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第32話・焼き鳥

ショウ「大将。ねぎまとレバー頂戴」


女将「タレ?塩?」


ショウ「タレ」


テレビ《次回の『マユツバ!!都市伝説!!』は神出鬼没の妖怪姉妹に迫る!ターゲットは白スーツの美女と黒ジャージの女児。ジパング各地で目撃されており、『機密情報を扱う会議にいつの間にか紛れ込んでいた』、『通行人に寿司を食べさせていた』などのタレコミが寄せられている。だが、目立つ行動に反して、何故かその姉妹に関わった当事者は誰もその存在を認識できないらしい。果たして、彼女たちの正体は何者なのか!?世の摩訶不思議に当番組クルーが挑む!今夜8時放送!!お見逃しなく!!!》


ショウ「ほーん。『妖怪姉妹』だってさ。変なのがいるもんだねぇ」


女将「でも、白スーツと黒ジャージだなんてネエさんたちみたいね」


ショウ「おいおい大将。今のは『白スーツの美女と黒ジャージの女児』だろ?こちとら『白スーツの女児と黒ジャージの美女』よ?」


女将「格好は一緒じゃないの。それに妹さんなんか、いかにも美女って顔でしょ」


ショウ「見た目だけだよ。私に言わせりゃ中身はまだまだ女児!」


女将「そういうもんかねぇ……ほい、ねぎまとレバーのタレ一丁」


ショウ「あとビールのおかわりもらえる?」


女将「あいよ」


女将(……たまに店に来るこのネエさん、どんな仕事してる人なんだろう?ふらりと店に来ちゃチビチビと酒を煽って、妹さんが迎えに来るまで居座ってるけど。……いつもジャージだし、スポーツ関係者?……いや、だとしても、自宅と勤め先をジャージで移動するってこたぁないよな)


ハン「【ガラガラ】お晩っス」


女将「らっしゃい。ビールでいい?」


ハン「今日車なんスよ~。烏龍茶で」


女将(妹さんは妹さんで毎度毎度バッチリと白スーツキメてるのよねぇ……。ド派手な白スーツで会社勤めはないだろうし、本当になんの仕事してる人たちなんだろう?)


ハン「なんスか大将?あんまり見つめられると照れ臭いんスけど。オイラの顔に何かついてます?」


女将「え?ああ、その、いつにもまして別嬪さんだなぁと思って」


ハン「またまたぁ~」


女将(……はっ!もしや『ヤ』の付く商売の人!?組を正式に継いだ妹と、あえて末端のふりをする隠し玉の姉……言わば表の首領と裏の首領……そう考えれば白スーツと黒ジャージの格好なのも説明がつく)


ショウ「お前があんまりにも間抜けな顔してたから唖然としちゃったんだよ。そうでしょ、大将?」


ハン「あ?」


女将(わけあって表と裏の道を歩むことになった姉妹が人の目のある場所で面会するわけにもいかず、時々こうしてうちの店で密会をするようになった……きっとそうに違いない!)


ショウ「大将くらいの人にもなるといろんな客の顔を見てきただろうけど、お前みたいなのはそうそういないからね。面食らうのも無理はない」


女将(しかし、面と向かってその筋の人かとは聞けないよなぁ……どうしたもんか)


ショウ「ね、大将!大将は客商売やって長いでしょ?」


女将(しめた、向こうから商売の話を振ってきた!自然な流れでなんの商売してるのか訊き返せる!!)


女将「そうねぇ……戦前から数えたらもう20年近くやってるかな」


ショウ「そんだけ長くやってても、こんなアホ面の客は初めてでしょ?ハハハ


ハン「……【ゴンッ】」


ショウ「イテテ……悪かった悪かった!そんなおっかない顔すんなよ!!」


女将「商売の話と言えば、ネエさんたちはどんなお仕事してるの?……もしかして『ヤ』の付く商売?なんちゃって」


ショウ「……」


ハン「……」


女将(あ、訊いたらマズかった?)


ショウ「……やっぱり大将にはバレちゃってたか」


女将「ああ、いいのよ、全然!言いたくないなら無理に言わなくても!!」


ショウ「いいんだ。実は私たち……ヤ……


女将(『ヤ』!?まさか本当にヤク


ショウ「役者なんだ」


女将「……ん?」


ショウ「役者と言ってもアマチュアの劇団員だけどね。年に数回公演をやってて、そこで舞台に立つんだ。過去には主役を張らせてもらったこともある。……ただ、やっぱり現実は厳しいよ。とても生計を立てられるような商売じゃない。バイトの掛け持ちをして日銭を稼いでる。いくら役者を自称してても、やってることは実質フリーターだよ」


女将(『ヤ』の付く商売って、役者かい!)


