8-3
「それと、神官様。もう一つお願いがあるんです! 奴隷売買に手を染めるような人なんて、神官様にふさわしくないですよね? だから、神官の役目を私に譲ってください!」
「は?」
テレンスは呆気に取られた顔で私を見る。理解できなかったようなので、私はもう一度繰り返してあげた。
「だから、私に神官の役目を譲ってください! 私のほうがあなたよりも良い神官になれると思います」
「ふざけたことを言うな! できるはずがないだろう!?」
テレンスはやっと理解したのか、顔を真っ赤にして怒鳴る。テレンスだけでなく、ヘレンたちも私の提案に戸惑っている様子だった。
「ちょっと、シャーロット! いきなり何を言い出すの」
「神官様になるってどういうこと!?」
「さすがにそれは無理よ!」
三人は慌てた顔で私を止めようとするが、私は笑顔のままテレンスを見る。
「確かに子供の私に神官職を譲るのは難しいかもしれません。でも、できないことはないと思うんです。私が神官になったほうが、きっとこの神殿はよくなります。だって、信者が奴隷として売られる心配もなくなるし、神殿で働く者が身分によって差別を受けることもなくなるんですから!」
テレンスは私の顔を見て言葉を失っている。
それから怒りに満ちた声で言った。
「そんなバカなことができるか! なぜ私がお前のようなガキに神官職を譲らなければならないんだ!!」
「神官様、そんな強気でいていいんですか?」
私は喚きたてるテレンスをじっと見据えて言う。
「何が言いたい」
「リストが流出したらどうなるかわかりますよね? 一年前、奴隷売買に手を染めたとされたグレースがどうなったのか覚えているでしょう。同じ目に遭いたいんですか?」
テレンスの顔が引きつるのがわかった。しかし彼は現実を否定するようにあらぬ方向を見ながら、かすれた声で言う。
「お前のような子供の話を役人が信じるわけがない……!」
「ヴィンセントから役人に話したらどう受け取られるでしょう。こっちには証拠のリストがあるんですよ。お咎めなしで済むと思いますか?」
テレンスの目をじっと見つめながら言うと、彼の顔はみるみる醜く歪んでいく。
ヴィンセント効果絶大だ。ありがたい。身分の高い後見人って本当に役に立つ。
私がテレンスの歪んでいく顔を見ながらヴィンセントに感謝していると、テレンスは悔しげに唇を噛んだ後、突然後ろの三人のほうに目を向けた。
彼の目は暗く、一切の光を映していない。
はっとして後ろを見る。しかし、その時にはもう遅く、テレンスは一番近くにいたコーリーを片手で掴み上げていた。
「は、離して!」
「うるさい! おい、シャーロット。よくも私を馬鹿にしてくれたな! 複製の場所を全て吐け。そうでなければこいつを殺す」
テレンスはそう言うと、コーリーの首に手をかけて容赦なく締め上げる。コーリーの喉から悲痛な声が漏れた。
「ちょっと!! コーリーを離しなさい!!」
私は慌てて叫ぶが、テレンスはこちらに視線すら向けない。彼は一切迷うことなくコーリーの首を絞め続けた。




