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それからは、ほかの神殿関係者には見つからないように魔法を駆使しながら、シスター見習いとして雑用を続けた。
一日の終わりにはテレンスがやって来て私たちの仕事ぶりをチェックするが、どこも文句のつけどころがないので悔しそうだった。
テレンスは雑用係のミスを見つけては罰してストレス解消しているのかもしれない。嫌な男だ。
グレースの件はあれからもそれとなく三人に聞いてみたが、三人ともグレースはいい人だった、私たちをいつもこっそり助けてくれたと言うばかりだった。
そんな記憶のない私は困惑することしかできない。
気になる点はありつつも、シスター見習いの期間は順調に進んでいった。
そして四日目の朝、雑用係の寝泊まりする狭い部屋に、テレンスがばたばたと訪れた。
「シャーロット! 起きなさい!」
「なんですか? まだ眠いです……」
「いいから起きろ! エヴァンズ公爵がお越しだ!」
テレンスは怖い顔でそう言った。
「ヴィンセント様が? まだ一週間経っていませんよ」
「お前が心配で様子を見にきたらしい。いいか、ここでの暮らしを聞かれたら、シスター見習いとしてよくしてもらっていると言うのだぞ。初日にやらせてやった礼拝堂での挨拶や招待状への絵付けを毎日やっていると言いなさい」
「なんで人に言ったらまずいような生活をさせてるんですか?」
「いいから言う通りにしろ! シャーロット、子供のお前にはわからないかもしれないが、神殿というのは非常に大きな力を持ってるんだ。王都の神殿はなおさらだ。それに本当の両親もわからないお前が逆らえば、どうなるかわかるな?」
テレンスは怖い顔で私を見る。私は首を傾げてとぼけた。
「わからないです。どうなるんですか?」
「頭の悪いガキだな。だから身元のはっきりしない人間は嫌いなんだ」
テレンスは苛立たしげな顔で言った。
「いいか。親戚でもないお前がいつまでもエヴァンズ公爵に面倒を見てもらえるわけではない。お前が私に逆らえば、公爵家を出て後ろ盾がなくなったとき、神殿が何をするかわからないぞ」
テレンスはそう言って私を脅した。
テレンスといい、マイラといい、身元のわからない幼女に対しての脅し方がひどい。私は引きつつも、うなずいてあげた。
「わかりました。神殿ではよくしてもらっていると話します」
「それでいい。公爵がお待ちだからさっさと支度をして応接室まで来い」
テレンスは乱暴にそう言って出て行った。
私はシスター服に着替え、応接室へ向かう。
「シャーリー! 会いたかったよ!」
応接室に着くと、私の姿を見るなりヴィンセントが駆け寄ってきた。ヴィンセントは私を抱き上げ、いつものように頬ずりする。久しぶりにすりすりされてちょっと痛い。
「ヴィンセント様、こんなに朝早くにどうしたんですか?」
「いや、シャーリーが住み込みで頑張っているんだから邪魔してはだめだと耐えていたんだが、こらえきれなくなってしまって……」
ヴィンセントはちょっと恥ずかしそうにそう言う。それにしたって、まだ日も昇りきらないうちから来ることはないだろう。
「シャーリーはまだ眠いです」
「そ、それは申し訳なかった。起こしてしまってごめんね」
私が抗議すると、ヴィンセントはおろおろした様子で謝る。
「エヴァンズ公爵、シャーロットちゃんはとてもよく働いてくれていますよ。礼拝に来た人々からの評判もいいんです」
少し離れたところで見ていたテレンスは、こちらに近づいてくると、先ほど私に見せた態度とは打って変わって丁寧な口調で言った。




