明日は?
地上。
森の中でも薄明かりが周囲を照らす開けた場所に、俺たち8班と八巻たち1班のメンツは、焚き火を取り囲んで話し合っていた。
「い、いやさ………普通に森の中を歩いていたんだけど」
委員長が苦笑しながら、なぜ地下の森にいたのか話し始める。
話によると、森の中を薪を拾いながらひたすら歩いていたら、偶然小さな洞窟を見つけたらしい。
「もしかして、と思って中に入ってみたら………案の定、みんなのいる地下に続いていたと、そういうわけ」
………ま、何はともあれ助かった。
あのままあそこにいあたら、凍死はしなかっただろうが洋太や中居どもが一晩中ぎゃーぎゃー文句を言ってただろうからな。
「それよりもー! お風呂入りたいー!」
………ほら、こんな風に。
中居はあぐらをかいて焚き火の前に座りながら(ちなみにその姿勢のおかげでちらちら見えるスカートの下には、きっちり体操服を着ている)、そうぶーたれた。
「「いよっし!」」
中居の言葉を聞いて、かしまし娘の残りである土田と鈴木が同時に立ちあがった。
「なら行こう! お風呂」
「マジ!? あるの!?」
「近くにちょうど大きな湖があるから、そこで水浴びしよ」
「ナマステー!」
………そこでなぜその言葉(チベット語)が出てくる?
しかもそれ、確かおはようとかそんな挨拶用の言葉だぞ?
「ていうかあんたら、また入るつもり?」
八巻が呆れ顔で3人娘にそう言うと、
「「二度風呂〜!」」
土田と鈴木が笑顔でそう言った。
………風呂好きの考えることはよう分からん。
………ちなみに。
「あ、そうだ」
水浴びに行く直前、中居はくるりと振りかえり俺たちを見据えると、
「覗いたら死だよ?」
笑顔で『死』の言葉を特に強調しながら、親指を下にくっと落としたのだった。
***
「ふぃ〜……マッキー終わったよ〜!」
「マッキー言うな!」
いつものやり取りを交わしながら、八巻と今井は笑いあう。
目の前には、パチパチと良い音を立てながら、先ほど今井が補充用に拾ってきた薪が燃えている。
「……………」
俺たち(男子陣+今井と八巻)は今、薪を取り囲むように座りながら、ぼけーっと会話していた。
「けどよく燃えるね〜!」
「ほんと」
「な、ぜ、だ!」
俺の場合は1つも燃えなかったのに〜!! と洋太が叫び声をあげる。
お前のせいじゃなく、木に含まれる魔力量の違いのせいなんだから、そう憤るなよ。
俺は白い目で洋太を見ながら、ぼんやり空を見上げた。
「…………」
すると、今井も俺につられたのか三角座りのまま空を見上げて、呟いた。
「地球って、火星から見るとこんな感じなのね〜……」
月より少し大き目の真っ青な星を見ながら、今井はそう呟いた。
地球は青かったと、有名な宇宙飛行士の言葉が頭をかすめる。
空には、少し小さめの満月と、まん丸で青く綺麗な地球が光っていた。
「あ、そうだ」
不意に空を見上げるのを止めると、今井は俺、洋太、沼田を見渡しながら言った。
「地下倉庫に行ってたんでしょ? …………んで、成果は?」
「ゼロだ」
「……何しに行ったのよ、アンタら」
ギロン、としかめっ面で俺たちを見る今井。
「いやいや、俺たちは頑張ったんだ」
「そうっスね。俺たちは頑張ったっス」
「頑張りゃいいってもんでもないでしょ!」
遠い目をしながら言い訳する洋太と龍二に、今井の容赦ない指摘が突き刺さる。
「そうまで言うなら今度はお前らが行くか? 今なら真冬の北海道の寒さと魔法無しの正真正銘のサバイバルが味わえるぞ?」
「………ごめん、いいわ」
俺の言葉に、今井はバツが悪そうに視線をそらした。
「それで、これからどうするつもり?」
黙った今井の代わりに、今度は八巻が口を開いた。
「別に話してもいいが……なぜ今話さにゃならん」
こういう話は全員がいるときにやるべきだろうが。
「魔―がどうするつもりか知りたかっただけだから、嫌なら別にいいけど?」
「………」
ま、いっか。
「とりあえず、朝1番に城に戻って黒部たちに情報をもらった後で、C組に攻め込むつもりだ」
「へー……アンタにしては意外と積極的じゃない?」
俺のプランに、目を丸める八巻。
「……んで、とっとと降伏する」
「はやっ!!」
今井の突っ込みが入った。
……まぁ、少し冗談が入ってたわけだが。
「その後でとりあえず、一時的な同盟を組む予定だ」
実はこれ、桃ちゃんとも話し合って最初からプランにあったことだったりする。
「なんで? 厳しいだろうけど普通に攻め込めばいいじゃない」
「戦力不足なんだよ」
焚き火を挟んで対面にいる八巻が、不思議そうな声をあげた。
「俺たちは剣を中心とした戦闘要員だが、魔法使いが圧倒的に少ない。このままだと他クラスとの戦闘どころか、そこら辺の野良モンスターにも負けるかもしれんからな」
そういうわけで、魔術科の中で1番温和(噂だが)C組に助力を頼むつもりだ。
「そううまくいくかしらね〜」
今井がいじわるそうに笑いながら言ったが。
「いくだろうよ」
「へっ? なんで言いきれんの?」
今井の間抜け面が暗闇と火の光にまぎれてぼんやり見える。
……なんだコイツ。もしかして知らんのか。
「そりゃだってな。今ごろ他のクラスのヤツらは………」
***
――― E組生徒、守山SIDE ―――
イギリス風の大きな丸テーブルが陣取っている、巨大な大広間で。
「……ふむ、同盟ですか」
エル・フォルセティアが豪華な椅子に座ったまま、1つ頷いた。
「いいでしょう」
「「………ありがとうございます」」
私と、A組の使者に、フォルセティア嬢はねぎらいの言葉をかけた。
「他の2クラス……特にあのB組に勝利するには、これくらいしないといけませんわね」
「その通りです」
A組の特攻頭、頭をちょんまげみたいに結わえた変わった男、武田信繁が重々しくそう言った。
「我がクラス、A組は、この間B組に屈辱的敗北を味わわされましたが………」
がたん! と拳を握り締めて立ちあがった
「今度こそは絶対、勝利してみせましょう!」
大いに野心に燃える武田氏だった。
***
「………ん?」
さて、場所は代わり、異世界ではなく、現世界。
真夜中、いつぞや襲われた荒田学園の管理塔で。
渋めの管理委員、宮松はセキュリティシステムの働きが僅かに鈍っていることに、違和感を覚えていた。
90話、つまりパニカル3ヶ月連続掲載達成!!
すげー、ものぐさな自分にしてはよくここまで書けたもんだと、自画自賛してみます。
3ヶ月連続掲載記念イラスト………書けたらいいなぁ。
まぁぼちぼちやりますが。