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超越者  作者: 茶飯


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第四話 存在しないはずの脅威

第一層出口――


理人はロングソードを握りながら、

外へ足を踏み出した。


久しぶりの外気。


2026年8月17日 13時51分。


真夏の太陽に、

心地よい風が頬を撫でる。


ゴゴゴゴゴ……


巨大な塔が、

微かに震えていた。


次の瞬間。


足元が揺れる。


ズズズズズズ……


塔の外壁に亀裂が走る。


タワーが崩壊を始めた。


(始まったか…)


巨大な瓦礫が外壁から剥がれ落ちる。


ドゴォォォン!!


轟音と共に地面が揺れた。


土煙が舞い上がる。


タワーから距離を取る。


塔の上部から下部へ。


連鎖するように亀裂が広がっていく。


まるで役目を終えたかのように。


「早く避難所まで戻るか…」


ひまり。


タケさん。


凛さん。


今ならまだ全員生きている。


理人はロングソードを握り直した。


フシュゥゥゥ……


通路の先から荒い鼻息が聞こえる。


バキバキ…


豚型異形がブロック塀を握りつぶしながら、

理人を見ている。


「あの時のアイツか…」


ロングソードを構えた。


ブシュゥゥゥ――!!


異形が鼻息を吐く。


次の瞬間。


ドゴッ!!


地面を砕きながら、

理人へ向かって突進した。



――身体強化 ×1.5



異形は右腕を振り下ろす。


「クッ!」


理人は直前で横へ避ける。


(相変わらずのスピードとパワーだな…)


異形へ向かって跳ぶ。


狙うのは首。


ロングソードを振り抜き、

切断しにかかる。


カンッ!


だが。


刃は剛気に弾かれ、

首を切り裂けない。


「チッ!」


着地と同時に身体を捻る。


回転を乗せた斬撃が、

異形の頭部へ叩き込まれた。


グオッ!


巨体がよろめく。


異形は理人から距離をとった。


(剛気が頭に集中している…)


(首ならギリ落とせると思ったが…無理だな…)


ブシュゥゥゥ――


異形が鼻息を吐く。


血走った瞳が、

理人を睨みつけていた。


ドゴッ!!


ブロック塀を破壊し、

その残骸を理人に向かって投げつける。



――護身剛気(ごしんごうき)



胸と左腕へ剛気を集中。


ガンッ!!


コンクリート塊が直撃した。


「グッ!!」


一歩後ろへ押し込まれる。


(痛ぇな…)


(まともに受け続けるのはマズい)


続けざまに飛来する破片を、

ロングソードで叩き落とした。


カァンッ!



――身体強化 ×1.7



理人は全身を覆う剛気を、

前面へ集中させる。


ロングソードを突き出した。


理人は異形へ向かって駆け出す。


ブンッ!


異形が再び残骸を投げつける。


ガンッ…


前面に集中させた剛気によって、

飛来する瓦礫を受け流す。


(このまま一気に貫く!!)


前方へ体重を乗せる。


狙うのは腹部。


ロングソードを突き出したまま、

異形へ突っ込んだ。


グオッ!!


異形は咄嗟に両手で腹をガードする。


グサッ…


「クッ!」


異形の右腕にロングソードが突き刺さった。


グオォォォォ!!


異形が苦痛の咆哮を上げる。


右腕を振り回し、

ロングソードごと吹き飛ばそうとした。


理人は咄嗟に柄から手を放す。


ブンッ!!


巨大な腕が目の前を通り過ぎ、

理人は一歩後ろへ飛び退いた。


異形の注意が一瞬、

突き刺さったロングソードに行く。


(ここだ!!)


空間収納から予備のロングソードを取り出す。


再度剣を構え、

異形の腹部へ突っ込む。


グサッ…


ロングソードが腹部へ突き刺さる。


グオッ!?


異形の動きが止まった。


「フンッ!」


体重を乗せながら、

横へ薙ぐ。


ブチィッ――


腹部が大きく裂けた。


グオォォォォォ!!


