夏姫と初売り 後編
これ以上何も起きないで欲しいと思っていた大晦日。何故か紅蓮がでかい箱をもってやってきた。
「……これ、何?」
「あぁ。今年はいつにもまして多いね」
「お袋が家にいるからな」
夏姫の言葉を無視して聖と紅蓮が話をしている。
「紅蓮の趣味の一つに料理があってね。仕事で煮詰まったり、忙しくなると凝ったものを作ってしまうんだよ」
趣味の多さは折り紙付きの紅蓮。何度か食べたことはあるのだが。
「さすがに黒豆はお袋の。時間なかった」
どうやら料理は母親譲りだったらしい。
「俺が作った分は今回は見事に余った。だから残った分持ってきた」
「……あたしは要らない」
おせち料理は甘いものやらあまじょっぱいものが多く、夏姫は好んで食べない。
「葛葉からそう聞いてる。で、こっちが毎年の年越し蕎麦」
「いつも助かるよ。このまま京都に戻るわけだ」
「……あぁ。親父とお袋は残るがな」
そう言って無理やり夏姫の分もおせち料理を置いて行った。
「要らないっての」
「そう言わずに食べなさい。美味だからね」
正月料理で食べたいと思うのは、雑煮だけだ。
初売りの日。
夏姫は売り子をしなくていいという言葉に喜んだ。
……のもつかの間。着せられた服に硬直した。
「一応新春だしね。舞妓の格好よりも芸妓の格好をと思ったんだが」
「どう見ても芸妓の服じゃないでしょ」
「うん。紅蓮たちに頼んだんだがね。これは太夫の服装だね」
「……はぁ!?」
「で、獏は一応着物風の服。魔青は禿で」
夏姫の言葉を無視して聖がすすめる。
聖も和服を着たが似合わない。というよりも、この面子で似合うやつがいるのかと聞きたくなる。
「コスプレは楽しまないとね。さて、開店だ」
服が重すぎるため、その場から一切動けず獏とともに被写体になり続ける羽目になったのだった。