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「言いたくないほど苦労をなさったのですね……。不躾なことを聞いて申し訳ありませんでした。言いたくないことは言わなくて構いませんから、どうかゆっくりしていってください」
「え?」
私が真実を言うべきか言うまいか天秤にかけて黙りこくっていると、ヴィンセントが沈痛な面持ちで謝ってきた。
「え、いや、そういうわけではないのですが」
「無理をなさらないでください。ここは安全ですから、ゆっくり休んでいただいて大丈夫です。そうだ、お茶のおかわりはいかがですか?」
ヴィンセントはこちらを気遣うように明るい口調で言う。そんなに深刻なことを考えているわけではなかった私は、ちょっと罪悪感に苛まれた。
「では、おかわりをいただいてもいいですか?」
「はい、少々お待ちを」
ヴィンセントは笑顔でそう言って席を立ち、この部屋とつながっている向かいの小さな部屋までお茶を用意しに行った。
一人になったので何となく部屋をきょろきょろ見回していると、部屋の隅にある机の上に、大量の荷物が載っているのが目に入った。
赤や青、ピンクのリボンのかかったカラフルな箱。その横には絵本が積み重なっている。
成人男性の持ち物とは思えないので、おそらくシャーリーにくれる予定で買ったのだろう。
私は何となく席を立ち、箱や本を眺める。
「それが気になりますか?」
「え?」
振り向くと、ヴィンセントがお茶の用意を終えて戻って来ていた。ぼんやりし過ぎて気づかなかったようだ。
「すみません、勝手に見てしまって」
「構いませんよ。実は今、うちには六、七歳の小さな女の子がいるんです。森で迷子になっているところを見つけて保護したんですが、すごく可愛い子で。シャーリーと言います」
ヴィンセントはゆるゆる頬を緩めて言う。
「迷子を保護してあげるなんて、お優しいのですね」
「いえ、子供の保護は大人として当然の役目ですから。……それに、少し私情もあって」
ヴィンセントはそう言って頬を赤らめる。
私情……。やっぱり幼女趣味で、小さな女の子を家に置いておきたかったのだろうか……。そんなことを考えていると、ヴィンセントは予想外のことを口にした。
「シャーリーはどこかグレース様に似ているんです。外見はそんなに似ていませんが、目つきや雰囲気があなたそっくりで。そんなはずはないのに、まるであなたの生まれ変わりのように感じて、余計に手放したくなくなってしまったんです」
「……え?」
私は目をぱちくりして彼を見る。
うっとりした口調で語っていたヴィンセントは、はっとした顔になると、慌てた様子で謝ってきた。
「申し訳ありません。そんなことを言われても困りますよね」
「あの、公爵様は小さな女の子が好きだからその子を可愛がってらっしゃるんじゃないのですか……?」
「? はい、女の子に限らず小さな子供はみんな好きですよ。人間の子供でなくて動物でも、彷徨っているのを見つけるとつい連れて帰って来てしまうんですよね」
ヴィンセントは頬を緩めて言う。私は躊躇いながらも質問を重ねた。
「そうじゃなくて、その性的な……いえ、恋愛的な意味でというか」
私がおそるおそる尋ねると、ヴィンセントはぎょっとした顔になった。
「何をおっしゃってるんですか……!? あんな小さな子をそんな目で見るわけないじゃないですか!」
ヴィンセントは力いっぱい否定する。そしてショックを受けたような目で尋ねてきた。
「グレース様、なぜ家で子供を保護していると聞いただけでそう思われたのですか……? 私のことをそんな人間だとお思いで……?」
「い、いえ……」
私はすっかり困惑してしまった。ヴィンセントはロリコンではなかったのだろうか。全部私の勘違いだったのだろうか。
「……あなたにだけは、そんな風に思われたくありませんでした……」
ヴィンセントはまだショックから立ち直れない様子で、虚ろな目をして言う。




