つかの間の平穏
4月もそろそろ終わりが近づいてきた。
相変わらず俺たちは「ふぁいと〜!」と可愛い声で死刑執行を告げる桃ちゃんの指導の元、毎日毎日特訓をしてきたわけだが………
「………ここんとこ、な〜んか平和だよな〜」
昼休みのざわざわと騒がしい、いつも通りの教室。
俺、洋太、黒部、沢木(弟)と男共で囲んで弁当をつついてる時に、洋太がそう言った。
「そうか?」
俺はむぐむぐとエビフライをパクつきながら、そう生返事した。
うむ。相変わらず野原さんのメシはうまい。
「そうだよ!」
ダンッ! と洋太は机を叩いた。
「この前まで試合とか侵入者とかあんなにピリピリしてたのに! 何この平穏!」
「いいんじゃないッスか、隊長」
ここ最近ずっとなぜか洋太を隊長と呼ぶ沢木が、カレーパンをかじりながら言った。
「モンスターに襲われるよりよっぽどマシだと思うッスけど?」
「…………………それに下手したら大怪我だけじゃすまない」
沢木の意見に、握り飯を食べていた黒部がぼそりと追随した。
「そうだけど! そうなんだけど!」
しかしなおも拳を振り上げ力説する洋太。
「なんちゅうかな! 不謹慎とわかっててもあえていいたい!」
ガンッ! と今度は机の上に脚を乗せてまで洋太は力説した。
「平穏! つまんない!」
「机の上に脚を置くな」
弁当の目の前に、お前の汚い足が見えるじゃないか。
「おわっ!」
俺は軽く洋太の足をはらい上げる。
すると、当然のごとくバランスを崩した洋太はそのまま後ろへ………
「おわっ! ちょっと隊長――!?」
どんがらがっしゃーん!
洋太は後ろで食事していた男子連中まで巻き込んで、盛大にこけた。
あーあ。
「………………なむあみだぶつ」
「うむ」
ちーん。
俺は黒部と一緒に洋太たちに黙祷をささげた。
午後、魔法薬学の時間である。
理科室のような薄暗い空間である『魔法薬実験室』で、俺たちは普段どおりの授業を受けていた。
「うふふふふ………マ〜ンドラゴラの葉はですね! 貴重ですがひっじょ〜にエクセレントですよお!」
………と、教師の頭のネジが2,3本ぶっとんではいたが。
ま、いつものことではある。
「うひゅひゅひゅ………いいですか。こうしてマンドラゴラの葉を混ぜるだけで、何の変哲もないネギがほぅら!」
ぼぅん!
「見事食人植物にいいいいい!!」
「キシャアアアアアア!!」
「ちょ、先生! これ本気で危ないですって」
「アヒャヒャヒャヒャ!!」
「先生――――!」
………てな感じであいも変わらずパニカルな授業ではあるのだが。
「………平和だ」
キシャ〜! と身をくねらせ暴れ狂う食人植物。それを止めようとした八巻の阿鼻叫喚を聞きながら、俺はぼけ〜っと空を見た。
……ほんの少しだが洋太が叫んでいたことが、なんとなくわかるような気がする。
洋太みたいに平穏つまんない、とかそんなことを言うつもりは毛頭ない。
むしろ俺は騒がしいトラブルより静かな日常の方が断然好きだ。
………好きなのだが。
………なんだろう。
一時期学園を騒がせた侵入者も、最初に学園に侵入した時以来1つもアクションを見せておらず、テロっぽい事件やトラブルも何もないまま………
だんだんと学園は沈静化していた。
桜は散り、外を見上げるとチュンチュンと雀の元気なさえずりが聞こえる。
空は青く、春眠暁を覚えず、という諺を思い切り実感させるような、ぽかぽかとした天気。
セキュリティが強化されたらしく、たまに警備員が学園をうろついているのが見かけられるが………それを加えても。
静かだ。
平和なのはいいことなのだが………………
「………………不安だ」
俺が呟いたその言葉は、4月末の済んだ空に溶けて消えていった。
魔ーの漠然とした不安を余所に、数日後には。
4月末のクラス対抗模擬戦闘。
籠城戦が始まろうとしている。
うふふ……その通りだよ魔ー。
パニカルに平穏なんてあるわけないじゃないですか!




