18話
深夜になり、静寂に包まれる桜岡高校
普段であれば人の気配など微塵もしないはずだが、今は別。
懐中電灯で行き先を照らした先生が2人1組で定期的に巡回をしていた
学園祭の最中は、毎年巡回をしているのは変わらないようだ。
さらに今回はきな臭い事件も発生しているなのか。
警戒を強めているようで、その頻度も知ってるより多かった。
が、学校の事情を知り尽くしている。巡回を掻い潜ることなど造作もない
その人は特別棟2階の片隅にある、存在すら忘れられているであろう小さな倉庫に身を隠していた
埃臭い小さな部屋には、いつ置いたかわからない本の束や教材、おそらく2度と動かないであろう昭和の遺物が詰め込まれており、人が1人入るのでもやっとといったところ。
しかしその人にとっては懐かしい匂いに囲まれ、包まれるようなこの空間は幸せそのものだった
たまに見回りがたてるカツンカツンと響く足音に気を配りながら、目を瞑り物思いに浸る。
色々と思い出深いこの校舎
すっと伸びる廊下、風が気持ちいい特別棟への渡り廊下
校舎に漂う独特の懐かしい香り。入りはできなかったが外から見た青春が詰まったあの部室
一年ぶりに来校した時、嫌でもセンチになり、仮面の下で涙を流す手前だった
あの頃に戻りたい。しかしもうそれには戻れないし、思い出を語れる友も後輩もいない
あの事件が俺の人生を狂わせたのだ。
思い出す度に吐き気がしたものだがもういい、どうせ明日には全て終わるんだ
その人は学校の古い遺物に囲まれながら浅い眠りを繰り返した
文化祭3日目。
若き高校生が生み出す、青く清らかな熱量もついに最高潮に迎えた。
学校中にみなぎるエネルギーは今にも爆発しそうないきおいであり、俺もその一部として最後の青春を存分に楽しみたい
そうだ、いっその事この4人で飛び出そうじゃないか
まずはeスポーツ研でゲーム対決?それとも落研でひと笑いするか?
さぁ行こうじゃないか、青春の園へ‼︎
…と、生徒会室で外を見ながら窓枠に頬杖をつき、仏頂面で考えていた
すると後ろの方で
「充、窓際はだめだ。狙われる」
作った険しい顔で明は注意する
その脇で本を読んでいた園花も続く
「そうです先輩。教室の中心でじっとしてください。」
「のどが渇いたりお腹がすいたら差し入れ食べてくださいね」
と、新谷からも言われた
特に新谷はすっと立ち上がり俺の手を引いてソファに腰掛けるように促す
それを心配そうに見つめる園花とは対照的に笑いを必死に耐えている明
きっと心の内では大爆笑をしている事だろう
俺は大きくため息をついて
「いっそ殺してくれ」
といった。
あの後の新谷の動きは早かった。
「I kill 〇〇tur〇」のメッセージが浮かび上がったこと。
それを4人で校長室に直接乗り込み、校長先生に報告した。
いきなりの訪問に校長も驚いていたが、俺たちの真面目な雰囲気を悟ってくれたのか、しっかりと話を聞いてくれた
たまたま校長室にいて、隣でそれを聞いていた教頭は不機嫌そうに聞いていたが。
話を一通り終えると、校長は少し考えたあと、学園祭を継続開催することを決めた
実害がないため警察も呼べないし、そもそもテレビの取材が来ているのに大騒ぎもできないからと。
園花は、反論しようとしたが、校長はそれを見通していた
危険性は拭えない。それを踏まえとった4つの対策。
第一に動ける教師を警備に回し、警戒をさらに強める
第二に遊びに来ている運動部OBや、3年生に声をかけ、警備をしてもらえるように声をかけるように運動部顧問たちに通告した。
OBは青春の母校を守る為ならばと俄然やる気。3年生の生徒も、これは内申点を上げるチャンスと見たのだろう。
双方、詳しく事件の概要を聞かなくても喜んで協力してくれたと後から聞いた。
増員された警備員は体育館裏から校舎の周りまで、くまなく警備するらしい
そして、先生の人手が足りなくなった皺寄せ。それは大学応接委員会の教頭が馬車馬のように動けば大丈夫と笑顔で言った。
それを聞いた教頭の顔と言ったら。クワバラクワバラ
そして第3の対策は持ち物検査の強化。
