意外な脱落者
――― とある会話 (記録者 上野洋太)―――
【桃ちゃん】「今回の訓練は、相手の魔力をいかにして感知できるか、ということが主眼でした!
【桃ちゃん】「相手の魔力を感知する」
【桃ちゃん】「皆さんの5感を頼りにするのではなく、魔力的作用を及ぼしていると言われている、人間の第6感」
【桃ちゃん】「それを鍛えることが今回の訓練クリアの鍵でしたし、強いては魔術戦で非常に役に立ちます」
【桃ちゃん】「例えばこの前のように幻術で私のまねをするような輩に対しても、魔力を感知することに長けていれば、偽物だと見破ることができるんですよ」
【桃ちゃん】「……まぁこれにはもうすこし訓練が必要ですが。さて、とにかく説明は以上です。
【桃ちゃん】「今回の訓練は正直習うのが早いかな〜と思っていたんですが…………皆さん優秀ですね〜! 全員合格です〜! よく頑張りました!」
【八巻枝理】「………あの〜、先生?」
【桃ちゃん】「……? 何ですか枝理ちゃん」
【八巻枝理】「………全員合格って…………まだ魔ーが」
【桃ちゃん】「あ……………」
――― 八巻枝理 SIDE ―――
場所は音楽室だった。
異世界空間から帰ってきた私たちは、大きなピアノとオルガン兼机が並ぶこの部屋に立っていた。
各々の机の上にはそれぞれ、サッカーボールぐらいの大きさの水晶玉が置いてあった。
………どうやらこの水晶玉の中に、さっきまで私たちはいたらしい。
そして今、私たちはこの中で唯一の空席である魔ーの机、そこに置いてある水晶玉をみんなで覗いていた。
「……………爆睡してる」
「……そうですね」
私と桃ちゃんは、道のど真ん中で大口開けて爆睡している魔ーを見て、頭を抱えた。
「魔ーみたいなのは真っ先にクリアしてると思ってたけど」
麻衣ちゃんが人垣の中からにゅ〜っと首をのばして、意外そうに水晶をのぞき見た。
「………………実は寝たふりしてるとか」
「それはないですね。残念ですが」
黒部くんの言葉に、桃ちゃんがじと〜っと水晶玉を見ながら言った。
「この水晶玉の中身、ではなく外見を見てください」
『…………?』
先生の言葉に、周囲の生徒たちが水晶玉が映している光景ではなく、水色の水晶玉事態を見つめた。
「……この水晶玉の色は、あなたたちがいたあの空間の空の色とリンクしてるんでが…………同時にあの空間にいる人の精神状態ともリンクしてるんです」
「………精神状態と?」
…………そういえばあの空間、どす黒い緑色をしてたなぁ。
「ええ。緑が濃くなるほど緊張やストレスが高いってことです、逆に済んだ青になるほどくつろいだ状態なんですが………」
「………水色してますね」
………かなりリラックスしてる証拠だ。
「………そういうわけです。ここまで青いと、正直睡眠中としか考えられないですね」
「………たまにあるんだよなぁ」
上野くんがぽりぽりと頭をかきながら気まずそうに言った。
「今みたいに極端にやる気がなくなるときというか、ある意味素直なときというか……」
要領を得ない言い方だったが、まぁ言いたいことはわかる。
要は、魔ーはやる気のスイッチのオン、オフが極端にはっきりしているのだ。
やりたくないときはとことんやらない。
……先生にケンカ売っているような気質が。
「………まぁ仕方ないですね」
桃ちゃんがはぁ〜っとため息を漏らすと、みんなに向き直った。
「皆さんはこれで午前の訓練は終わりにしますが………魔ーくんだけ補習を受けてもらいましょうか」
「………………ん?」
俺は寝苦しさを覚えて、目を覚ました。
そしてぽけ〜っとした目で周囲を見渡して………
「………げぇ」
……どこだここ。
俺は周囲のあまりの変わりように驚いていた
空は緑色から夜みたいに真っ黒に染まっていた。
白い家は、まるで洞窟のようにごつごつとした岩肌に変わり、そして1番大きいのが……
地面。
ごつごつした固そうな地面から、真っ赤な光が覗いている。
その光は多大な熱を持っているらしく、近づくだけでかなり熱い。
「………………」
………これもしかしなくても、マグマ?
「気がつきましたか〜………………」
「おわっ!?」
急に桃ちゃんの声が響いた。
「うっふっふ………言いましたよねぇ………………私」
「………何でしたっけ?」
嫌な予感がびんびんしていたが、あえて無視して適当にとぼける俺。
「もしこの訓練に合格しなかったら………………
地獄の特訓が待ってるって」
桃ちゃんがそう言った瞬間。
赤い光の中から、ぞろぞろとぶっとい棒を持ち、頭に角を生やした筋骨隆々の男たちがやってきた。
………鬼だ。
リアルマジで鬼だ。
うわ〜。
「せんせ〜、これはいくらなんでもやり過ぎというか何か違うのでは………」
「私は有言実行するんです! さぁ魔ーくん! 地獄で! 特訓です!」
「違う!? 桃ちゃんは地獄の! 訓練と言ったのであって実際に地獄でやるとは………!」
「ええ〜い! やると言ったらやるんです!」
「無茶苦茶ですって!」
俺は虚しく桃ちゃんの特訓を受けるのだった。
訓練終了! 次回! 物語の中でかなり時間が経ちます!