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「あの……よろしければ見習いをやってみますか? 長期の見習いを今すぐに引き受けるのは難しいですが、一週間くらいなら住み込みでお試しをさせてさしあげられますよ」
横からテレンスが提案してきた。一向に言うことを聞かない私に困らせられていたヴィンセントは、テレンスのほうを向いて戸惑い顔をする。
「いえ、そこまで気遣ってもらうわけには……」
「エヴァンズ家のお嬢さんなら大歓迎です。よろしければ見習いにいらしてください」
テレンスが勧めてもヴィンセントは迷っている様子だったので、私はもう一押しするために声を上げた。
「神官様、ありがとう! 私、素敵なシスターさんになるわ!」
「こら、シャーリー、待ちなさい! 私はまだ許したわけではないよ」
「でもぉ」
「いいではないですか、エヴァンズ公爵。一週間だけですしきっといい体験になりますよ」
テレンスは明るい笑みを浮かべて言う。ヴィンセントはしばらく迷った顔をした後、テレンスに向かって遠慮がちに言った。
「……それでは、お言葉に甘えてシャーリーをお願いします」
「はい、どうぞお任せください」
「わぁい、ありがとうヴィンセント様! 神官様!」
私は笑顔でヴィンセントに抱き着くが、彼は複雑そうな顔のままだった。
***
「シャーリー! なんであんなことを言ったんだ? 一週間も神殿に見習いに行くなんて……!!」
ヴィンセントはお屋敷に着くなり、私をぎゅうぎゅう抱きしめながら抗議した。
「ごめんなさい、どうしてもシスターさんになりたくて……」
「シャーリーは私と一週間も離れていて平気なのか? 私はシャーリーのいない生活なんて耐えられない……!!」
ヴィンセントがそう言いながら腕に力を込めるので、私は潰されそうになった。痛い。
何とか腕から顔を出し、ヴィンセントを見上げながら言う。
「ヴィンセント様、シャーリーも寂しいです。でも、私、この間の大会で色んな属性の魔法が使えるってわかって、人々のためにこの力を役立てたいと思ったんです。神殿なら魔力の高い人たちがたくさん集まってくるからぴったりだと思って……」
「……そんなことまで考えていたのか?」
私が適当な言い訳を並べると、ヴィンセントは目を見開いた。そして、「なんて素晴らしいんだ」と何度も私を褒める。
「ああ、シャーリー。こんなに小さいのに、そんなことまで考えていたなんて! 私の考えがあさはかだった。シャーリーは魔法の能力をみんなのために使いたいんだな」
「はい、ヴィンセント様。応援してくれますか?」
「もちろんだよ。ああ、でも寂しいな……」
「ヴィンセント様、私も寂しいのを我慢しますから、ヴィンセント様も少しだけ我慢してください」
私が目をうるうるさせながら言うと、ヴィンセントは渋々といった様子うなずいた。
よし、ようやく理解を得られた。まったく手がかかる男だ。




