第33部
グリシュが、そのとき奇妙な気配に気が付いた。
ゴブリンのざわめきが、殺気を帯びている。最初ここへ来た時と何か違う。
即座に、ゴブリンの巣穴を見下ろして、グリシュはゾッとした。
ここで食事をした匂いをゴブリンが嗅ぎ付けてこの高い位置にある横穴めがけて、爪を立てて崖を登る者、他の者の上に積み重なって、ゴブリンピラミッドを造り、ここまで登ってこようとしている者。とにかく何千匹というゴブリンたちが気づいて、グリシュたちを殺してその肉を貪るために、ここまで来ようとしている光景を見たのだ。
ゴブリンたちは、魂まで凍り付くような金属音の雄たけびをあげて、この高い位置にある横穴を目指して登って来る。
グリシュはすぐ呪文を唱え始めた。迅速に早口で。
グリシュは常に「ここで戦いが起きたら」と考えて行動しているーーこの場所ではタールを大量に染ませた乾燥しきった何千年も古代のミイラがあちこちに大量に積まれて放置されていた。炎呪文の大規模なものを使用すれば、そのミイラが燃料となり爆発炎上し、自分らも巻き込み、ここは炎の地獄となるーーとグリシュは判断していた。
横で寝ずの番の順番を決めていた四人はグリシュのただならぬ様子に気が付いた。
横穴の出口に着て下を見下ろすと、大変な状況になっていた。
「これ、めちゃヤバイわね」とステラ。
「ああ、なんてことガウ」
「……どうしよう」どう戦おうか、と敏速に考えるクリスタル。
「グリシュさんが炎の大呪文で一掃しようとしてるんじゃない?」と鼻くそをほじるハミル
「永遠に果て無き深淵の闇 凍てつく闇の支配する荒野に果てしない空を自由に飛びし魔の者よ 悠久の時の流れに抗いし なんじに問う 我が前に立ち塞がりし 愚かなる者 幽界の王より与えられし我が力にて滅ぶべし」
「金属鳥!!」
ゴブリンの泣き声よりさらに鋭い金属のこすれあう聞きごこちの悪い音と共に洞窟の高いところの空中にいきなり金属鳥が何百羽か現れた。
鳥は大きなカラスに似ていて身体が金属製の彫像みたいだった。
それが生きて動いていた。
鳥は一斉に金属の羽を震わせた。
下から見ると、たくさんの羽が抜けたように見えた。
その金属の羽がゴブリンめがけて、数知れない鉄の矢のようにいっせいに落ちていった。
金属の羽の矢のすさまじい大嵐が暫く続いた。
ただただゴブリンの大殺戮だった。
金属鳥の羽の落下の嵐のあとに生きているゴブリンは一匹もいなかった。
ゴブリンの巣は、ゴブリンの毒の肉塊の山と毒の血の海となっていた。
グリシュは金属鳥を召喚したのだ。
金属鳥の一匹の王冠を被った王らしい金属鳥がグリシュに軽く会釈すると、全部の金属鳥が霧のように消え去った。
「ふう、やばかったな」とグリシュ。
「一人で良いとこ取りだなあ。グリシュさんは」とハミル
「あの状況を一人で覆すなんてさすがはグリシュ・ルドね」とステラがいたずらっぽくウインク。
16歳の美少女に褒められて、ちょっと頬を赤らめて「ふん」とグリシュはポーズをつける。
「あの状況は、もしグリシュが居なかったらどう戦えばよかったんだろうか?!」と糞真面目クリスタル。




