第3話 除夜の鐘を聞きながら
留美子の焦りを余所に、尚も告白は続く・・・
『私は、夫に多額の生命保険をかけたので、毎日の食事に少量の毒を盛ってます。
だって、夫は散々私に苦労をかけましたから・・当然でしょ?』
『私は、夫を介護してますが、おむつを一日1回しかかえません。
だって、感謝の一言もないんですから。いい気味です。しかし、臭いのが
玉にきずですけど・・。』
出た!妻の逆襲編。女の恨みは恐し。
『私は戦争中、空腹に耐えかねて、亡くなった兵士の肉を食いました。』
『私は、気に入らない上司に会社の運動会の弁当を作らされので、ドッグフードで作った
ハンバーグを食べさせました。』
ああ・・究極の食事編?
『実は、私には巳様がとりついてます。』
そう言って、参加者は床を這いだした。ペロッと舌を出したなら
舌先がわれていたかもしれない。
しかし、あまりに多種多様な告白を聞かされると
その隙間をぬうような、皆を驚かせる秘密は存在するのかと
留美子はますます焦ってしまう。
そしてついに百人目の参加者の番。
留美子はその次だ。
『私はある宗教団体の者です。最近教祖が高齢を理由に、公の場から登場しなくなりました。
実は、体力を温存させるために、アメリカから取り寄せたカプセルで、冬眠しているのです。』
カプセルの期限は2年後、教団にとって記念すべき佳節の年にまた復活すると言う。
(どうです?私の秘密が一番でしょ?)
参加者のドヤ顔が、仮面の下から見えそうだった。
ゲ~ッ!!私は何を言えばいいの?
留美子は頭が真っ白になった。
そしていざ自分の順番になると、眼前に巨大な穴が広がったような錯覚を覚える。
『あの・実は私は・・宇宙人なんです。』
口が勝手に動いてつぶやくような小さな声で言った。
嘲笑の声が、まじかに聞こえる気がする。
羞恥で体が火照る。このまま消えてしまいたいと思った。
残りの参加者の秘密はもう聞こえなかった。
コンコンとノックする音、黒服姿の男性が、年越しそばを差し入れてきた。
それは、留美子が今まで食べたこともない程美味で、上品な味だった。
そのうち、除夜の鐘がどこからか聞こえてくる。
『5・4・3・2・・・』
大音量のカウントダウンの声が頭上から聞こえてきた。
『新年明けましておめでとうございま~す!!』
イベント終了のアナウンスが響いた。
参加者の誰もが、家路につけると思っていたはず・・・
留美子がドアを開けると、救急隊員が立っていた。
『!?』
そのまま有無を言わさず、寝台に乗せられた。横の部屋からも同じく
男性が寝台で運ばれていくのが見える。
留美子は、教祖の秘密をばらした人だと思った。
しかし、そのまま病院に連れて行かれてしまった。
(私、頭がイカレてるって思われたんだ・・・)
それから違う部屋は警官が立っていた。そのまま警察に連行される参加者も
いたのだった。
新年最初の朝、留美子は病室で目覚めた。
気が付くと、ベットのそばで、誰かが新聞を広げてる。
大見出しで『年末大そうじ』の文字。警察が犯罪者を多数検挙したとある。
『ホームレスの不始末か』
閉店して廃墟になったインターネットカフェが、ホームレスの不審火により
火事になったと掲載されていた。多数の犠牲者が出たと伝えてる。
いつの間にか、参加者はホームレスにされている。
おそらく身元不明者で葬り去られるだろう。
一部の参加者は、新しい年の日の出を見ることなく、【火の気】を見たようだ。
主催者側の判断で、値打ちのない秘密を吐いた参加者を処分したのだ。
『起きられましたか?』
新聞を閉じた男は、昨夜の黒服姿の男性だった。
『お迎えにまいりました・・』
留美子が窓の外を見ると、見たこともない物体が浮かんでいた。