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超越者  作者: 茶飯


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第一話 回帰

薄暗い路地を、四人は息を切らしながら駆けていた。


崩れたビルの隙間を風が吹き抜け、鉄骨の軋む音が響く。

背後では、湿った肉が地面を叩くような音が、途切れることなく追いかけてきていた。


「……オラァァァア!!」


良太が叫びながら斧を振り下ろす。


鈍い衝撃音。


紫黒色の肉塊がアスファルトへ叩き潰され、肉片が周囲へ飛び散った。


だが、地面に散った肉片は小さく蠢いている。


「良太! こっちも頼む!」


武がライオットシールドで別の化け物を突き飛ばした。


顔のない異形が壁へ激突する。


「うおッ!!」


良太がすぐさま駆け寄り、追撃のように斧を振り下ろした。


肉が潰れ、紫黒色の液体が飛び散る。


「チッ……数が減らねぇ……!」


武が舌打ちする。


路地の奥。

暗闇の向こうから、まだ複数の影がこちらへ近づいてきていた。


理人は荒い呼吸を整えながら、周囲へ意識を向ける。


――魔力探知。


理人を中心に、薄い波紋のような魔力が周囲へ広がった。


背後から複数の反応。

だが北側から流れ込んでくる、巨大な魔力反応が感覚を乱していた。


細かい位置までは把握できない。


それでも、右側の反応が比較的薄いことだけは分かった。


「右の路地だ! そっちの方が少ない!」


その時、理人の視界に、半ば崩れた雑居ビルが映る。


「タケさん、あのビルだ。一旦あそこに逃げよう」


武が視線を向ける。


入口付近は瓦礫で半分埋まっていたが、内部にはまだ入れそうだった。


「分かった……フンッ!!」


武が正面から迫ってきた化け物をシールドごと押し飛ばす。


異形の身体が壁へ叩きつけられ、その隙に四人はビルの中へ飛び込んだ。


「凛さん、コレ……!」


理人が空間から水晶のようなものを取り出し、凛へ投げ渡す。


凛はそれを受け取ると、すぐに前へ出た。


「みんな、私の後ろに……!」


水晶へ魔力を流し込む。


――波状結界(はじょうけっかい)