仮面をしている人は問答無用で素顔を確認しする。さらに危険物がないかもさらに入念にチェックをすることとした
そして第4の対策…事件の最重要人物。狙われている可能性のある男、赤坂充への対策は…
「両親が仕事で家を留守にする。なら家に1人でいるよりも、周囲を守った状態で信用できる人に囲まれた学校。
さらにその中でもとりわけ安全な所にいたほうが何かと安心って言われたときはなるほどと思ってしまったよ
仮に刺されたとしても応急処置だってすぐできるしね」
さっきとは変わり、笑いながら差し入れの中にあったベビースターを食べながら朗らかに話す明。
「頼むから刺される前提で話さないでくれ」
園花と新谷に囲まれ、自由がない俺は疲れるように言う
「そうですよ、冗談でも刺されるなんて言ってはダメですよ」
冗談まじりに明に注意する園花。
そう、校長先生直々の指示があり、新谷、園花、明の3人は悲劇の画家を守るナイトとして生徒会室に俺を軟禁しているというわけだ。
この3人が選ばれた理由は、犯人と思わしき人物を見たので疑いが比較的少ない。そして単純にここまで捜査をしていた人物なら信頼できるだろ?
という理由らしい。
確かにごもっともである。
まぁ、その中でも新谷が選抜されたのは…おそらく働きすぎのあいつを気遣った校長の采配だろう。
それに加えて特別棟3階の廊下にはガタイの良い体育会系教師が2人、廊下を警備を担当していた
確かどちらも柔道黒帯らしい
まさに鉄壁。抜け目なしといったところか
その警備体制が桜岡高校に張り巡らされてるわけで、とてもじゃないが犯罪は起こしにくいだろう。
怪しい言動をしている人がいれば倍増した警備員に怪しまれるだろうし、仮に俺とは違う「みつる君」が被害にあっても警備員がすぐ近くにいるので、対応だって遅れずにできる
そもそも強化された荷物チェックの時点で何か起こす気は無くなるだろう
むしろこの警備を掻い潜って俺を殺しにくる方法を知りたいくらいだ
自由がない俺は応接スペースのソファに深く腰を下ろしてそんなことを考えていた
まぁいくら考えたところで、俺が自由になれるわけでもないし、今はここで時が過ぎるのを待っていることしかできない
他の3人も各々本を読んだりスマホを見ていたりと、外の喧騒が嘘のようにまったりとした時間が流れていた
つまりとてつもなく暇なのである。
スマホの時間を見るとまだ10時。
まだまだ時間はある、あぁ暇だ
それに、これ以上馬鹿にされるのも気に入らない。
俺は昨日から考えていたことを話す。
「なぁ、なんで犯人はこんな面倒なことをしたんだろうな?」
ベビースターを食べながら明は答える
「さあねぇ、文化祭に一噛みしたかったから?」
「目立ちたがり屋の独りよがりですかね?」
「ドラマかアニメの見過ぎじゃないですか?」
それに加えて新谷と園花はそれぞれ本とスマホをみながら気だるそうに返す
3人ともそこまで深く考えずに返したのか、数秒沈黙が訪れたが、新谷が気づいたように言った
「でも考えてみればそうですよね。赤坂先輩を恨んでて、殺してやるって思ったらこんな事せずに不意をつけばいいんですもんね」
それを聞いて思うところがあったのか、園花もスマホから顔を上げて話し出す
「確かに、通り魔なら上手く行けば逃げきれますしね
夜道をこう、グサーッて」
スマホをナイフの柄に見立てて反対側に座る明の方に向ける
明はぎゃーっと言った演技で返す
「お前らよく人が死ぬ話を楽しそうにできるな」
呆れる俺に2人は笑った
しかし新谷だけは顎に手を当てて真剣に考えていた
「でも、良く考えればそうですよね。暗号なんて作って警備体制を厳重にされてしまったら…
犯人にとって不都合でしか無いですよね」
新谷の真面目な雰囲気に触発されたのか、おどけていた2人も少し真面目に考えたようで
「それかこいつが大きい恨みを買ってて人前で辱めを受けさせて殺してやるとか?その誘導としての暗号とか?」
と、明は軽く言った
「だから俺はそんなことされる筋合いはないっての」
俺は反射的に突っ込む
しかしそれとは裏腹に園花は少し考えて真面目に返す
「でも、それこそ逆効果じゃないですか?
