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無事テレンスの奴隷売買リストを見つけた私は、それを魔法で複製すると、三人と一緒に見習い部屋に戻って来た。
「シャーロットは紙を複製する魔法まで使えるのね」
見習い部屋のベッドの上に座ったヘレンは、複製された書類を見て感心したように言う。
「まぁね! 私にできないことなんてないわ」
私が得意になって言うと、マギーが興味深げに尋ねてくる。
「ねぇ、シャーロット。このリストどうするの? 役人のところに持って行くの?」
「これだけはっきりした証拠があればきっと信じてもらえるわね!」
マギーの横から、コーリーもはしゃいだ声で言う。
しかし、私は首を横に振った。
「そうね、最初はそうしようと思ってたんだけど……。もうちょっと別のことに使おうかと思うの」
「別のこと?」
三人は一斉に首を傾げる。私はにっこり笑って告げた。
「神官様が奴隷売買に手を染めていたなんて、許され難い罪よね?」
「ええ、もちろん」
「とんでもない罪よ!」
「そうよね、これが知られたら神官様は当然神官を辞めさせられるわ。それどころか処刑だってあり得るかも」
私が真面目な顔で言うと、三人はこくこくうなずいた。
「そうね。グレース様はそれで処刑されたんだから、神官様もそうなってもおかしくない」
「というか、そうじゃなきゃ不公平だわ!」
「グレース様のときだってみんなあっさり手の平を返して処刑に賛成したんだから、神官様の場合だってきっとそうなるはずよ」
三人は勢い込んで言う。私は三人の顔をぐるりと眺めて言った。
「そうよね! だから私、取引をしようと思うの」
「取引?」
「ええ、取引」
私はそう言いながら、ヘレンの手元からリストの複製を抜き取る。
「神官様も、知らないうちに追い込まれて絶望する気持ちを味わえばいいのよ」
ご機嫌でそう言ったら、三人は目をぱちくりする。
私はきょとんとしたままの三人に向かって、にっこり微笑んだ。
***
それから三日間、私たちは何事もなかったように過ごした。毎日真面目にお掃除や洗濯をして、夜になると神官様の指導という名の嫌味を聞き流す。
そうして七日目の夜、私の見習い期間が終わる前日に、私は三人を連れてテレンスの部屋を訪れた。
扉をノックすると、いかにも不機嫌そうな顔でテレンスが顔を出す。
「何の用だ。夜中に部屋の外をうろつくことを許した覚えはないが」
「神官様、ごめんなさい。でも、どうしても相談したいことがあって……」
私は神妙な顔で下手に出ながら言う。しかし、テレンスは苛立たしげに私を見るだけだった。
「明日でいいだろう。私は忙しいんだ」
「明日になったら見習い期間が終わっちゃいます」
「うるさい! 私にはお前の話など聞いている暇はないんだ!」
テレンスはそう私を怒鳴りつけると、ドアを閉めようとする。
「神官様、待ってください!」
私はそう言いながら、持って来た書類をテレンスに向かって突き出す。怪訝な顔でそれを見たテレンスは、書類の内容に気づくと目を見開いた。
「こ、これは……! お前、これをどこで見つけた!?」
「神官様のお部屋を掃除しているときに偶然見つけたんです! ねぇ、みんな?」
私がそう言って後ろを振り返ると、三人は口々に同意する。テレンスの顔はみるみるうちに青ざめていった。
「誰が私の部屋に勝手に入って掃除しろと命じた! だいたい鍵がかかっていたはずだろう!?」
「だって、神官様はいつも神殿の部屋はひとつ残らず掃除しないと罰を与えるって言っていたじゃないですか! それに、鍵は開いていましたよ?」
本当は魔法で鍵を開けたのだけれど、私はとぼけて首を傾げる。テレンスは、馬鹿な、とか、そんなはずは、なんて言って、いっそう顔を青ざめさせている。
「神官様、これって何のリストなんですか? 人の名前と不思議な記号がずらっと並んでいるから、なんだか気になっちゃって」
私が不思議そうな顔を作って尋ねると、テレンスは無言で私の手元からリストを取り上げた。