淡い光が空間へ広がった。


直後、追ってきた化け物が結界へ激突する。


だが、半透明の壁が波打つように揺れ、侵入を拒んだ。


「そっち持っててくれ!」


武が近くのテーブルを持ち上げる。


理人もすぐにイスや棚を引きずり、入口前へ積み上げていく。


即席のバリケード。


外側からは、肉塊が壁を叩く鈍い音が響き続けていた。


「これでやっと……一休みできる……」


良太が壁へ背中を預け、その場へ座り込む。


肩で荒く息をしていた。


額から汗が流れ落ち、斧を握る手も小さく震えている。


「そんなゆっくりしてられないぞ」


武がリュックから地図と栄養ブロックを取り出す。


「今のうちに食っとけ…」


床に地図を広げながら、

栄養ブロックを投げ渡す。


「本当に愛知まで行くの? さすがに遠すぎない?」


凛が武の隣へ腰を下ろす。


「確かにそうだが…他にマシな場所がないだろ」


武は地図へ視線を落とした。


「理人…悪いな、もう人を探せる状況じゃないんだ……」


「あぁ、分かってるさ…それくらい…」


その時、

理人の指が、

無意識に左手の指輪へ触れる。


「愛知まで……あと150kmくらいかしら」


凛がペットボトルの水を口へ運ぶ。


「何か移動手段が欲しいわね……」


武は地図の端を指で押さえた。


「まともに動く車があればな」


「……まぁ、結局自分の足で移動するしかねぇだろ」


「マジで!? さすがに足が死んじゃうよ……」


良太が顔をしかめる。


武は小さく息を吐いた。


「そんな心配すんな。当面の目標は他の生存者と合流することだ」


一瞬だけ、視線を落とす。


「……愛知まで行かなくても、どこかで合流できるかもしれない」


その時だった。


「――!?」


理人の表情が変わる。


空気が重い。


まるで巨大な何かが、街そのものへ圧し掛かってきたようだった。


「何この魔力……!?」


凛が顔を青ざめさせる。


理人の魔力探知にも、異常な反応が広がっていた。


波のように放った探知が、

途中で掻き乱される。


反射して返ってくる魔力波が、正常に読めない。


それほどまでに巨大な魔力だった。


「不味い……お前ら荷物まとめろ!」


武が即座に立ち上がる。


「え!? もう行くの……!?」


良太が慌てて声を上げた。


その瞬間。


――ズンッ……


地面が揺れた。


建物全体が軋み、

天井から埃が落ちてくる。


理人は即座に判断する。


「みんな俺につかまれ!」


三人が反射的に理人へ掴まった。


次の瞬間。


――縮地(しゅくち)


床が爆ぜる。


四人の身体が一瞬で上昇し、

天井を突き破って屋上へ飛び出した。


「はぁっ……はぁっ……!」


理人が荒く息を吐く。


四人同時の高速移動。

しかも建物を貫通したことで、魔力消耗が一気に跳ね上がっていた。


「うわっ! 何アレ!?」


良太が叫ぶ。


全員が反射的に空を見上げた。


そこにいた。

数百メートル先。


八十メートルはある、半透明の巨大な異形。


輪郭は不定形に揺らぎ、

向こう側の景色がぼやけて透けて見えている。


まるで巨大な肉塊を、

無理やり人型へ押し潰したような姿だった。


「なんだよ……アレ……」


理人が思わず呟く。


その瞬間。


巨大な化け物の腕の一部が、

ロープのように細長く変形した。


「ッ――」


空気が裂ける。


直後。


凄まじい破裂音が街へ響き渡った。


鞭のように振り抜かれた触手が、

近くのビルへ直撃する。


コンクリートが爆ぜ、

中層部分が横薙ぎに砕け散った。


衝撃でビル全体が傾く。


「ヤベェ、理人……良太を頼むぞ!」


武が即座に凛を抱え上げる。


「え、ちょ――」


凛が言い終わる前に、

武が屋上から飛び降りた。


「俺らも行くぞ……!」


理人が良太の腕を掴む。


「おっ……と!?」


良太がバランスを崩しかける。


その直後。


――金剛不壊(こんごうふえ)・第一段階(不完全)


武の身体表面へ魔力が走った。


「フンッ!! ……しょっ、と!」


轟音と共に着地する。


アスファルトが砕け、

周囲へ亀裂が走った。


その時。


巨大な異形が、

再び触手を振り上げる。


「マズ――」


横薙ぎの一撃。


凄まじい衝撃波が理人たちへ襲い掛かった。


「グハッ!!」


理人と良太の身体が吹き飛ぶ。


二人まとめて建物の壁へ叩きつけられた。


コンクリートが砕け、

瓦礫が降り注ぐ。


「お前ら!! 大丈夫か!?」


武が叫ぶ。


「イッテェ……こっちは大丈夫~……」


瓦礫の中から良太の声が返ってきた。


理人は荒い呼吸をしながら、

空間収納から回復薬を取り出す。


蓋を開け、

そのまま一気に飲み干した。


ほんのり甘い味が口に広がる。


直後、

全身に走っていた鈍い痛みが少しずつ引いていった。


「良太も一応使っとけ……」


理人が回復薬を差し出す。


だが良太は苦笑しながら首を振った。


「これくらい平気だって……俺のAbilityならすぐ治るし」


良太の腕と腹は、

瓦礫で大きく削り裂かれていた。


広範囲の皮膚が剥がれ、

赤黒い筋肉が露出している。


だが――


傷口が蠢くように動き、

裂けた皮膚が少しずつ再生していく。


流れていた血も、

徐々に止まり始めていた。


「いや、一応使っとけ」


理人はそう言うと、

半ば無理やり回復薬を傷口へ振りかけた。


液体が傷へ染み込み、

再生しかけていた皮膚がさらに加速する。


「うっわ、冷てぇ……! 染みるって……!」


良太が顔をしかめる。


「急いでここから逃げるぞ…」


二人は崩れた建物から飛び降り、

武たちの元へ合流した。


「フンッ!!」


武が迫ってきた異形を蹴り飛ばす。


紫黒色の肉塊が吹き飛び、

後方の異形を巻き込みながら地面へ転がった。


――波状結界(はじょうけっかい)


