6話
時間は4時30分頃だった。
11月ともなるとあたりは暗くなり、。先ほどまで文化祭を楽しんでいたお客や3年生は笑顔で帰路についていた。
その満足そうな表情からは1日目の成功を感じさせた。
俺はそれを横目にいつもの自販機でこれまたいつもの甘いコーヒーを3本買う。
2本をブレザーの両ポケットそれぞれに入れ、もう一本は手持無沙汰だったのでゆっくりと振りながら中庭へ向かう。
いつもの中庭のベンチ、そこには明と新谷が立ち話をしていた
こちらに気付いたのか、明がこちらを向く。
俺はコーヒーを見せて
「コーヒー買ってきた。いつもの甘いやつでよかったよな?」
そういって一つを明に、もう一方を新たにに差し出した。
「ありがとう。新谷君もほら」
そう言って明は優しく充からコーヒーを受け取るように促した。
俺も「ほら」と言って新谷に渡した。
「ありがとうございます」
そう言って素直にコーヒーを受け取った。
それを見てから慣れた手つきでプルタブを開け、一口飲む。
いつもと変わらない大好きな甘くほろ苦い風味が口に広がる。
それを見て新谷もプルタブを開けて一口のんだ。
新谷もこの味が好きなようで、長い時間口をつけて飲んでいた。
半分ほど飲んだのだろうか、口を離すと恥ずかしそうに
「一日何も食べてなかったので、甘いものがおいしくて」
といった。
俺達はそれを見て笑った。
何口か飲んで、すこし落ち着いたときに新谷は言った
「なんで僕を連れ出したんですか?」
明はいつも通り茶化したように
「疲れ切った後輩を癒すためにコーヒーをおごった。
じゃダメかい?」
「おいまて、おごったのは俺だ」
俺達2人はいつものように笑いながらジョークを言いあう
新谷はその茶化しあい聞いて不思議そうに俺達を見ていた
「こんな僕を後輩なんて言ってくれるんですか?」
新谷は不思議そうに聞いた。
明はそれを聞いて優しく話した。
「雪ちゃんの絵の件は話がすんでるしね」
俺もうなづき
「あぁ、それにお前から画材の弁償と謝罪があった時点で雪の中でも事件は終わっているさ
…それに」
そこまで言うと俺は明を見る
後は言えということを察したのか肩をすくめ
「君の仕事ぶりは見てて尊敬するよ。
それを見たら手伝いたくなるさ」
と、思っていたことをいった。
それを聞いて新谷は嬉しそうに、だが少し疲れたような顔をして笑った。
「ありがとうございます。
でも…」
そこまで言うと口をごもらせて、すこし考えてこう言った。
「申し訳ありません。
うれしい申し出なのですが」
と、お茶を濁して断った。
俺と明は少し疑問に思った
「なぜかたくなに断るんだ?」
つい聞いてしまった
正直ここまでってしまった人間なら巻き込んでしまったほうが楽だろうに
そんな気持ちが新谷に伝わったのか、少し考えてから話し出した。
「少し長い話になってもいいですか?」
その問いに俺達は首を縦に振り肯定した。
それを見て新谷は話だした。
「先輩方はこの文化祭がなぜ2年に一度か知っていますか?」
「いや、疑問には思っていたがそこまで気にしていなかったな。」
明を見ると同意見のようで
「そうだね、クオリティを上げるとか?」
と返した。
「半分正解ってところです。
この文化祭は、隠れて大学関係者が多くいらっしゃっているんです。
進学を控えた3年生、来年進学を控えた2年生を見に来るために」
それを聞いて疑問を感じた。
「その説だと毎年やったほうが効果的なんじゃないか?」
「えぇ、なので10年前くらいは毎年文化祭をやっていたそうなのです。
しかし、ただ開催するだけに重点を置いた文化祭は大学関係者には不評だったそうです。」
「何も進歩がない文化祭なんて見ても無駄ってことか」
明はそういった。
新谷は首を縦に振る。
「そこで当時の校長先生は考えたそうです。
あえて2年刻みにすることで準備に時間をかけて、毎年進化する文化祭を開催しようと。
その結果がハロウィン仮装や桜岡B級グルメ街の成功。そしてローカルメディアの取材の増加です。
大学関係者からも自主的に活動し、進化を続ける生徒達と評判がよく、多くの大学から推薦が来るようになったと聞いています。」
そこまで言うと新谷は一度コーヒーを飲んだ。
この文化祭がそこまで意味のあるものだとは知らずに驚いた。
しかし
「それと何が関係あるんだい?」
明は聞いた。
新谷は続ける。
「二年に一度の文化祭ということは、そのリーダーである生徒会長は2代に渡り1回の文化祭を成功させるために尽力します。
特に開催がない年の生徒会長はより良い文化祭にするための発案や、改善点などを洗い出すなど大変なんです。
正直開催年の生徒会長は先代が引いてくれたレールを脱線しないように走るだけ。
何も考えないで言い分楽とも言えます。」
自虐ともいえる話だが、新谷はいたって真面目だった。
文化祭の開催は大変なことだとは考えていたが、その裏にそのような考えがあるとは思わなかった。