異形が絶叫し、

膝をつく。


黒い血液が地面へ飛び散った。


豚型異形から魔力が空中へ霧散する。


(一瞬、剛気が乱れなければ厳しかったかもな)


理人はロングソードを振り、

血を払う。


ブロロロロ……


エンジン音が近づく。


道路の向こう側から、

一台の高機動車が飛び出してきた。


キキィィィッ!!


バタンッ!


助手席から見慣れた男が下りてくる。


迷彩服。


防弾チョッキ。


89式(はちきゅうしき)小銃。


(タケさん!!)


理人は思わず目を見開く。


「そこのお兄さん!早くこっちへ!」


小銃を構えながら理人を手招きする。


その間にも。


高機動車は大きく切り返した。


車体が半回転し、

進行方向を反転させる。


いつでも離脱できる体勢。


理人は武の元へ向かった。


無意識に足が速くなる。


直後。


後部ドアが開く。


三名の隊員が飛び出した。


素早く散開し、

89式(はちきゅうしき)小銃を豚型異形へ向ける。


運転手は車内に残ったまま、

エンジンを吹かし続けていた。


「よし…そのまま後ろへ行け…」


武は理人の背中を軽く押した。


グオォ……


豚型異形の身体がわずかに痙攣する。


武は89式(はちきゅうしき)小銃を構えた。


ダァン!


ダァン!


ダァン!


頭部へ三発。


ブシュッ――


黒い血液が飛び散る。


(効いた…?)


武の眉が僅かに動く。


「死んだのか…?」


「これから確認する…」


自衛官二人が小銃を構えたまま異形に近寄る。


一人が横へ回り込み、

もう一人が正面から監視する。


豚型異形は動かない。


武は異形の肩を足先で軽く蹴った。


反応はない。


数秒――


誰も動かない。


豚型異形は微動だにしなかった。


「……動かねぇな」


「死んでるみたいですね…」


武は小さく息を吐いた。


「小銃は効かないはずだよな?」


「さぁ……どうなってるんですかね……」


武は高機動車へ振り返った。


「終わりだ!」


「第一・第二分隊を現在地に呼んでくれ」


「了解!」


周囲を警戒していた隊員達の肩から、

僅かに力が抜ける。


武は改めて理人へ視線を向ける。


血まみれの服。


握られたロングソード。


「大丈夫ですか?」


「えぇ…なんとか…」


理人は小さく頷いた。


「そうですか…」


武は豚型異形の死体へ視線を向けた。


(状況的に…この人がやったんだよな…?)


そして再び理人を見る。


「お兄さん…」


「よく生きてましたね…」


「そうですね…」


理人は曖昧に笑った。


ブロロロロ……


遠くからエンジン音が近づいてくる。


「来たか…」


三台の高機動車、一台の73式(ななさんしき)中型トラックが、

こちらへ向かって走ってきていた。


「とりあえず車の中で話を聞かせてもらっても?」


「いいですよ…」


(何だか寂しいな…)


理人達は高機動車の後部座席へ乗り込む。


ガタンッ――


ドアが閉まった。


車内には土埃と油の匂いが漂っている。


武は理人の正面へ腰を下ろした。


「まず名前を教えてもらってもいいですか?」


「理人です」


「理人さんですか…俺は武です」


89式(はちきゅうしき)小銃を両膝の上に置いた。


銃口は斜め下、後部ドアの方向へ向けられている。


(変わらないな……)


理人は思わず小さく笑った。


武は改めて理人の姿を見る。


血に染まった服。


そして膝の上に置かれたロングソード。


(どう見ても一般人じゃないよな…)


