第十二章『ルール設定そのに』
第十二章『ルール設定そのに』
少年が使える十億円とはどれくらい使いでがあるのだろうか。
前に述べたが、それをそのまま買い物に使う訳ではないのだが、
一応の感覚はつかんでおこう。
少年の父親が子供の頃…大正時代の初めころか?
一円あれば浅草に遊びにいき、活動写真を観て、玉子丼を食い
餅菓子を土産に買って帰ることができたという。
大工の一日の手間賃が一円だったともいう。
おおざっぱに見て一円は現在の5〜6000円といったところか。
ここではわかりやすく5000円としておこう。
すると十億ポイントは現在の五兆円…おお!けっこうすごそうだが、
必ずしもそうではないことは後述する。
日露戦争の陸戦を有利にするために必要なものは…逆にいうと不足していたものは
兵力、砲火力、砲弾、食料など…要するにみんな不足していた。
戦争後半になると、兵士の主菜…飯のおかずが切り干し大根とわかめの
酢醤油和えだけなんてことも多かったらしい。それすら欠けることも…
明治の兵隊さんは偉かったなあ。
まあ、四十年後に太平洋の孤島や大陸のあちこちで餓死することになる
後輩たちよりはよっぽどましなんだろうけど。
少年は貧困家庭に育ったが、食べ物については贅沢だった。
ご飯は炊きたて、みそ汁は熱々の煮えばなでなければならない。
おかずは小学生低学年には、ほぼ毎日一枚十円のくじらカツであり
高学年になると一枚二十円のくじらの南蛮漬けステーキにグレードアップした。
中学校の弁当には二日に一回くじらの大和煮(缶詰)が入っていた。
捕鯨基地のある街以外では、おそらく日本で最も多くくじらを食べた
子供であったろう。百八十五センチ近い身長はひとえにくじらが
造り上げたに違いない。
現在の好物は、ビフテキ、焼き肉、ハンバーグ、トンカツ、カレー、シチュー
マグロの赤身、サワラの西京焼、アジの干物、カップ麺および清酒とビール。
父方の酒好きの血を完璧に引いたらしく、少年は日本酒に換算して
五合以上の酒を毎日飲む。
タイムスリップするにあたってこの点は留意しておかねば…
ほかのものはともかくカップ麺は絶対手に入らないだろうから自分用に
能力ポイントを消費するのもやむを得ない。
毎日五十本ほどすうタバコも同様だ。趣味のものだからマイルドセブンライト
以外のもの、明治の両切りタバコなどすう気になれない。
現代に戻ればいいじゃんと思うかもしれないが、いったんいってしまうと
ミッションコンプリートしないと戻れない…と今決定した。
『トルネコの大冒険』と同じでセーブはきかない。
これくらい制約があった方がゲームは楽しいだろう。
ただしコンプリートの条件についてはこの先つめる必要があるが。
ともかく兵力を創らねばならない。
日本で強いのは東北と九州の兵とされている。
それらと同等の強兵によって編成される歩兵師団。
大砲は通常の倍…百門近くをもたせる。新兵器の機関銃もたっぷり。
工兵大隊も倍の四個。輜重…輸送部隊は全体の規模の拡大にあわせ
さらに兵站の不備という日本陸軍の欠点を覆すべくひときわ充実させる。
兵数は二万八千人規模となる。
各種砲弾は一門あたり三千発を用意する。
軍服は旧来の黒服ではなく、開戦後満州野戦軍で採用されたカーキ色。
小銃は三八式。そして鉄かぶと!これら個人装備一式は新兵器と言えよう。
食料等の生活物資…ほかの日本軍より数段豊かに…十日に一回はトンカツを
食わせられるぐらいに…脚気などの『日本人病』に対する栄養学的配慮もして
一年分。
当然数の増える馬匹も加えた、この増強師団一個のお値段は『一億ポイント』
ちょっと待てー!五千億円は高過ぎないかという声もあろうが、今そう決定した。
軍隊はお金のかかるものだし、未来兵器は特にポイントが増量?されるらしい。
単純に考えると十個師団創れるがほかにもいろいろしなくてはならない。
それにこの数字は日本国内に出現させる場合のもので、国外では輸送費分として
一割増となる。とりあえず遼東半島に二個師団を出すつもりなので二億二千万…
もう残りは七億八千万。なんだか急に心細くなる。
そればかりでなく目玉というべき砲兵旅団!
野砲、重砲を七十二門ずつ持ち砲弾もたっぷりのこの旅団は六千万ポイント。
野砲は終戦直後に登場する九十式75ミリ砲にするが、重砲はこの時代の
十サンチ、十五サンチの榴弾砲、カノン砲で我慢することにした。
そうしないと…未来の砲を持ってくると馬鹿高くなってしまうので。
騎兵旅団も欲しかったが当面必要度が低いのと予算の関係で先送りにする。
なにしろ残りは七億一千四百万ポイント…うう、日本帝国首脳の苦衷が忍ばれる。
出発の準備をしなくてはならない。
当座の酒とたばこ…20カートン。ビーフジャーキー、ツナ缶などのつまみ、カップ麺。
服はジーンズ、Tシャツ、トレーナー、ジャージ…少年はスーツと縁のない
生活になって久しいので持ってない。ダブルの式服が一着あるので公的な場は
それで済ませることにする。歯磨き、耳かき、使い捨てライター(百個)などの
生活用品、医薬品、ノートやシャープペンも必要か。インスタントコーヒーと
お気に入りのマグカップ…あとはアンチョコ、史実の覚え書きも…
結構な大荷物に囲まれ少年は自分の部屋を見回す。
二度と帰らないかもしれない現実の世界。だが、未練は無い。
この世界は自分にとってあまり楽しいものではなかったし、この先はさらに
そうなるだろう。自分が戻れなかったら滅亡して欲しいくらいのものだ。
では、参ろうか…
つづく
いよいよ戦記が始まる…かも知れません。師団の値段などは作者の『これくらいにしておこう』で決めています。厳密に考証すればトンデモないということになるでしょうが、まったくそのとおりトンデモ戦記、妄想戦記なのでご容赦ください。