現に先輩はこの通り厳重に警護されているわけですし、辱めはともかく殺人だって難しいですよ」
そう言って俺を見る。
確かに今の状況だと俺を狙っていた場合殺すのは至難の業だ
それに、たとえ俺じゃないほかの〝ミツル〝、ないし違う人間が狙われていたとしてもこの状況は好ましくはないだろう
そこに新谷が加える
「それに、辱めを目的にするならば先輩個人に何かしらアクションを起しません?
たとえば出てくるような理由を考えて手紙を靴箱に入れて呼び出すとか」
「確かにそうだね、呼び出す理由なんてなんでもいいし、こんなややこしく壮大な暗号を作るならそっちの方が効率的だ」
明がそう言ったところで全員がお手上げと言ったような顔をした
かくゆう俺もソファに深く座り込む
しかし妙だ。なぜ犯人はここまで大騒ぎをさせたのか
新谷が口を開く
「逆に暗号にする事で何の利点がありますかね?」
「んー、思いつくところで言うね
話題性が出る。この事件を犯人が成功した際には相手、この件ならば学校側が酷く叩かれる。警備が強固な中で犯行を起こす事に矜持を持っている。特定の人間に宛てたメッセージを送れる…とかかな?」
明も曖昧な答えを返す
それを聞いて他の2人も煮え切らないような顔をした
暫しの沈黙。おそらく3人の中では〝ミツルが狙われている〝と言う一つの答えに疑問符が浮かび上がっているはずだ
しめしめ、これは予想外
この調子でいけばトイレに行くくらいの自由は勝ち取れそうだ
そんなことを考えているときだった。
コンコンコン
生徒会室の扉をノックした音が響いた
4人は目を見合わせる
「先生が見回ってるし、怪しい人ってことはないよね」
園花が声を抑えて話す
「そうですよね、それなら表の先生たちが止めているはず」
新谷も声の大きさを合わせて話す
そうしている内にノックをした張本人は痺れを切らしたのか
「すいません、生徒会長はいますか?例の落とし物見つかったので届けにきましたよ」
と大きな声で言った
明らかに俺たちと同年代の女性の声だった
例の落とし物というのもおそらくフェルト細工だろう
それを聞いて新谷も安心したのか
「すいません、今開けますね」
とソファーを立ち、入り口に向かった
一応警戒をしてなのか、明も後ろに続く
それを見守る俺と園花
「先輩、次の細工が示す文字が鍵になりますね」
真剣な顔で話す園花
俺もそれは重々理解していた
これで〝mituru〝とならない文字が入れば俺はひとまず狙われていない事になる
逆に一文字でも当てはまるようなことがあれば…覚悟しなければならないだろう
そうこうしてる内に新谷が扉を開ける
「すいませんね、開けるのが遅れて」
新谷は丁寧に謝る
そこにはメガネをかけた背の低い女子生徒が立っていた
その人はゆっくりと口を開く
「映画同好会の藤谷です
先程映画上映が終わった時にこの細工が見つかりまして」
その手にはビニール袋が握られており、透明な袋からは特徴的なマーブル模様が見える
「丑の細工が見つかりました」
映画同好会、その英訳は調べなくても頭に浮かぶ
Movie Club
頭文字はMだった。




