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「本当にシャーリーがグレース様なのか……? 信じられない……。けれど、目の前で姿が変わって……」
「本当です! ヴィンセント様だって、私とグレースが似ていると言っていたじゃないですか!」
「確かにそう思ったが、同一人物だなんて、まさかそんな……」
ヴィンセントは目をぱちくりしながら私の全身を見渡し、状況が理解できない様子でいる。
「とりあえずヴィンセント様、使用人たちを呼び戻してくださいませんか? 外にいるはずのない私を探させるのは申し訳ないです」
「えっ? あ、ああ。そうだね、シャーリーは戻ってきたしね」
ヴィンセントは混乱が収まらない様子のままうなずく。それから自然な動作で私を抱き上げようとして、はっとした顔で手を止めた。
「抱っこしてくれないんですか?」
「えっ!? いや、グレース様に気安く触れるのは……」
「今さらですか? 今まで散々抱っこしてくれたのに」
私はヴィンセントに向かって手を伸ばす。ヴィンセントは迷うように私を見た後、おそるおそるといった様子で抱き上げた。
いつもより動きが大分ぎこちない。ヴィンセントは普段のように頬ずりすることもぎゅうっと抱きしめることもなく、どこか遠慮がちな動作で私を広間まで運んだ。
ヴィンセントが執事に通信機で連絡をすると、彼はシャーリーの捜索に出ていた使用人たちを連れて戻って来た。
外は雨が降っていたのか、みんなずぶ濡れになっている。その姿を見て私はかなり申し訳なくなった。
「シャーロット様! ご無事だったのですね!」
「よかった、何かあったらどうしようかと……!」
「シャーロット様、怖い思いはしませんでしたか?」
使用人たちは私の姿を見ると、一斉に駆け寄ってくる。
「大丈夫です。ごめんなさい、私、一人で冒険したくなって神殿に行くと嘘を吐いてしまったの」
「まぁ、シャーロット様。危ないことはなさらないでくださいね。私たちの心臓が持ちません」
「シャーロット様、冒険に行きたいなら、次からは私たち使用人の誰かをどうかお連れください」
使用人たちは私を囲みながら、口々にそう言った。私は神妙な顔をしてうなずく。
「皆、捜索ご苦労だった。シャーリーも無事見つかったし、皆は濡れた服を着替えてしばらく休んでいてくれ」
ヴィンセントが使用人たちにそう言うと、彼らは私を代わる代わる撫でた後で部屋を出て行った。
「じゃあ、シャーリー……、いや、グレース様……? 私たちも部屋に戻ろう」
「はい、ヴィンセント様。あと、この姿のときはシャーリーでいいですよ」
私がそう言うと、ヴィンセントは複雑な顔でうなずく。それから再び私を抱き上げた。背中に回された腕は、やっぱりどこかぎこちなかった。




