19話
きっと何かの間違いだ、大丈夫大丈夫。
そう思ってたのが懐かしい
「丑の細工が見つかりました」
藤谷さんと言ったか。何かの間違いだと信じたいが特徴的なマーブル模様に造形研の高クオリティなそれは何も間違いではないと言ってくる
「先輩、英訳するとMovie clubですね」
園花も分かっているだろうが一応スマホで調べてくれた
それを見てさらに冷や汗が出てくる
前を見ると明も先程の余裕は消え失せ、苦笑いをしていた
「Movie Club、頭文字はもちろんMだよな」
自分に言い聞かせるように口にする
丑の部分にそれを付け足すと
I kill m◯tur◯
ほぼチェックメイト状態だった
頭が痛くなる
本当に俺は狙われているのか、だとしたら誰に?もしかしたら林檎の一件で俺を殺そうとしている人がいるのか?
頭の中が不安と恐怖でいっぱいになり、冷や汗が出る
しかし、そんな憶測に異議を申し立てる人がいた
「先輩、今私たちの事Movie crabって言いました?」
藤谷である
初対面にも関わらず、彼女は腕を組んで少し不満そうにしていた
動揺して、声がうまく出ない俺の代わりに園花が聞く
「Movie crabじゃないんですか?」
丁寧にそう言うと藤谷は首を縦に何度も振り
「違います、私達の部活の正式名称はフィルム・マニア・クラブ、略してFMCです‼︎」
威張るようにそう言って、胸を張り、手作りのバッチを見せびらかす
丸いバッチには飾り方なくFMCと溢れんばかりの大きさで書いてあった
それを聞いて新谷は呆れたように言う
「何度も言ってるじゃないですか、うちの方針で誰でも分かりやすい名前にして欲しいって
FMCじゃなんの部活かわからないですよ?」
呆れながらも優しく諭す新谷
そういうと藤谷は腕を組み得意げに
「私達は人を呼ぶために活動してるわけじゃありません
そう、ポリシーを持って映画を広める活動をしているんです」
と言った。じゃあなぜ文化祭で確実な人気映画の上映をしているんだ。
それを見ていると、不安も少し落ち着いたように感じた
しかしだ。その主張を聞くとある男が一年前にポリシーを持って起こした事件を思い出す
見るとその男は頭を抱え、恥ずかしいように項垂れていた
それを明は肩を叩いて元気づけているようだった
それを見て、藤谷は言い負かしてやったと勘違いしたのか
「じゃあ、私はブースに戻ります」
と言って戻ろうとした
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
俺は呼び止める
「なんでしょうか?」
藤谷はやり切ったようなドヤ顔でこちらを振り向き首を傾げる
「いや、一応聞きたいんだ。
なんでそんなにFMCという名前ににこだわるんだ?」
生徒会に真っ向から対立するほどのこだわりがあるからには何か理由があるのだろう
その回答によってはMではなくFが該当するかもしれない
俺の呼びかけを聞いた藤谷はニヤッとはにかみ、得意げに腕を組んだ
「それはですね」
どうやらオーディエンスの合いの手を要望してるらしい
「それは?」
俺は苦笑いでそれに応じる
ここまで溜まるとはさぞかし深い理由があるのだろう
しかしその回答は
「なんてったってかっこいいからですよ
FBIみたいでイカすでしょ?」
なんとも説得力が溢れる回答で
そう言い切ると満足したのか足取り軽くブースに戻って行った
「で、MとFどっちだと思う?」
藤谷が帰った生徒会室で、先程と同じ位置に座り直した4人は机の上のフェルト細工を眺めていた
「ちなみに、映画研究部の正式名称はどっちなんだ?」
俺がそう言うと呆れたように新谷は答える
「FMCが正式名称のはずないですよ
決まりとして誰が見ても分かりやすい部活名じゃないと登録できないようにしてるんですよ」
確かに、部活名が何でも良くなると収拾がつかない。
生徒会にも色々決まりがあるのだなとつくづく思う
「確かにFMCだのMCだのヘンテコな名前の登録が多くなると把握し切れないしね」
明も続ける
園花もさらに続ける
「でも、さっきみたいに勝手に名乗るのはOKなんですか?」
そういうと新谷は大きなため息をつき
「ええ、あくまで公文書…たとえば今回のパンフレットや他校に遠征に行く時は正式名称じゃないとダメです。
ただ、校内のお祭りで略称を名乗るのはそこまぁ大きな問題にはならないとしてOKにしています。
これでも結構緩和していると思うんですけどね」
新谷は苦笑いしながら返す
その様子だとまだ不満を言ってくる部活は多いのだろう
「昔からFMCを正式名称なって騒いでたのか?」
「いえ、部活自体は何年も前からありましたが、改名したいって騒ぎ始めたのは去年くらいですね
当時の部長が功績を残したいって張り切ってたみたいです
一度は登録寸前まで行ったんですけど、それを知った他部長から反対意見が出て揉めてました。
ちょうど僕が生徒会長になったタイミングでさっきの理由からおじゃんになりました」
そう返す。その答えに他3人も今のところ疑問があるようではないので黙ってしまった
数秒の沈黙の後、
「ちなみに、これが示す文字がMだと思う人は?」
明がそう問う。すると後輩2人が手を上げた
「見つかった部活の頭文字は全て正式名称から取られているので」
と園花は理由をつける
「僕も同じくです。いくら学校に詳しくても身内で騒いでる略称を知ってるのはなかなか難しいんじゃないかと」
と新谷も続いた
2人の意見はごもっともだ。
そうなると頭文字はM、これはいよいよ頭が痛くなる
そんな中、隣の男は腕を組みながら
「でも、僕はFだと思うな」
と言った。言わずもがな明である
「どうしてそう思うんだ」
てっきり2人の意見と同意だと思ってたので、つい聞き直す
「いや、今までの傾向から学校に詳しい人の犯行ってのはほぼ確定だとするとFMCって略称を知っててもおかしくはないと思ってさ。
それに、さっき話した通り犯人はこの事件を大々的にしたいって汲み取れるでしょ?
だとしたら頭文字がMで話題性が出る部活が一つあるじゃないか」
そういうと明はフェルト細工を指差す
何を言っているのかと思ったが、園花が気がついた
「造形研究部(molding Club)ですね!」
それを明はサムズアップで肯定する
「なるほど、確かに被害があった部活を標的にするのはかなり酷い話だ。
嫌な話だがこれを聞いた正義感の高い人は、進んで解決に臨むだろうな」
「まぁそれを犯人がやったら本当に嫌な奴だと思うよ。だけどそれに見合う話題性は生まれそうだ。
それにFが頭文字につく部活は運動部系のフェンシング部しか思い浮かばなくて、それを加味するとFの可能性も出てくるなって思ったわけさ」
と締めくくる
確かに明の意見は説得力がある
まさか味方の意見を言ってくれるとは思わなかったので嬉しい
新谷と園花もその意見には納得があるようでまた考え込むような顔をした
が、
「でも充が狙われてるって線が面白いからMでもいいけどね」
と言った
「おい、お前」
反射的に突っ込む。まぁこれが場を和ませるジョークだと信じたい