凛が先頭で結界を展開する。


半透明の波紋が前方へ広がり、

群がってきた異形を強引に押し退けていく。


「なんだか数増えてない!?」


凛が焦った声を上げる。


「かもな……!」


武が舌打ちした。


その時。


「タケさん、待たせた」


理人が後方から駆け戻ってくる。


「お前ら!! 俺と凛の間に入れ!」


武が叫ぶ。


「このまま結界で押し出しながら逃げる! 交代で結界を維持してくれ!」


「おっけー! タケさん任せといて!」


良太が叫びながら斧を振り回す。


だが。


奥から奥へ、

次々と異形が流れ込んできていた。


結界が徐々に押し返され始める。


「理人君……お願いしていい?」


凛が苦しそうに言う。


「あぁ……!」


理人が前へ出る。


右腕へ魔力を集中。


周囲の空間が微かに軋む。


――十・心剣(じっ・しんけん)


次の瞬間。


空間が歪み、

前方の異形がまとめて両断された。


肉塊が崩れ落ち、

一瞬だけ前方に道が開く。


「理人……この調子で頼む!」


武が叫ぶ。


だが理人の表情は険しかった。


「タケさん……段々数が増えてる。このままじゃすぐ限界が来るぞ」


理人が巨大異形を睨みつける。


数百メートル後方。


半透明の巨体が、

ゆっくりとこちらへ近付いてきていた。


「そうは言っても今は耐えるしかないだろ…… ここを抜ければ数も減る! それまでの辛抱だ!」


武が叫ぶ。


理人は歯を食いしばる。


このままでは追いつかれる。


しかも、

あの触手攻撃。


遠距離から建物ごと薙ぎ払われれば終わりだ。


「……俺が、あの馬鹿デカいのを止める」


武が目を見開いた。


「はぁ!? 正気か!? いくらなんでも無茶だ!」


「だがこのままじゃ追いつかれて全滅する…」


「理人さんなら倒せるんじゃない?」


良太が言う。


「今までの奴とスケールが違いすぎる……! いくらお前でも無茶だ!」


武が叫んだ。


「タケさん……分かってるよ。通用するか試すだけだ、すぐ戻る」


理人が視線を巨大異形へ向けたまま言う。


武は歯を食いしばり、

理人の腕を掴もうと手を伸ばした。


「クッソ! おい! ちょっと待て!」


だが。


武の手が届くより先に、

理人の姿が掻き消える。


――縮地(しゅくち)


景色が一瞬で流れる。

理人は巨大異形との距離を一気に詰めた。


――心剣(しんけん)


空間が歪み、腕を切断する。


だが。


切り離された肉片が蠢き、

半透明の肉体へ再び吸い寄せられていく。


(なんだ?粘土みたいに戻るのか?)


理人が舌打ちする。


その瞬間。


巨大異形の身体が波打った。


「ッ――!」


腕の一部がロープ状に変形する。


理人へ向かって、

超高速で触手が振り下ろされた。


――十・心剣(じっ・しんけん)


空間が歪む。


直後。


振り下ろされた触手が、

途中からまとめて切断された。


ズガァァァン――!!


切断された触手が地面へ激突し、

周囲の道路を粉砕する。


理人は後方へ飛び退く。


巨大異形の触手が、

連続で地面を叩き砕いた。


轟音。


アスファルトが爆ぜ、

周囲の建物へ亀裂が走る。


(余裕があれば倒そうと思ってたが……足止めすら難しそうだな……)


理人が歯を食いしばる。


その瞬間。


――ゾワッ。


背筋を冷たいものが走った。


「……ッ!?」


理人は反射的に後方を振り向く。


そこには、もう一体。


半透明の巨体が、

ビル群の向こうから姿を現していた。


「……マズい!!」


理人は即座に縮地(しゅくち)を発動する。


景色が一瞬で逆流した。


ビル群を飛び越えながら、

理人は武たちのもとに向かう。


だが。

「ッ――!?」


半透明の巨体が大きく波打つ。


次の瞬間。


肉体そのものが広がり、

理人を包み込むようにドーム状へ変形した。


「なッ――」


直後。


内側から、

無数の触手が一斉に襲い掛かる。


――百・心剣(ひゃく・しんけん)


