――! 君は!」
暫くして戻って来た執事の後ろには、少しオドオドしている少年の姿がある。そしてその内気そうな彼が、森の中でオークに襲われていたあの少年だ。
「あ、あの……昨日はどうも、ありがとうございました」
「い、いや……大丈夫そうで良かったよ。君もここに連れて来られたの?」
「あ、いえ。そういう訳ではなく……」
内気なのか王様の前で緊張しているのか、どうも歯切れの悪い様子だ。さっきの俺もこんな感じだったのだろうか。
「アルフェイルよ。昨日はオークに襲われたルーカスを助けてくれたようだな。今日は、その事について感謝と謝罪をしたかったのだ。先ず、我が息子ルーカスを助けてくれてありがとう。そして、その戦闘では怪我をさせてすまなかった」
「――――――――――」
――ん? 感謝に謝罪と、我が息子……?
え……てことは、この愛らしい男の子は……
「ぼ、僕はルーカス・フォン・グレイス。グレイス家の三男です……」
「――え、えええええええぇぇぇ!?!?」
会話があっても静かだったその部屋の空気は、今の俺の発狂によりぶち壊された。ヤバいと思って慌てて口を塞いだが、時すでに遅しだ。
「あ、えっと……すみません。それと、ルーカス……様。王家の方とは知らず無礼な態度、大変申し訳ございませんでした……!」
「あ、い、いえ! 気にしないでください! 僕も言ってなかったですし、仕方ないことです!」
「ルーカスの言う通りだ。今回の件、今の発狂も言葉遣いも、其方の落ち度ではない。気にせずとも、其方には何の処罰もないから安心したまえ」
よ、良かったぁ……
まさかこの子が王家の三男とは。
綺麗な薄い金髪に、サラサラツヤツヤな髪。身長は俺と比べてもかなり低く、百四十センチ強といったところだろうか。そんな低身長と合わせたスリムな体型は、絶対に抱きしめやすいと断言しよう。それに水色の瞳がキラキラと輝いていて、これぞ童顔といった感じだ。
オーク討伐の後に絶対仲良くなろうと思っていたこの少年が、まさか王家の子どもだなんて。下手に手を出す前に気絶していて本当によかった。
「それはそうと、今日はもう一つ、其方に訊きたいことがある」
「は、はい! な、何でしょう……?」
目の前のルーカス様に見惚れていた時に国王から声をかけられ、俺は焦って少し大きな声を出してしまった。
まぁそれはそうと、国王が俺に訊きたいこと……これは絶対に嘘は付けないな。何を訊かれるかは分からないが、もしバレた時に只事では済みそうもない。
「これは其方の本音を聞きたいのだが、ルーカスと一緒にパーティを組んでくれる気は無いか?」
「――え?」
両手の指を絡めてその手で口を隠し、若干前のめりになった国王。その真剣な眼差しに圧倒され、聞こえた内容が唐突だったのもあり、俺は間抜けな声を漏らしてしまった。
「ルーカスと、冒険者のパーティを組んでくれないか?」
ルーカス……様と、冒険者のパーティ?
「え? いやいやいや! 俺……じゃなくて私は、まだまだ駆け出しのGランク冒険者ですよ!?」
「うむ、やはりそうか。――いや、当然の反応じゃな」
「――?」
慌てて首を振る俺に、国王は何とも言えない表情と態度。何か事ありげな国王の言動に、俺は首を傾げた。
「いやな、実は今までも何回か募集をかけているのだ。しかし、高ランクのパーティは高難易度のクエストを行うためルーカスのような子どもは入れられない。逆に低ランクだと、いざと言う時の不安があるためやはり遠慮される」
確かに、高ランクの言うことも低ランクの言うことも正にその通りだ。見たところ年齢は十二歳ほどだろうし、高ランクパーティの冒険には着いていけないだろう。しかし、国王のご子息だ。低ランクパーティや子どものパーティでは、昨日のような突然の魔物の襲撃に対応できない。
「しかし、其方は昨日オークを三体とハイオークを一体倒している。Gランクの冒険者の其方が、たった一人でDランクの魔物を四体も倒す。これは他のGランクには勿論、FやEランクの冒険者にも難しいことだ。その点で見れば、其方の実力は確かなものだろう。それに、私自ら話をしているのは君だけだ。それがどういう意味か、其方には分からないだろうか?」
確かに、普通のGランク冒険者にはオークなど倒せない。しかも、その内の一体はハイオーク。ランクこそ変わらないものの、オークとハイオークの実力差は歴然だ。
確かに、俺は他のGランク冒険者たちよりは強い自信がある。
だが、俺の持っている能力はティフォにお願いしたことで特殊――いや待てよ?
国王ともあろう人がこうして態々時間を取っている。それに、それが俺一人。なら、俺に思い当たるものでもあるのだろう。
それに、俺にもたった今、思い当たる節が出来た。
「――因みに、ルーカス様の能力についてお聞きしても宜しいですか?」
「え、えっと……僕の能力は……」
ここに来て口篭るということは、やはり能力関連にも何かある。もしも俺の予想通りなら、何かしら俺とルーカス様を引き付けようとするものがあるはずだ。
国王はそれに気付いて話をしているに違いないな。人も頭も良さそうな人だし。
「ルーカス、話してやりなさい。もしもお前とパーティを組んでくれるのであれば、それは話しておかないといけないことだ」
「わ、分かりました。えっと、僕の能力は全部で四つ。普通能力が料理(超級)に、錬金術(特級)。特殊能力が鑑定(上級)です……」
「うむ。そして私から付け加えると、料理ならばそこらのシェフにも引けを取らず、錬金術の腕も一流。今後磨きをかければ、鑑定とも掛け合わせて冒険者に必要なポーションなども即席で作れるようになるだろう」
「――」
上位二階級が二つに、エクストラが一つ。質といい組み合わせといい、紛れもなく贔屓された能力だな。しかし、冒険者をやるには戦闘能力は必要不可欠だ。それを一個も持っていないという事は、今言わなかったもう一つの能力に何かあるか?
「――なるほど、それは素晴らしい能力ですね。それで、もう一つの……四つ目の能力は?」
「――固有能力、愛され護られる者。この能力だけは、僕にもお父様にも、その効果が分かりません」
――これは、つまりそういうことだな。
俺が最初に、転生する世界の条件として出したもの。どんな形で出てくるかと思っていたが、まさかこんな形で――しかも王族なんてな。
ティフォも随分、暇してるんだろうな。