ハン「……両親には役者なんかよりも実家の家業を継げって言われてたんスけどね」


女将「……その家業ってのは?」


ハン「……ヤク……


女将(『ヤク』!?やっぱり実家の方はヤク


ハン「薬剤師っス」


女将「……」


ハン「戦前、実家はとんでもない田舎……いわゆる限界集落って呼ばれてる地域で、両親は薬局を経営してたんスよ。薬局と言いつつ、食料品や日用品なんかも置いてあって、近所の年寄の拠り所になってたんス。近所にはスーパーもコンビニもなくて、うちの店が潰れたらいよいよ地元のインフラが崩壊するってことで、両親はなんとしてもオイラたちに店を継がせようと目論んでたんス」


ショウ「でも、私も妹もド田舎でジジババの相手する人生なんてまっぴらだった。一応、東京の大学の薬学部に進学するところまでは親の言いつけを守ってたんだけど、卒業後は姉妹揃って東京に残ったもんだから、親にはしこたま怒鳴られたよ。結局喧嘩別れして、その後に戦争が始まって、それっきり……ってね」


女将「そ、そうだったの……」


ショウ「それに比べて、大将は立派に『ヤ』の付く商売やってるよ」


女将「え?」


ショウ「私が知る限り、大将は世界一の焼き鳥屋だよ。今日もうまかった。ごちそうさん」


女将「あ……ああ、毎度ご贔屓にしてもらってどうもね!」


ハン「ところでオイラの烏龍茶まだっスか?」


***


ナレーション4「雪ウサギ隊は人里に下りることもあった。整備されていない斜面を軽々と歩き、尾根2つを悠々と越え、集落に向かう。寂れた集落ではあるものの、人工物のひとつもない山中に比べればだいぶ文明的な様相を呈していた」


メガネ「ゼェ、ゼェ……」


ハツ「着いたわ。ここがあたしたちの行きつけの村よん」


メガネ「アンタたち、いつもこんな山道を行ったり来たりしとるん?わざわざ山ん中で野宿せんで、村に住んだらええんとちゃうの?」


ヒレイ「そうもいかねぇんだよ。正規軍を辞めた後、軍の連中が俺たちをつけ回すようになったんだ」


メガネ「え?なんで?」


ヒレイ「実は正式な退役の手続きを踏んでねぇんだ。軍を辞めたのは方向性の違いが原因なんだが、反乱軍との抗争が激化してるって時にそんなことをバカ正直に伝えたら敵との内通を疑われて拘束されかねねぇだろ?かと言って、世話になった組織を黙って去るのも不義理だと思ってな。最低限の挨拶と去る理由をしたためた置き手紙を残してこっそりと抜けてきたんだ。そしたら予想外の騒ぎになっちまった」


メガネ「ええ……大問題やん」


ヒレイ「そんなわけで今じゃめでたく脱走兵よ。追われる立場って意味ではお前と似たようなもんかな」


メガネ「まあ山に住む事情はわかったけど、人目に付く場所にノコノコ出てきたらマズいんとちゃう?アンタ、仮にも最高司令官やってた程の有名人やろ?」


ヒレイ「この村に関しちゃ大丈夫だ。顔見知りばっかりだし、俺たちが軍に追われてることもみんな知ってる。なんてったって、軍のトップの権限をフル活用して、貧弱な道路しかなかったこの村に幹線道路を引いたのは他ならぬ俺だからな。交通網を整備した恩人を売り渡すなんてことはしないだろうさ。多分」


メガネ「顔見知りはともかく、巡回で来た軍の連中とうっかり鉢合わせたらどないすんの?軍のヤツやないにしても、たまたま村に来とった余所者がアンタを見て元北部地区最高司令官のヒレイやって気付く可能性もあるやろ?……いや、そもそもバニーガールがその辺うろついとったら肩書き関係なしに目立つわ!」


