エピローグ
「魔王様!魔王様!!」
魔王城に声がこだまする。
「なんだ、騒がしい。」
王室の玉座に深く腰掛ける魔王は厳かにそう言った。
「勇者は四天王が退けたのであろう。」
魔王が訊ねると、報告に来た側近の老人は「は!」と答えたあとに、恐れ多くも「しかし……」と続けた。
「四天王ひとり目の男が――。」
側近のその言葉を聞いて魔王はおもむろに立ち上がった。
側近に案内されて、魔王は四天王ひとり目の――最弱の男のもとにたどり着いた。
「勇者は確かに四天王が退けました。しかし彼は惜しくも敗れ、命を落としてしまいました。」
側近の老人は四天王最弱の男の亡骸を見下ろしながら、そう言った。そこには焦りや驚きの感情は感じ取られたが、悲しみには染まっている様子はなかった。
四天王最弱の男は、胸から大量の血を流して倒れていた。
魔王はその亡骸を見て、静かに言った。
「そなたはよくぞこの大役を務めあげてくれた。四天王がひとり目とは、真に弱き者に任せられるものではなかった。」
魔王のその言葉には一切の世辞などはなく、心から彼を讃えてのものであった。
ここで側近の老人はある疑問を口にした。
「しかし、なぜこやつはこれほどの傷を負いながら、このような顔をしているのでしょうか。」
性に合わないことを考えるものだと思いながらも、魔王は思ったことをそのまま口に出した。
「……きっと、今際の際に良い夢でも見たのであろう。」
四天王最弱の男は、静かに笑っているように見えた。




