3話:VSオーク
俺が悲鳴を聞いてからその場所までにかかった時間は、一分を越すか否かというところ。
「筋力強化――腕、脚」
この森は明らかに手入れがされていなく、走るには足場が悪すぎる。そのため、俺は好き放題に生え散らかっている木の枝を足場にし、筋力強化によりそれらを飛び移ることで移動効率を上げていた。
聞こえた悲鳴の大きさからそう遠くは無いと思っていたが、思いの外近かったようだ。
俺の目の前には、悲鳴を上げた本人と思われる少年が足を震わせて魔物対峙していた。
「刺突――ッ! ウォラァッ!」
枝の上から少年を襲おうとしている魔物を目掛け、俺は右手に持っていた槍を一直線に投げ付ける。
「――!?」
「――間に合ったみたいで良かった。怪我はないか?」
「え、あ……は、はい……」
「そっか、なら良かった」
俺の投げた槍は、今にも目の前の少年を襲おうとしていた魔物に直撃。狙い通り心臓を貫き、魔物はそのまま地面に倒れた。
しかし、少年を襲おうとしていた魔物は一匹ではない。まだ倒れた魔物の後ろにも数匹控えていることを確認し、俺は少年の前に降りた。
「小さい耳に豚鼻、でかい図体と太い手足……これがオークか。君は危ないから少し下がってな」
「え、あの、武器は……!?」
指をポキポキと鳴らし戦闘体勢に入る俺に、少年は震えた声で話し掛けた。
この少年の心配は、確かに当たり前のことだ。しかしそれも、俺が普通の戦士ならば。心配してくれたところ申し訳ないが、俺は普通の戦士ではない。
――スライムのスイと冒険者を営み始めた、テイマーだ。
「――スイ!」
「ピュピュー!」
俺の呼び掛けに、スイは瞬時に反応。その柔らかいボディをクネクネと動かし、スイは口から自分よりも大きい俺の大剣を吐き出した。
「よし、バッチリだ!」
――そう。俺のスイは、スライムの中でもユニーク個体。そんなユニーク個体のスイの能力の中には、食べたものをそのまま体内に残しておくという収納というものがあったのだ。
「馬車の中で能力の確認しといてよかったな。冒険者初日にして早速大活躍だぜ!」
そう言って、驚きに目を丸くする少年を背にして俺は大剣を構える。
――筋力強化の効果時間は、今のままじゃ持って数分。オークの三体くらい、その時間内に余裕で討伐出来るようにならないとな……!
ま、取り敢えず――、
「――先手必勝ッ!!」
――オークのランクはD。魔物全体的に見れば全然弱い部類だが、それでも丸腰の成人男性くらいでは相手にならない魔物だ。そしてスライムなどとは違い、意欲的に人を襲う。
当たり前だが、当然油断は出来ない。
「――ズァァッ!」
先ずは前にいる右側のオーク。大きく右から回り込み、右から左へと大剣を振り上げる。
オークはそのでかい図体故、機敏な動きが出来ない。そして低脳の魔物は盾や剣などの武器を使用せず、素手のまま襲い掛かる。
しかし、三体残っているオークの内、後ろにいるオークは斧と盾を所持している。きっとあれがこのオークらを纏めていた奴だ。
しかしそれでここにいるのが四体となると、この近くに縄張りがあってもおかしくないな。
「まぁ、んなこと今はどうでもいいけど……よッ!」
そんなことを考えている内に、オークは俺が振り上げた大剣を一度避けていた。しかし、俺もボーッとしていた訳では無い。紙一重で後ろへ引いたオークに、俺は透かさず距離を詰める。
一度振り上げた大剣を再び振り下ろし、今度はしっかりとヒット。左から振り下ろした大剣で、俺はオークの右腕をぶった斬った。
「グゴガァァァァ!」
右手を失ったオークは、そのまま右腕の切断面を押さえて地面に膝から崩れ落ちる。
この傷なら放っておいても良さそうだが、魔物の生命力は未だ未知数。どれだけの執念があるかも分からないし、一応トドメを刺しておこう。
「――フッ!」
そうして、俺は右腕を庇って蹲っているオークに上から大剣を突き刺した。
「次は――っと!」
次のオークを相手にしようと、後ろを振り返った瞬間。もう一体のオークがすぐ目の前まで迫っていて、俺の脳天目掛けてそのでかい拳を振り下ろそうとしていた。
「あ、危ねぇ……! マジあんなん食らってたらワンチャン死んでたぞ」
振り上げられた拳の影に気付き、咄嗟に真横へ跳んで回避する。その瞬間に感じた風から、後一瞬でも反応が遅れていたら間違いなく潰されていただろう。
地面に作られたクレーターを見て、俺は心臓をバクバクさせながらそう思った。
「でも、潰されなかったんが結果だ。悪いが、今ので俺を倒せなかったお前らの――負けだ!」
オークの空振った攻撃は、次の攻撃を意識していない大振りだ。ゲームで言う所の後隙が大きい攻撃は、決まれば強いが決まらなければただの自爆。今のオークの硬直状態を、俺は絶対に見逃さない。
「断、頭……」
オークよりも早く体勢を立て直し、直ぐ様攻撃に移る。
断で大剣を構え体の後ろに回し、頭で大剣を自分の頭の上まで振り上げ――、
「斬ッ!!」
――で、斬る!
