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「ええ、そうだけど」
「なんてことだ! エヴァンズ公爵家の縁者だと思ったから、仕事を放り出してつきっきりで面倒を見てやったのに……! 公爵家の縁者どころか、身元もはっきりしないただのガキだったなんて!!」
テレンスは顔を歪めてぶつぶつ文句を言い始める。
そして顔を上げて私を見ると、さっきまでとは打って変わって冷たい声で言った。
「シャーロット。シスター見習いがしたいのだったな。子供のシスターたちが毎日やっている仕事があるから、やらせてあげよう」
「え? うん」
「上の者には敬語を使うんだ。きちんと『はい』と言いなさい」
「はーい」
言われた通り返事をしてやったのに、テレンスは気に入らなそうな顔をした。しかし、特に何か言うでもなく、黙って私に背を向けて歩きだした。
これはついて来いってことかしら。
「神官様、どこへ行くの?」
「敬語を使えと言ったはずだ」
「どこへ行くんですか?」
「着けばわかる」
テレンスはそれだけ言うと、黙ってスタスタ歩いていく。幼女の足では追いかけるのも大変だった。
それにしても私が公爵家の身内でないと知っただけで、なんて変わりようだ。テレンスは何も私が子供だから気遣っていたわけではなく、エヴァンズ家の縁者だから丁重に扱っていただけらしい。
グレース時代だって犯罪組織と関わっていると知られる前はここまで雑な対応をされたことがなかったので、テレンスの新たな本性を知ってちょっと驚いてしまった。
それにしても、ヴィンセントが私を可愛がっている様子はこの前見ているだろうに、私がお屋敷に戻ってからテレンスの態度を告げ口するとは思わないのかしら。
そんなことを考えながら、こちらを一切気遣わず歩いていくテレンスを何とか追いかけていると、彼は階段を降りて地下の部屋へ向かった。じめじめして薄暗く、地上とは随分違う雰囲気だ。
「着いたぞ」
廊下をしばらく進んだ先の、古びた扉の前でテレンスは足を止めた。
テレンスが扉を開けたので中を覗き込むと、そこには三人の女の子がいた。みんな黒いシスター服を着て、髪を大雑把にひっつめている。どの子もなぜか表情は怯えていた。
「ここにいるのは、身寄りがないから神殿で世話をしてやっている子供たちだ。見習いの仕事はこいつらから教えてもらえ」
「え、ちょっと……」
「私は忙しいんだ。もう戻る。まったく、どうして私がこんなガキの世話を……」
テレンスはぶつぶつ言いながら出て行ってしまった。
私はぽかんとしたまま部屋に取り残される。
「あの……、あなたは? あなたも行き場所がなくて神殿に来たの?」
少女たちの内一人が、おそるおそるといった様子で近づいてきた。焦げ茶の髪を三つ編みにした女の子だ。グレース時代に見たことがあるような気もするし、ないような気もする。
「私はシャーロット・エヴァンズ。行き場所がないわけじゃないわ。シスターになりたくてお試しで来たの」
「えっ、そうなの? じゃあ、帰れる家があるのね」
私の答えに女の子は驚いた顔をして、それから少し寂しげな表情になった。ほかの二人の女の子もそっと近づいてくる。




