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第十四章『代々木にて』

第十四章『代々木にて』


夜明け間近の草原…くさはら。

少年、いや…男、いや…これからはこう呼ぶことにする…椿五十郎は

薄闇の中、椿は南に広がる草原とその先に落ち込む谷間を眺めていた。


『あの辺が渋谷か』…椿の母方の祖父が若い頃、東京の渋谷、宇田川町…

現在東急ハンズやパルコのある辺り…で『牧場』をやっていたという。

夏には草原の上にゆらゆらと立ち上る陽炎を通して、北に広がる赤土の大地…

軍歌に踏みしだかれた…代々木練兵場が見えたという。

最も練兵場ができるのは1909年で、椿が立っている1904年8月末頃は

まだ緑の多い、人家の少ないただの空間である。


余談だが、椿の母は祖父の正妻の子ではない。いわゆる妾の子…である。

それだけが直接の原因ではないのだが、母方の親類が皆中流…持ち家で、

女中さんがおり、コリー犬を飼っている…なのに自分とこだけが

なぜ貧民なのかという幼少時代の疑問の解答の一つはここにあった…のかもしれない。


「椿さん、もうすぐ山県閣下と伊藤閣下がこちらに来ます。大丈夫でしょうね」

長岡が声をかける。

「それにしても、どんべ…カレーうどんはうまかったですなあ」


脈絡が無いように思えるが、昨日の出会いの後、長岡が各方面への調整に

走り回っている間、椿は大量の荷物ともども近くの旅館に待機。

夕食はまあまあだったが、夜中に小腹がすいたのお湯を所望し

カップ麺をつくろうか…というときに長岡が帰ってきたのだ。


のめり込むたちの長岡は食事もとらず奔走していたのだろう。

部屋に立ちこめるカレーの香りに鼻を引くつかせ、その元になっている

カラフルな容器にじっと目を凝らした。

仕方ないので振る舞った『それ』に、あたらし物好きの長岡は

すっかりはまってしまったらしい。


「また馳走にあずかりたいものですな」


「いいですよ。で…警備の方は?」


「特別の訓練をするためということで近隣の住民には外に出ないように

させているし、部外者も近づけないよう警戒しています」


「長岡君、そちらがその…御使いかね?」


近づいてきた二人の老人の片方が声をかけた。

教科書の写真…というより、二十年間ほど毎日のように顔を合わせた

千円札でおなじみの元老伊藤博文いとう ひろぶみ

政治的失点を重ねて、現在は中央から少し距離を置いているが、長州閥の

領袖としての存在感はまだ大きい。史実では戦後、日韓併合への途を

突き進んだあげく韓国人安重根(あんじゅうこんによって暗殺される。


陸軍の総元締、山県有朋はむっつりと不機嫌そうだ。

『長岡にも困ったものだ。どんな山師を引き合わせるつもりだ?』といった

所だろう。椿の巨体に少々気圧されながらも、その風体をじろっと見た。

Tシャツとジーンズだが、今朝は黒で統一して少しだけ荘重さ?を演出してみた。


「椿です。お忙しい両閣下に無駄な時間は取らせません」


いいざま右手を天に向かって突き上げる。演出!

背後の空間に突如現れる黒雲、そして雷光…くどいようだが演出なので

以降この描写は略。…チャリーン

現われる三千の完全武装の兵士たち。一人の将校が駆け寄る。


「特設第百一連隊、阿南修あなん おさむ大佐であります、お召しにより

参上いたしました」


「ごくろう。これより閲兵を行う」


将兵の氏名は適当…というか知人から選んでつけていく。やはりテキトーか。


「これが日本帝国の運命を憂いている、いと高き存在からの援助の一部です」


「…………!?」


呆然とする伊藤、山県、そして長岡もうながされて歩き出す。


「捧げー筒!」


兵士は皆若くたくましく、背が高い。そう、椿が出現させる軍は平均して

当時の日本人男性より十センチばかり高い…百六十五センチ以上に設定してある。

生きのいい現役兵がほとんど満州にわたり、後備の老兵がめだつ内地では

滅多に見られない精兵である。


「椿…君と…言ったか。兵がかぶっている兜のようなものは何かね?」


「ご明察の通りかぶと…鉄かぶとです」


ようやく気を取り直した山県の問いに応える。


「クロームモリブデン鋼という金属で作られており、敵弾や砲弾の破片、土砂

などから頭部を守ります」


「おお!確かに頭部に負傷をおう者も多いと聞く。我が軍の全将兵にこれを

支給できたら…」


「できますよ。二十万個進呈いたしましょう」チャリーン


歩兵の次は砲兵、砲はピッカピカの新品…では無く、兵は扱いに習熟し

砲もその訓練に応じて使い込まれた後、必要な補修を受けているという設定。

そして山ほどの砲弾…約三万発。


「今後の話し合いの結果にもよりますが、百万発の砲弾を提供する用意があります」


砲弾欠乏に悩む満州野戦軍に思いを馳せ、うらやましそうな表情をうかべた

三人の明治人に椿がささやいた。


「条件があるということかね」


うなずきながら最後に山積みの木箱を見せる。


「開けてお見せしろ」


そばの兵が蓋を取ると、黄色く輝く金属の固まりが顔を見せた。

金本位制をとった日本帝国では一円が純金0、75グラム…


「七十五トン、一億円分の純金です。これは無条件で差し上げます。戦費の足しにしてください」


チャリチャリーン


伊藤の目が喜びを隠しきれない。当時の責任ある立場にいる日本人の多くが

日本は戦局によらずとも、遠からず経済の破綻で負けることがわかっていた。


アメリカに外交的援助および外債募集のため派遣された金子堅太郎が

困難を理由に拒んだとき『無理でも何でもやらねば我が国は破産して滅びる』と

涙ながらに説得したと言われる伊藤だ。金の怖さ、ありがたさを骨身に沁みて

わかっているはず。歳入の四十パーセントにもあたる金なのだ。


第一段階…内地の有力者をテーブルにつける…は成功しそうだ。


今回の出費、特設第百一連隊一式…二千万ポイント

鉄かぶと二十万個…二百万ポイント

金塊七十五トン…一億ポイント

砲弾はまだ未決

残…五億九千二百万ポイント…ふうー


つづく











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