第12話・改装~菓子折り~
ナレーション「大規模商業施設『中央地区スーパーリゾートセンター』にて食事を済ませたネクラとメガネ。ミハラに案内され、連合軍の本部に到着する」
ミハラ「ほらここ」
メガネ「へぇ~、立派なマンションですね」
ミハラ「そ。例によって貸主さんが連合軍に協力的な人でね。寝泊まりと物資保管の場を提供してもらってんの」
ナレーション「中央地区N市所在の『レジデンス反吐川サイドC棟』。鉄筋コンクリート造、10階建てのマンションである」
ミハラ「基本的には1部屋あたり3人で生活してもらってるんだけど、君らは今日加入が決まったばかりだから、部屋の割り当てが決まってなくてさ。だから申し訳ないんだけど、数日は来客用の部屋を使ってもらって、その後別の部屋に移ってもらう感じでもいいかな?」
メガネ「いえいえ、そんな申し訳ないだなんて。もう、雨風凌げればどこでもありがたいです」
ナレーション「部屋に通される2人。最低限の家具が揃った、シンプルかつ小綺麗な2LDKである」
ミハラ「これからの生活とか、うちの組織で何をやってもらうかとか、色々決めなきゃならないことはあるけど、とりあえず今は身体を休めることに専念してね。私も、今日はもう自分の部屋に帰って寝るよ。明日の昼頃に様子見に来るから。おやすみ」
メガネ「ありがとうございます。おやすみなさい。……ほら、アンタからもちゃんとお礼言いな」
ネクラ「……ありがとうございます」
ミハラ「バイバイ」
ナレーション「ミハラが去った後、畳まれた布団に倒れ込むメガネ」
メガネ「あー、ええな、布団や……!いつぶりやろな、こんなにマトモな布団!」
ネクラ「……」
メガネ「ほら布団やで!寝袋やないで!いつぶりやろな?な?」
ネクラ「……」
メガネ「……なあ、アンタ、いつまで凹んどるんや?勢いに任せて怪我人蹴ったのは、そりゃ確かに悪いことやで?反撃できない相手をいたぶるのはフェアちゃうからな。ただ、そういう軽はずみはこれからやらんように気をつければええやろ?」
ネクラ「?」
メガネ「せやから、あんまり気に病むことは
ネクラ「あの、私、別にそこは気にしてないですよ」
メガネ「え?」
ネクラ「気にしてるのは組織に迷惑かけそうになったことの方です。加護の仕組みを知らなかったにせよ、私が敵を蹴ったことで信号が飛んで、他の敵兵が集まってきたら、利敵行為をしたようなものじゃないですか」
メガネ「……」
ネクラ「組織のルール違反にならないなら、正直、敵には最大限の苦痛を与えた上でブチ殺したかったくらいですよ。でも、それをやったら間違いなく信号が飛んで大騒ぎになったでしょうし、そうなる前にメガネさんが引き止めてくれたのは助かりました」
メガネ「……」
ネクラ「……まあ、仮にブチ殺せたとしても生き返るんでしょうけどね。それはそれとして内臓が潰れるくらいの蹴り入れて、一生忘れられないトラウマのひとつでも負わせてやれたら良かったかもしれませんね……」
メガネ「……うっ」
ネクラ「……!?」
ナレーション「泣き出すメガネ」
ネクラ「え、ちょっと、なんで泣いてるんですか」
メガネ「【エグッ】」
ネクラ「今の話、泣くところありました?」
メガネ「……わがんない」
ナレーション「メガネは恐怖していた。ヤケを起こすことはあれど、どちらかと言えばおとなしく聡明だったはずのネクラが底知れぬ凶暴さを秘めていたこと。ネクラが明確に敵意を持って人を傷つける意思を有していたこと。その凶暴性故にいつかネクラが身を滅ぼしかねないこと。そして、どれほど心配し説得したとしても、平穏に過ごしてほしいという思いがネクラに届かないこと。言葉にならない怯えが涙となって目から溢れたのである」
ネクラ「……もう寝ましょうか。多分、蓄積したストレスが今になって一気に出てきたんでしょう」
メガネ「……う゛ん゛」
ナレーション「布団を敷き、メガネを寝巻きに着替えさせるネクラ」
メガネ「……一緒の布団で寝てええか?」
ネクラ「なんでですか?」
メガネ「……わかんない」
ネクラ「寂しいんですか?」
メガネ「……うん」
ネクラ「そうですか。いいですよ」
ナレーション「ひとつの布団で寝るネクラとメガネ。メガネがネクラに抱きつき、肩に顔を埋める」
ネクラ「落ち着きました?」
メガネ「……うん」
ネクラ「良かったです。じゃ、おやすみなさい」
メガネ「……あ、あのさ、アンタ覚えとるか?テニスの県大会諦めた後、アンタが部室でウチになんて言ったか」
ナレーション「以下、回想である」
***
ショウ「ショートコント『階層の番人スコーピオン』シリーズ」
ハン「『改装』」
ハン「【ピンポーン】」
ショウ「【ピッ】フハハハハ!よくぞ参られた!我が名は『階層の番人スコーピオン』!2階の守護者だ!当アパート『メゾン宮内』の
ハン「ごめんください、宮内です」
ショウ「え?……お、おお、大家さん!?」
ハン「お部屋のことでちょっとお話したいんだけど、お邪魔させてもらってもいいかしら?」
ショウ「も、もも、もちろん大丈夫ですよ!」
ショウ(も、もしかして俺が勝手に『番人』やってるのがバレたのか!?強制退去させられたりしないよな!?)