「色々話す前に着替えていいですか?」


「あぁ…とりあえず代わりになるものを探してくる」


「いえ、大丈夫です」


そう言うと、

膝の上に置いてあったロングソードを空間へ収納する。


「ッ!?」


武の視線が理人の膝へ向く。


次の瞬間には、

理人の手に替えの服が握られていた。


「……今のは?」


武の目が僅かに見開かれる。


「Abilityって言う力らしいです…」


「アビリティ?」


武は首を傾げる。


「二日前…タワーの中に入ったんです…」


理人は血に濡れた服を脱ぎながら、

言葉を選ぶように続けた。


「そこで手に入れた力で…」


「ナインっていう人に、使い方を教えてもらいました」


「なるほど…?」


武はしばらく黙り込んだ。


「てか…入ったの? あのタワーに…?」


何とも言えない表情を浮かべる。


「あの化け物に追われて、成り行きで…」


理人は外に視線を向ける。


複数の自衛隊員がトラックへ異形の死骸を積み込んでいた。


「もしかして……二日前、あの化け物に追われていたのって理人さんなんですか?」


「……たぶん、そうです」


武は数秒、黙り込んだ。


「……すまなかった」


静かに頭を下げる。


「本来なら、君にそんな危険な真似をさせるべきじゃなかった」


「そんな…大丈夫ですよ…」


理人は少し困ったように笑う。


「あれは、俺が勝手にやったことですから…」


武は頭を上げ、

理人の顔を見る。


「それでも、君が引きつけてくれたおかげで助かった人がいる」


「本当に…ありがとう」


理人は視線を逸らす。


「気にしなくて大丈夫ですよ…」


「それより全員無事…なんですか?」


「えぇ…怪我人はいますが、全員生きています」


(よかった…みんな大丈夫だったんだな…)


「よし…回収作業が終わってから避難所に向かいます…」


武は立ち上がり後部ドアに手をかける。


「それまで少し待ってて下さい…」


「はい…わかりました」


「道中でAbility?でしたっけ…続きを聞かせてください」


「はい…」


理人は窓の外へ視線を向けた。


「ついでに剣も回収してきますね」


「お願いします…」



================================



ブロロロロ……


高機動車と73式(ななさんしき)中型トラックが車列をなしている。


後部座席に複数の自衛隊員が腰掛け、

その間に理人が挟まれている。


理人はタワー内部で起きたことを武へ説明する。


Ability。


魔力。


スクロール。


そしてナインという謎の男について。


武は途中で何度も質問を挟みながら話を聞いていた。


「それで超能力みたいなのを手に入れたと…?」


「えぇ、まだ余ってるので使ってみますか?」


理人は空間からクリアファイルを取り出した。


「いや…いきなりはやめておくよ」


「別に疑ってるわけじゃないが」


「ただ、万が一何かあって任務に支障が出たら困るからな」


「そうですか…」


クリアファイルを膝の上へ戻した。


「一応何枚か貰えるか?」


「上に報告しておきたい」


「いいですよ」


魔力知覚2枚、魔力操作2枚のスクロールを取り出し、

武に手渡す。


「さて…着いたぞ」


車列はグラウンドの中へ入っていく。


武は高機動車から降りた。


「こっちについてきてくれ」


「先に受付と名簿登録を済ませよう」


「はい」


理人も車両から降りる。


グラウンドには複数の自衛隊車両が見えた。


周囲では自衛隊員や警察官が警戒している。


武に案内され、

理人は校舎へ入った。


一階の空き教室へ通される。


教室の中では数名の市役所職員が机を並べ、

避難者の情報を整理していた。


「新規避難者一名です」


武が声を掛ける。


「ありがとうございます」


職員の一人が立ち上がった。


「ここにお名前をお願いします」


手元の名簿に自分の名前を書き込む。


――中村 理人。


「鈴木 ひまりって人いますか?」


「少々お待ちください」


職員は手元の名簿を確認した。


「鈴木ひまりさんですね……」


職員は理人の顔を見た。


「一昨日から中村さんを探されていましたよ」


「今は三階の三年一組にいるはずです」


理人は小さく息を吐いた。


「ありがとうございます!」


軽く頭を下げる。


(やっと会える…)


「武さん…俺行きますね」


「あぁ、早く行ってあげな」


理人は教室を飛び出した。


廊下を足早に進む。


三階――


廊下の先には、


『三年一組』


と書かれたプレートが見える。


理人は無意識に歩く速度を落とした。


「理人…?」


聞き覚えのある声。


理人は反射的に振り返る。


そこには、ひまりが立っていた。


「ひまり!」


お互いに駆け寄る。


「おお~!お前無事だったか!――」


ドンッ――


「おおっ…?!」


理人は黙ったまま、

ひまりを抱きしめた。


「ひまり…良かった無事で…」


「はぁ…それこっちのセリフなんだけど…」


お互いに顔を見合わせる。


(本当に夢じゃないんだよな…また会えるとは思ってなかった…)