ヒレイ「問題ねぇ。このバニースーツには特別な機能がある。【カチッ】ほら、どうだ?」


ナレーション4「ヒレイがカチューシャの側面を弄ると、その姿がたちまちウサギに変わった」


メガネ「!?」


ヒレイ「正式名称は"Dash And Turn"スーツ……人呼んで"DAT(ダット)"スーツ!」


メガネ「脱兎?」


ヒレイ「ウサギに匹敵する走行力と旋回力を人体にもたらす衣装なんだが、外見をウサギに変える迷彩の機能も付いてるんだ。これがあるお陰で俺たちは雪山でも軽快に飛んだり跳ねたりできるし、人目に付く場所ではウサギに化けて行動できるってわけさ。凄ぇだろ?ブレンが作ったんだぜ」


メガネ「凄い……んやろか?」


ブレン「【カチッ】……」


ヒレイ「軍の連中も俺たちがウサギに化けられるってことは知らねぇからな。迂闊に喋りでもしなけりゃまずバレねぇ」


ハツ「【カチッ】一応、村の人たちはあたしたちがウサギに化けることを知ってるから、村の人相手ならウサギの姿で喋っても不審がられないわ」


メガネ「凄いけど……なんかのギャグにしか見えへんというか……B級映画でも見とるみたいや」


ハツ「あ、でもメガネウラさんはどうしましょうか?メガネウラさんはスーツ着てないし、生身で人前に出ることになっちゃうわね」


ヒレイ「ああ、そういやそうだったな」


マロー「心配ない。マローが耳のスペア持ってきた。ほら、これ使えばいい」


ナレーション4「マローからスペアのカチューシャを受け取るメガネ」


メガネ「あ、ありがと……?」


ハツ「流石マローね。抜かりないわ」


ヒレイ「耳だけじゃ身体能力は変わらないけど、迷彩の機能は使えるぜ。これで堂々と村を歩き回れるな」


マロー「マローとメガネウラ、お揃いだ。嬉しいか?【カチッ】」


メガネ「!?」


ナレーション4「変身したマローの姿は犬であった。よく見ると、メガネが渡されたスペアはウサ耳カチューシャではなく犬耳カチューシャである。雪ウサギ隊はウサギ4羽ではなく、ウサギ3羽と犬1匹の集団だったのだ」


マロー「ほら、早くお前も耳付けろ」


メガネ(ああ、付けたくない……レオタードよりはマシやけど、これを付けたら本格的に恥ずかしい格好の連中の仲間入りしてまうような気がする……)


***


ナレーション4「集落での雪ウサギ隊は便利屋のような立ち位置だった。足腰の悪い老人や子供の世話で手が離せない親に代わり、雑用をこなす。その対価として金銭を受け取ったり、風呂を使わせてもらったりする。そして、食料品や日用品を買い込んで再び山へと帰るのであった。先の話の通り、集落での彼女たちはウサギや犬の見た目で動き回っているのだが、そんなウサギや犬を遠巻きに怪しむ2人組の女がいた」


2人組の女1「あのウサギ、妙じゃないか?」


2人組の女2「どこがです?」


2人組の女1「不自然な程に人馴れしてるっていうか……」


2人組の女2「ペットじゃないですか?」


2人組の女1「放し飼いするか?ウサギを?」


2人組の女2「それか、野良だけど村全体で世話してる個体とか?地域猫みたいに」


2人組の女1「あと、さっきからウサギと犬が固まって行動してるのも引っかかる。こんな光景みたことあるか?」


2人組の女2「仲がいいんじゃないですか?」


2人組の女1「ウサギといえば雪ウサギ隊……何かしらの関係があるんじゃないか?」


2人組の女2「考えすぎですって」


2人組の女1「ウサギを模したラジコン、もしくはよく訓練されたウサギが雪ウサギ隊の手足として動いてるのかもしれないな」


2人組の女2「もういいじゃないですか。そろそろ切り上げて中央に帰りましょうよ~」


2人組の女1「あ!ドラッグストアからもう1羽出てきた!!ドラッグストアに出入りするウサギなんて前代未聞だぞ!?」


2人組の女2「ちょっと聞いてます?」


2人組の女1「見てみろよ、ウサギと犬が合流して山に入ってく!これは詳しく調べる必要があるんじゃないか!?」


2人組の女2「調べるにしたって一旦帰って報告してから調査のために人手を回してもらって


2人組の女1「バーロー!今追わなかったら二度と尻尾は掴めないかもしれないんだぞ!!四の五の言ってないで追いかけるんだよ!!!」


2人組の女2「ええー!?……もう、しょうがないんだから!」


ナレーション4「お察しの通り、2人組の女は雪ウサギ隊を捜索する軍の追手であった。続く」

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