特にハロウィン仮装や桜岡B級グルメ街がそういった経緯で発展してきたとは
正直文化祭にここまでの意味があるとは驚きだった。
しかし
「それと俺達が協力できないのは何かあるのか?」
そう、議題の回答とは程遠いものだった。
新谷はその回答を続ける。
「つまりです。僕ら生徒会が今年の文化祭を、誰の手も借りずに見事にやり遂げることができたのなら、先代の生徒会長はすごかったんだと先生たちにアピールできると思ったんです。
そうすれば…楠会長のスキャンダルを少しでも軽くできるのではないかと考えました。
だから…この問題も僕たちだけで解決したいんです。」
新谷は力説した。
「なぜおまえはそこまで前会長の名誉挽回に努めるんだ?」
明は問う。
新谷は少し迷ったようだが、勢いのままに続けた。
「ぼくは…正直に言います。あの人を心から尊敬しているんです。
一人で僕ら後輩を引っ張っていき、学校の顔としてみんなの期待を一人でしょい込む姿にあこがれました。
周りはいろいろ言いますが、あの人の後を継げた僕は光栄だと思っています。」
はっきりと言い切った新谷は少し涙ぐんでいるように見えた。
あの時、野球部員に言われた時に見せた悲しい顔はこのためだったのか。
いい後輩を持ったじゃないか、楠会長。
あの一件についてはアイツの個人的なスキャンダルのはずなのに、ここまで思ってくれる人がいることを少しうらやましくも感じた。
新谷の決意はすさまじいものだ。
だからこそほおってはおけない。
「お前の気持ちは痛いほどわかった。
だからこそ、俺達を頼ってくれないか?」
新谷はきょとんとしていた。
「君があの生徒会長を尊敬してるのはよくわかったよ。
だからこそ、「あいつが育てた新会長はすさまじい」といわれる文化祭にしてやろうよ」
明は俺の代弁をしてくれた。
「でも、頼ってしまったら僕らだけで成功させたことにはならないです」
「そんなことはないさ、現に君たちが管理を徹底してくれたおかげで開催自体に大きなトラブルは起きていない。
あれを見ろよ」
そう言って俺は昇降口を指さす。
そこには笑顔で学校を後にするお客が大勢いた。
「あれが今日一日うまくいった証拠さ」
明は格好つけていった
新谷はそれを見て目を丸くした。
どうやら目先の問題に気を取られ、この成果に気付いていなかったらしい。
最後の一押しに俺は格好つけた。
「それに、こんな事件が起きるなんて予想できないだろ?
その対応を助けるのも俺たち先輩の役目だ」
なんてくさいセリフなんだろう。
横を見ると明があきれていた。
だが、新谷にはずいぶん響いたようで、決意した顔でこういった。
「わかりました。先輩方、この事件を解決するために力を貸してください」
新谷は頭を下げていった。
俺たちは首を縦に振り、了承した。
それと同時に5時の鐘が鳴った。
文化祭は最終日以外は5時閉場であり、昇降口にはもうお客の姿はなかった。
話に夢中で時間を忘れてしまったようだ。
「ひとまず今日は帰ろう。本格的に調査をするのは明日だ」
俺はそういった。
2人は首を縦に振った。
こうして「文化祭首無し干支事件」は未解決のままだが、文化祭自体は好評のうちに1日目は終了した。
新谷と中庭で別れた後、俺と明はそのまま昇降口に向かい帰路についた。
帰りながら事件について話し合う。
「なぁ充、この事件どう見る?」
「どうにもこうにも、まだ情報が少なすぎるよな」
「だよね、えぇっと見つかった細工は
茶道部で兎、落語研で蛇、囲碁将棋部で猿だよね」
「あとは芸術部で羊。それも無傷でな」
明はうなりながら考えているようだが、結局は何も浮かばなかったようで
「わからない、情報が少ないよ」
とお手上げというサインなのか万歳をした。
「だな、兎にも角にも情報が欲しい。」
そんなことを話しているうちにいつもの分かれ道についた。
「また明日考えよう。それじゃあね」
そういって明は左のほうに歩いて行った
「じゃあまた明日」
と、明の背中に言った。明はこちらを向かずに手を挙げて返した。
少し急ぎ足で歩き、約2分で家に着く
「さてと」
俺は家には入らず、乗りなれた自転車にまたがり学校まで戻った。
約5分の道のり。
ブルーモーメントの空の下で校門の前には俺を待ってくれている人がいた。
その人はこちらを見ると大きく手を振り、笑顔で迎えてくれた。
「わるい、遅くなった」
俺は笑顔で謝る。
「私も今来たところなんです。
充さん、今日は楽しめましたか?」
その人は雪だった
投稿が遅くなりましたm(_ _)m
少々私生活が忙しくなってしまったので1回~2回の投稿になると思います。
文化祭1日目終了、2日目からは過去キャラがどんどん出てきます。
ゆっくり更新になりますがお楽しみください。
ブックマーク、レビュー等貰えると凄く嬉しいです。
お待ちしております。