「なに…?泣いてんの…?」


ひまりは理人の顔を見て少し笑っている。


「うっせ…泣いてねぇよ」


理人は涙を軽く拭う。


「とにかく無事でよかったよ」


「あぁ…ひまりもな…」


緊張していた表情が少し緩んだ。


「そうだ!お菓子あるんだけどさ~食べる?」


「そうだな…!」


「んじゃあっち行こうよ~」


ひまりが理人の手を引き教室へ入ろうとする。


次の瞬間――



――魔力探知。



「ッ!!」


突然巨大な魔力の波が周囲を襲う。


(この感じ……)


(北の化け物が使う魔力探知と似ている……?)


(いや……それよりは遥かに弱い?)


理人の表情が再び険しくなる。


「理人?どうしたの?」


ガッシャァン!!


グラウンドに音が響く。


理人たちは窓の外、

グラウンドへ視線を向けた。


「何アレ…?」


グラウンド中央。


73式(ななさんしき)中型トラックの荷台が、

大きく歪みトラックのシートは破れていた。


トラックを中心に周囲の車両の窓ガラスが砕け散り、

何かが突き刺さったような穴ができている。


メキメキ……


鉄板が内側から膨らむ。


「全員退避!!トラックから離れろ!!」


ビリッ…


トラックのシートが裂け、

中身が露わになる。


そこにあったのは、

細身人型の異形。


手足は不定形で液状。


載せてあったはずの豚型異形は姿を消していた。


(なぜあの化け物がここに…?)


(少なくとも前はこんなことなかったはずだ…)


ジジッ――


スピーカーからノイズが走る。


『避難所の皆さんに連絡します』


『落ち着いて一階校舎裏へ移動してください』


『グラウンドには、決して近づかないでください』


校舎内に動揺が広がる。


「皆さん!落ち着いてこちらに来てください!」


教師風の男が階段の前に立ち、

避難民たちの誘導を始めていた。


「理人!私たちも早く行こ!」


「理人…?」


理人の視線はグラウンドから離れない。


(聞いた話だと、ユーラシア大陸全体を壊滅させるレベルの化け物だったはずだ…)


(だが……)


細身の異形を見つめる。


(どう見てもそんな化け物には見えない…)


(もしかして今はまだ弱い状態なのか…?)


(強くなる前に殺すべきだ…)


(だが……自衛隊と協力しても勝てるか怪しい…)


理人は拳を握る。


(ここは一旦ひまりと一緒に逃げるべきか……?)


グラウンドへ視線を向けた。


ダダダダダッ!!


武達が車体ごしに細身の異形へ銃弾を浴びせている。


「全員校舎側へ寄れ!校舎に当てるなよ!」


「負傷者は後回しだ!」


「ハチヨン用意しろ!」


武は大声で叫びながら、

指示を飛ばしていた。


バコッ…


「グハッ!」


隊員の一人に何かが突き刺さる。


「クソッ!何が起きてるんだ!」


彼らには見えていない。


だが理人には見えていた。


細身の異形から伸びた半透明の触手が、

隊員達を襲っている。


(あれは魔力の触手…魔力が見えなきゃ何が起きてるのかすら分からない…)


(今逃げたら…タケさん達は…)


脳裏に、

血まみれの武の姿が浮かぶ。


『……すまん……』


最期に聞いた声。


凛を抱きしめたまま、

動かなくなった背中。


理人は奥歯を噛み締めた。


「理人?」


ひまりが不安そうに見上げる。


「ひまり……ごめん先行っててくれ」


理人はそのまま窓から飛び降りた。


「えぇ!ちょっと!ここ三階だよ!!」


後ろからひまりの声が聞こえる。


(やるしかねぇッ!!)


足に護身剛気を集中させる。


迫り来る地面へ向かって、

理人は真っ直ぐ落下した。

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