前屈みになっていたオークの首を目掛けて、俺は大剣を大きく振り下ろした。
「んでもって、次はお前だ!」
目の前のオークの首を斬り落とし、オークは苦鳴を上げる間もなく絶命する。
そんなオークの死を見届ける間もなく、俺は次の――そして最後の、斧と盾を持ったオークに斬りかかる。
「アァァァァァッ!!」
――筋力強化が続くのは、持ってあと一分が限界。そして最後に残ったのが、一番強そうなアイツ……
アイツは絶対にさっきのオーク達とは違う。本気で挑まなけりゃ、長期戦になったら流石にキツい。
低姿勢で奥のオークに近付き、出方を探る。攻撃の動作があれば回避、出来そうなら攻撃。薙ぎか、斬るか……
「グォォォォォッ!」
――来ない? アレは……受けの構えか?
咆哮したオークは、両手を広げて俺を見据えるように構える。
「舐めてんのか? ――なら、斬る!」
攻撃ではない構えを見せたオークに、俺は低姿勢のまま正面から突っ込む。そしてオークの股下に近付き、このまま足を――!
「――ぐあッ!?」
オークの足を斬ろうと思った瞬間、俺の体の中を走ったのは獲物を斬った手応えではなく、全身の骨に響く衝撃――激痛だった。
「がっ、は、ごえっ……!」
突然体が吹っ飛び、俺は地面を転がった後、吹っ飛んだ方向にあった木に背中を思いっ切り強打した。
『わわわっ……! アル!? アル大丈夫!?』
俺がぶつかった木は、最初に俺が乗っていた木。つまり、スイが待機していた木だった。俺が激突した衝撃でスイは枝から落ち、慌てて俺に近付いてくる。
「す、スイ……俺の、ポーション……」
『ん! はい、アル!!』
心配そうに俺の顔の傍で体を震わせるスイに俺の腰に付けられたポーションを指すと、スイは直ぐにポーションを腰から外して俺の口元に持って来た。
「助かった、スイ……」
ポーションを飲み、全身のダメージを何とか和らげた。しかし、余程のダメージだったのかポーションを飲んでも全回復とまでは行かない。
鎧も村での狩りで使ったもので、身動きが取りやすいようにしている軽装だ。突然の攻撃に防御も受身も取れず、モロに食らってしまった。
「――受けの構えと見せかけて、俺の腹に蹴りをぶち込む作戦だったのか……」
筋力強化が残っていた腕を巻き込み、少しでも衝撃が和らいだのが不幸中の幸いだった。
「でも、今ので筋力強化も切れた……もう筋力強化を維持する魔力も、集中力も残ってねぇ」
『――アル。スイ、いいこと思い付いた。多分、それでアレ倒せる』
「――いいこと? 作戦か?」
『うん! えっとね――』
大剣を支えに立ち上がった俺に、スイは珍しく念話を続けた。
そしてその念話に耳を傾けると――、
「――そうか。でも、ぶっつけ本番で行けるか?」
『スイ強い! アルも強い!』
「は、はは、ははは……そっか、そうだな。うん、そうだ! よし。やるぞ、スイ!」
「キュウ!!」
そうして、俺はスイと、再び戦闘体勢に入った。