空間が裂ける。


周囲の空間が無数に歪み、

襲い掛かってきた触手を次々と切断した。




その時。


ビル群の向こう側で、

武の表情が引き攣った。


「オイオイ…嘘だろ……」


ビル群の向こうから、

もう一体、半透明の巨体が姿を現していた。


進行方向を塞ぐように、

ゆっくりと街路へ身体を広げていく。


「……挟まれた?」


凛の声が震える。


「一旦理人と合流するぞ! 良太、今度はお前が結界を――」


武が言い終わる前だった。


波状結界(はじょうけっかい)へ、

巨大異形の触手が食い込む。


空間へ広がっていた魔力波が、

一気に押し返された。


「ッ――!!」


逆流した魔力が、

凛の手元へ走る。


次の瞬間。


水晶内部の魔力回路が耐えきれず、

砕け散った。


「凛さん! 大丈夫!?」


良太が慌てて振り返る。


「えぇ……なんとか……!」


凛が苦しそうに息を吐いた。


「俺が道を切り開く……! 俺について来い!」


武がシールドを構え、

異形の群れへ突っ込む。


肉塊を押し飛ばしながら、

強引に道をこじ開けていく。


その瞬間。


背後から、

再び巨大異形の触手が迫る。


良太は反射的に振り向いた。


「ッ――!」


足元へ魔力を流し込み、

地面へ身体を固定する。


「グハッ!!」


触手が直撃した。


皮膚が裂け、

赤黒い筋組織が露出した。


「良太!!」


「タケさん……俺は大丈夫だから!」


良太が歯を食いしばりながら叫ぶ。


だがその直後。


周囲の異形が、

一斉に良太へ飛び掛かった。


「良太君!!」


凛の叫び声が響く。


紫黒色の群れが、

一瞬で良太の身体を飲み込んでいく。


それでも。


「後で追いつくから!! 先行って!!」


群れの奥から、

良太の声が聞こえた。


武は歯を食いしばる。


「……クソッ!!」


立ち止まれば終わる。


武は凛を庇いながら、

理人のいる方向へ走り出した。


背後では、

良太の怒号と肉の潰れる音が入り混じって響いている。


武は奥歯を噛み締めた。


(死ぬなよ……良太……!)


その時だった。


遠方。


半透明のドーム内部で、

空間が幾重にも歪む。


轟音。


切断された触手が、

周囲の建物へ雨のように降り注いでいた。


「理人!!」


次の瞬間。


――縮地(しゅくち)


景色が一瞬で流れる


理人の姿が、

一瞬で異形の群れへ突っ込んだ。


(射程距離に入った!)


――百・心剣(ひゃく・しんけん)


空間が裂ける。


周囲へ無数の歪みが走り、

異形の群れが次々に切断される。


「はぁ……はぁ……」


理人は荒く息を吐く。


血まみれの良太が、

異形の死骸から顔を出す。


全身傷だらけだった。


裂けた皮膚はまだ再生途中で、

赤黒い筋組織が覗いている。


だが傷口は蠢くように動き、

少しずつ塞がり始めていた。


「イッテェ…今度こそマジで死ぬかと思った…」


「良太君!!」

凛の表情が一瞬明るくなる。


武も息を吐いた。


その瞬間。


頭上が暗くなる。


「――え?」


良太が顔を上げた。


巨大異形が、

崩れたビルの瓦礫を掴み上げていた。


次の瞬間。


ズゴォォォン!!――


凄まじい轟音。


巨大なコンクリート塊が、

砲弾のような速度で飛来する。


「良太ッ――!!」


グシャッ!!――


直撃。


巨大な瓦礫が、

良太の身体を押し潰した。


「……ぁ……」


凛の喉から、

掠れた声が漏れる。


瓦礫の下から、

血だけがゆっくりと流れ出していた。


「良太……?」


武が呆然と呟く。


直後、二体の巨大異形が、

同時に半透明の肉体を広げ始めた。


街路を覆い、

ビルを飲み込みながら、

半透明の肉壁が空へ伸びていく。


左右から迫ってくる肉壁。


逃げ道が、

ゆっくりと塞がれていく。


(ダメだ……逃げられない……!)


