第13話・お好み焼き
ショウ「妹、メシ何?」
ハン「……」
ショウ「妹?」
ハン「姉上……こんな世の中、跡形もなく消し去った方がいいと思わないっスか?」
ショウ(ヒェッ!不機嫌だ!)
ハン「『たこ焼き』って生地にタコを入れて焼いたものじゃないっスか。『たこ』焼きだから、どんな具材が入ってるか自明っスよね?消費者の誤解を招かない、わかりやすい名前っス。……それに比べて『お好み焼き』ときたら!何が入ってるのか曖昧で!『お好み』なんて耳触りのいい言葉で濁して!性根汚いったらありゃしないっス!粉物の風上にも置けない恥知らずっスよ!」
ショウ「は、はあ」
ハン「スーパーの惣菜コーナーで売ってるお好み焼きは買い手が具材を選べない以上、『お好み』焼きではないでしょーが!どっちかと言えば『お任せ』焼きじゃないスか!?クレーム入れてやる!」
ショウ「やめて」
ハン「止めないでください姉上!」
ショウ「まあ待ちなよ妹。今のお前は大きな誤解をしている」
ハン「なんスか誤解って」
ショウ「そもそも本来のお好み焼きは『生地に客の好みの具材を入れて焼く料理』じゃない。『大量に手に入った食材とか余りものの食材を生地に混ぜて焼いた安価な料理』なんだよ。第X次世界大戦終戦後に関西の露店が『エコノミー焼き』という名前で客に振る舞っていたんだけど、全国に広まる過程で聞き間違いが起こって『お好み焼き』として定着したってわけ。つまり、こういう食文化の背景を以て考えれば、スーパー側が具材を選んでお好み焼きを売るというのは何もおかしくないんだよ。だから、クレーム入れるのはやめなさい」
ハン「くっ……お好み焼きの呼び名にそんな由来があったなんて……!オイラが浅はかでした」
ショウ「ま、お前よりお姉ちゃんの方がちょっとだけ長く生きてる分、もの知りだからね。わからないことがあったら、まずはこのお姉ちゃんを頼ることだよ」
ハン「姉上……流石っス!」
ショウ「ハハハ、よしよし……」
ショウ(……うーん、『今の話は全部出まかせでした』なんて言ったら怒るかな?)
***
ナレーション「ミハラに連れられ、中央レジスタンス連合が拠点とするマンション『レジデンス反吐川サイド』のC棟に来たネクラとメガネ。いよいよ本格的に連合軍のメンバーとしての日々が始まった。今回は連合軍加入後の3ヶ月間の出来事の中からハイライトをお送りする」
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ナレーション「マンション地下の射撃訓練場にて」
連合軍兵士125「ミッちゃんって射撃うまいよね」
ネクラ「そうですか?」
連合軍兵士341「どこかで訓練受けたことあるの?」
連合軍兵士125「あ、もしかして『幕府』の人だったりする?」
ネクラ「いえ、私は幕府の人ではないんですが、戦前は一応士官学校に進学する予定でした」
連合軍兵士341「へー。じゃ、銃の扱いは独学?」
ネクラ「独学……もありますが、高校の先輩が幕府の陸軍にいたので、その人に教えてもらったのが大きいですね」
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ナレーション「マンションの屋上にて」
連合軍兵士49「へー、セミちゃん陸軍の人だったんだ」
メガネ「ええ。高校卒業して、7月半ばまでは二等兵やったんですけど、戦争が始まってから急遽一等兵に昇進することになって、現場に駆り出されたんです」
連合軍兵士49「じゃ、最前線でバリバリ戦ってた感じなの?」
メガネ「いや、後方支援に回されましたね。流石に二等兵がいきなりドンパチやれるほどの戦力にはならないって判断されたんだと思います。ウチは輜重兵やってました」
連合軍兵士49「なるほど。じゃ、うちの軍でも輜重兵やってもらうのがいいかもしれないね。ミハラさんがかっぱらってきた物資はほとんど幕府のものだから、扱いもスムーズにできるんじゃないかな」
メガネ「かっぱらってきた?」
ナレーション「中央地区のうち約20%は旧世界のジパング国・埼玉県周辺から引っ張ってきた土地である。4年前の『大宮戦争』の最中、大宮幕府が『暗黒作戦』を発動したことにより、コウノトリは人類を拉致できなくなった。この『暗黒作戦』は暗黒のドームで埼玉県一帯を包み、あらゆるコウノトリの干渉から人類を守るという最強の防御策であった。7ヶ月もの膠着状態が続き、コウノトリ側には有効な打開策がないものと思われたが、人類側の過激派同性愛推進団体『アンチY染色体協会』の暗躍によりドーム内各地に転送装置が設置され、最終的には土地を地盤ごと新世界にワープさせる形で人類は拉致された。事実上、人類の敗北である。後に、男女の住む次元が分断されるタイミングでかつて埼玉県であった土地は女の世界側に置かれることとなり、その中に大宮幕府の武器庫があったために、結果として旧世界の武器が新世界に持ち込まれたのであった」
連合軍兵士49「戦後のドサクサに紛れてミハラさんとモモさんが幕府の武器庫漁って、武器やら装備品やらを確保してたんだって。凄いよねー」
メガネ「へー」
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ハン「姉上、『パンケーキ』ってスイーツっスよね?パン屋さんで売ってるようなパンとは明らかに別物な気がするんスけど、なんで名前に『パン』ってついてるんスか?」
