13-3
「……ありがとうございます。グレース様」
「いいえ」
「けれど、処刑の件は納得できません。この前神殿で会ったあの神官があなたを嵌めたのですよね? ああ、あの時殺してやるんだった……! 今からでもあいつの元へあなたの無念を晴らしに行きましょう!」
「いいんです。私、神殿に行った時に自分で復讐しておきましたから。今もあの人は、ヘレン達の監視の元下働きをさせられているはずです」
「けれど……」
ヴィンセントは悲しげな目をしたままだ。
「グレース様、それでも冤罪は晴らすべきです。何も悪いことをしていないあなたが悪女として扱われたままなのは我慢できません。真実を明らかにしましょう」
「うーん、私は冤罪を晴らすことはそこまで望んでいないというか……」
私の中にある感情は、私を陥れたマイラやテレンスに復讐したいということが主で、二人の恐怖に怯える顔を見た時点で大分満足してしまっていた。冤罪を晴らすことにはそこまでこだわりはない。
しかし、ヴィンセントは納得していない様子だ。
「グレース様、私も全力で協力しますから、どうか」
「私、それよりもヴィンセント様と今まで通り楽しく暮らしたいですわ」
私がそう言うと、ヴィンセントは目を見開いた。
「グレース様、けれど……」
「私、処刑が決まった時はそれは神官様たちも国民も恨みましたけど、シャーリーの姿で過ごすうちにいつの間にか憎しみがだんだん消えていっちゃったんですよね。きっとヴィンセント様がシャーリーにいっぱい愛情をかけてくれたから癒されたんだと思います」
笑顔で言ったら、ヴィンセントは泣きそうな顔で私を見る。私は続けて言った。
「私のために何かしてくれるなら、これからもシャーリーをめいいっぱい可愛がってください!」
「グレース様……、いや、シャーリー……!」
ヴィンセントは涙をぽろぽろこぼしながら、再び私をぎゅっと抱きしめた。
相変わらず力加減がなってないので痛いけど、今は気分がいいので文句は言わないであげた。
***
ヴィンセントに正体がバレてから一ヶ月。私たちは王都を離れ、エヴァンズ領のお屋敷に戻って来た。
王都を去る際は、ヘレンとコーリーとマギーの三人に涙ながらに抱き着かれて、なかなか離してもらえなかった。たくさん手紙を書くし、月に一度は遊びに来ると言うと、浮かない顔ながらもようやく離してくれた。
領地のお屋敷に戻ってからの私は、今まで通り幼女の姿で、たくさん贅沢をさせてもらいながらめいいっぱい可愛がられて過ごしている。
ちなみにヴィンセントは、私は別にいいと言っているにも関わらず私の冤罪を晴らすべく奔走していて、この前ついにテレンスと取引していた奴隷売買グループを摘発して解体してしまった。
「シャーリーとの時間は削っていないからいいだろう?」なんて笑って言いながら。めいっぱい可愛がってとは言ったけれど、別に四六時中離れず可愛がれとは言ってないのに。
けれど、実際にヴィンセントは私には一切素振りを見せないまま、犯罪組織を追い詰めてしまった。
これからグレースと彼らの関わりはあくまで調査のためだったと証明するのだと張り切っている。
そうそう、一度グレースに戻ってから元々強かったシャーリーの魔力はさらに上がったみたいで、魔力を操って自分の意思でグレースの姿に戻ることもできるようになった。
始めのほうは不安定で、勝手に姿が戻ったり、逆に念じても全然姿が変わらなかったりしたけれど、今は随分自由に変身できる。
お屋敷では基本的にシャーリーの姿で過ごしているけれど、時折ヴィンセントの前にグレースになって姿を現すと大慌てするのがおもしろくて気に入っている。
姿を使い分けられるのはとっても便利だし楽しい。