直後。


ドーム内壁が大きく波打った。


「ッ――!!」


無数の触手が、

四方八方から一斉に突出する。


「クッソォ……!!」


武が凛を庇いながら叫ぶ。


――金剛不壊(こんごうふえ)・第一段階(不完全)。


武の全身へ魔力が走る。


同時に。


――百・心剣(ひゃく・しんけん)


理人の周囲で空間が裂けた。


無数の歪みが走り、

迫ってきた触手を次々と切断していく。


武は凛へ覆い被さるように、

迫る触手を強引に受け止める。


ズガガガガッ――!!


凄まじい衝撃。


武の身体が押し込まれる。


「クッ……!!」


ズブッ……


武の金剛不壊(こんごうふえ)を突破し、

背中側から触手が突き刺さった。


鮮血が飛び散る。


次の瞬間には無数の触手が、

武と凛の身体をまとめて貫いた。


ズブブブブッ――!!


「ガハッ……!!」


「ァッ――!!」


「タケさん!凛さん!」


武たちへ意識を向けた理人の死角から、

別の触手が迫る。


グサッ……


「グッ……!」


回避が遅れた。

触手が理人の腹部を貫く。


さらに。


右腕。


右足。


連続で触手が突き刺さった。


「……凛……」


武が血を吐きながら、

震える腕で凛を抱き寄せる。


「武さん……」


武の瞳から、

涙が零れ落ちた。


「……すまん……」


掠れた声。


「俺が……もっと……」


言葉が続かない。


凛は小さく首を振った。


「……大丈夫……」


弱々しく笑う。

「あなたは……上手くやれてたわ…」


武に手を伸ばす。


「ごめんなさい…私も……上手くできてたら…」


凛の身体から、

ゆっくりと力が抜けた。


「……凛?」


返事はない。


武の瞳が揺れる。


「凛……ごめん…ごめんな……」


武はしばらく動かなかった。


ただ、

凛を抱き締めたまま、

俯いていた。


震える武の手には、

凛の手が重なっている。


血に濡れた二人の薬指で、

銀色の指輪だけが微かに光っていた。


「タケさんッ!まだ……間に合う!」


理人が空間から回復薬を取り出し、

武へ向かって投げる。


だが。

武は動かなかった。


「タケ…さん?」


半透明のドームが崩れ、

肉壁が急速に収縮する。

それでも動くことはなかった。


「タケさん!何やってんだ早く……」


次の瞬間。


半透明の巨大な拳が、

武たちを押し潰した。


「タケ…さん……」


理人は崩れ落ちる。


拳の隙間から、

血だけがゆっくりと流れ出していた。


「なんで……」


理人の呼吸が乱れる。


頭が真っ白だった。


半透明の肉壁が波打つ。


無数の触手が、

理人へ向かってゆっくりと持ち上がった。


「クソッ!!」


腹部を貫かれ、

右腕も右足もまともに動かない。


直後、

触手が振り下ろされる。


理人の身体が吹き飛んだ。


「グッ……」


理人は立ち上がれない。


「なんで…なんでだよ……」


無数の触手が、

一斉に理人へ叩きつけられる。


「天魔様……ナイン様……星座様……」


理人の震える唇が動く。


「助けてください……」


返事はない。


ただ聞こえるのは、

叩きつけられる触手の音だけだった。


「何が……超越者だよ……」


グサッ……


理人の体に触手が突き刺さる。


「ひまり……良太…タケさん…凜さん…」


「ごめん……」


「俺がもっと強ければ……」


意識が遠のく…

世界が、暗闇に包まれていく。




===========================




ガタンッ――


理人は膝から崩れ落ちる。


「クソォ……」


理人の瞳から、

大粒の涙が落ちる。


「みんな……ごめん……」


その場でうずくまる


「ごめん……」


ピィィィ――


ヤカンのお湯が沸く音が響く。

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