ハン「【コンコン】鈴木さーん?」
ショウ「は、はははい!【ガチャ】」
ハン「どうも。お元気してる?」
ショウ「え、ええ。お、お陰様で。お、大家さんはお元気ですか?」
ハン「ぼちぼちよ~。それで早速、お話なんだけどね?」
ショウ(……!)
ハン「実は、再来年あたりに、ここのアパートを改装してお料理教室にしようと思うの」
ショウ「え、きょ、教室ですか?」
ハン「うちのアパート、1階は満室だけど2階から上は全然人が入らないじゃない?5階建てのうちの1階分しか使われないなら、もういっそのこと、居住スペースは最上階だけにして、4階までをお料理教室用のスペースにしようと思ってるの」
ショウ「あ、ああ~、そうなんですか」
ハン「こういう物件は上の階に行くほど家賃が高くなるもんだって聞いたから、階ごとに家賃を倍にしてみたんだけど、それが良くなかったみたいでねぇ~」
ショウ「ま、まあ、1階が4万で2階が8万、5階にもなると64万というのは確かに極端ですが……」
ハン「あとはアパートの上の階に変な人が住み着いてるって噂が流れてるんだけど、鈴木さん、何か知らない?」
ショウ「ギクッ!い、いい、いや~、し、しし、知らないですね~」
ハン「そうよね~。2階から上は鈴木さんしかいないものね~。……もしかして幽霊かしら?嫌だわ~!」
ショウ「ゆ、幽霊ですか。ハハハ……」
ハン「……幽霊はさておき。でね、お料理教室は、階ごとで同時に別々の料理を作って、出来上がったら参加したメンバー全員で食べ比べるパーティーを開くの。そしたら楽しそうじゃない!?」
ショウ「は、はあ」
ハン「あたしの知人にラオスとエチオピアと江の島の料理に詳しい人がいるから、しばらくはその3つをメインの講座にするつもりよ」
ショウ「ど、独特なチョイスですね」
ハン「えーと、それから……なんの話だったかしら……。そうそう、今入居してる子たちは全員大学3年生なのよね。1階の子たちは大学院には行かないで就職するって聞いたんだけど、鈴木さんはどうするのかしら?もし鈴木さんも就職なら、再来年の4月から工事を始めようと思ってるんだけど……」
ショウ「あ、えっと……実は僕、留年しちゃいまして……再来年もまだ大学4年……の予定です」
ハン「あら、そうだったの。……なら、もし嫌じゃなければ、来年のうちに5階に移動してもらえないかしら?もちろん家賃は今と同じでいいし、移動の費用もあたしが出すわ。すぐに決めなくていいから、少し考えてもらえる?」
ショウ「は、はい」
ハン「これ、つまらないものだけど、良かったら後で食べてちょーだい」
ショウ「あ、ありがとうございます」
ハン「また今度来た時にでもお返事聞かせてね。今日はこの辺でおいとまします~」
ショウ「あ、ど、どうもー。【ガチャ】」
ショウ「ハア……ハア……心臓が持たねェ……。……成り行きで受け取っちゃったけど、これ、なんだろ?【パカッ】……饅頭か……。【パクッモグモグ】……こしあんだ……。【モグモグ】……そうか、下の階の連中は今からもう進路決めてんのか……。……フフッ、俺だけ留年、か……。……【グスッ】……ああ、何やってんだろうな、俺……」
***
ナレーション「以上、回想であった」
メガネ「……膝壊して辛い思いしとるのはアンタの方なのに、ウチに気を遣って
ネクラ「あの、メガネさん。夜も遅いですし、そろそろ寝かせてもらえませんか?」
メガネ「……せやな、話はまた今度にしよか。おやすみ」
ナレーション「温かい布団の中、身を寄せ合って目を閉じるネクラとメガネ。連合軍のメンバーとしての日々が始まろうとする中、今はただ眠るばかりである。次回、『コウノトリの野望』第13話に続く!」