ショウ「世界恐慌の煽りで日本でも嗜好品の流通が厳しく規制された時期があって、当然ケーキも売っちゃダメだったんだけど、名古屋の洋菓子屋さんが『せめて子供たちには甘いものを食べてほしい』と思って、薄っぺらくてケーキっぽくないものを『パン』と言い張って規制から逃れつつ安く売ったのがパンケーキの起源と言われているんだ。その洋菓子屋さんへの敬意を示すために今も『パン』ケーキと呼ぶ風潮があるんだよ」
ハン「へー」
***
ナレーション「『中央地区スーパーリゾートセンター』内のレンタルスペースにて。横流しされてきたクロスレンチを扱えるかどうかのテストの光景である」
ミハラ「……うーん、反応なし。2人ともこのクロスレンチには合わなかったみたいだね」
メガネ「扱いの上手い下手はあるにしても、武器の方が使い手を選ぶなんてことがあるんですか?」
モモ「本来、正規軍で貸与されるクロスレンチには生体認証機能があって、敵や第三者に利用されるのを防ぐために、設定された所有者以外は扱えないようになっているんです。ですが、連合軍では認証機能を改造によって強引に初期化しているので、所有者の設定内容が壊れているんです」
ミハラ「で、設定が壊れてる都合上、基本的には使い物にならないんだけど、たまに無関係の人間がクロスレンチの所有者として誤認されることがあるのよ。だからこうやってクロスレンチが手に入るたびに、うちのメンバーの中に認証を突破できる人が1人でもいないかどうか地道に確かめてるってわけ。そういう意味では、使い手として選ばれるかどうか、武器次第なんだよね」
メガネ「へー」
ネクラ「なんだか非効率な気がしますが……」
ミハラ「うん。確かに非効率ではあるんだけど、クロスレンチ1つ使えるってだけで戦力が大きく強化されるからね。試す価値はあるよ」
ネクラ「ミハラさんとモモさんは2人ともクロスレンチ持ってますよね?何回くらい試して認証されるクロスレンチに当たったんですか?」
ミハラ「えーっと……4回くらい……だったかな?」
モモ「私は16回でした」
ミハラ「ま、何回やれば当たりを引けるか……そもそも当たりを引けるのか……そこんとこは結局運任せ……かな。うん」
***
ナレーション「マンションの別棟1階にて」
連合軍兵士49「ここ。マンションのC棟は居住スペースだけど、B棟は建物が丸ごと物資の保管場所になってるの」
メガネ「あ、この銃弾、昔運んでました」
連合軍兵士49「そうそう。そういう銃弾とか装備品とかが雑貨に紛れて置いてあるの。まあ、ガサ入れ対策で雑貨の方が圧倒的に多いんだけどね」
メガネ「でも、銃弾をこんな普通のマンションで保管して大丈夫なもんですかね?いざ発砲するって時に火薬がシケてて不発だったら目も当てられないですよ」
連合軍兵士49「どうかな?モモさんがたまに試し撃ちして問題ないか確認してるみたいだけど」
メガネ「箱は綺麗だし状態は悪くないみたいですけど……うーん、これほんとに使えるんか?」
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ハン「姉上、『おもゆ』っておかゆより薄いじゃないっスか。食感的にはむしろおかゆより軽いのに、なんで『おも』ゆなんスか?」
ショウ「重病人に食べさせる食事だからだよ。『重い』病の人でも食べやすくてお湯に近い食事だから『おも』ゆね」
ハン「へー」
ショウ「逆に『軽い』病の人に食べさせる濃いめのものは『かるゆ』と呼ばれていたんだけど、丁寧な言い方で『おかるゆ』になって、それが日常の中で略されて『おかゆ』になっていったんだよ」
ハン「へー……?」
ショウ「ちなみに『カルボナーラ』はこってりしてて胃に重い食事だけど、本場イタリアでは手軽に作れる軽食として扱われているから『カル』ボナーラなんだよ」
ハン「……姉上、もしかして適当な話でっち上げてオイラを騙してません?」
ショウ「ギクッ」
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ナレーション「マンション2階。ミハラの部屋にて」
ネクラ「えっ、南西地区……ですか?」
ミハラ「そう。『全地区一斉武装蜂起』するにあたって戦力を見直したら、南西地区がちょっと弱くてね。銃で戦える人がもうちょっと必要なんだ。もちろん前線で戦うのは連合軍のクロスレンチ部隊なんだけど、援護射撃要員として中央のメンバーから何人か増援を派遣したいのよ」
ネクラ・メガネ「……」
ミハラ「派遣メンバーにはミッちゃんかセミちゃんのどちらかを入れたいんだけど、セミちゃんは輜重兵として中央に残ってもらうのが良さそうだから、ミッちゃんにお願いしたくてさ。どうかな?」
ネクラ「……わかりました。私が行きます」
メガネ「!」
ミハラ「本当?助かるよ」
メガネ「……」
ミハラ「ごめんねセミちゃん。妹分が心配なのはわかるけど、勝機を掴むにはこれが最善だと思うんだ」
ネクラ「メガネさん……行っていい……ですよね?」
メガネ「…………ええ、わかってます。必ずコウノトリに勝って、また生きて会えばいい。それだけですから」
ミハラ「うん、ありがとう」
ネクラ「……大丈夫。絶対帰ってきます」
ミハラ「出発は来週の予定だから、時間のある時に荷物をまとめておいてね。あとは……2人でよくよく話し合って……離ればなれになる前の心の準備も……ね」
ネクラ・メガネ「……」
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ナレーション「中央地区で輜重兵の役割を得たメガネ。未知の南西地区へ向かうことになったネクラ。連合軍の武装蜂起を控え、別行動を取ることになった2人を待ち受ける展開やいかに?次回『コウノトリの野望』第14話に続く!」




