芸術部新入生の失態
我らが桜丘高校芸術部は発足1年未満の比較的新しい部活である。
顧問は今年入った新任美術担当、小木健介先生。すこし自信家で鬱陶しいことを除けばいい先生だ。この部活は活動期間半年未満という部活でありながら2人とも過去県内コンクール最優秀賞の受賞経験もある実力の伴った部活だ。
しかしながら俺達は、賞状やトロフィーに興味はない。我の部活の活動方針は【のんびりと、極力汗水垂らさない清らかな青春】というなんとも腑抜けたものだ。
この方針の元、部員3人は高校生活を謳歌していった
としたら良かった。しかし予定というのはすぐ崩れるものだ。
…そう、あの日までは
『やぁ充、元気かい?』
スマートフォンの向こうで明は掠れ、弱った声で話す
なんと腑抜けな、これは手本を見せなければ
「なぜ電話をしてきた?お前も俺が風邪だと知っているだろうに」
と、自分も同じような、いやもしかしたらやつよりひどいかもしれない声で話す。
なんという奇跡か、2人とも同時に風邪をひいたのだ。
原因は分かっている。先日教頭から直々にお達しのきた交通監視員の仕事だった。新入生の自転車事故が多いこの4月に毎年1週間、登校と下校に行われるのだが、貧乏くじを顧問が引いたおかげで、下校時間にやる羽目になった。そこまでは良かったのだが1週間天気は土砂降り。
いつもなら野球とかラグビー部とか人数の多くて体の強い人達が日替わりでやるのだが…俺たちは2人。オール出勤だ。
そこに車の音にかき消されないように大声で注意や誘導をしたおかげで、元々剛健でない2人は風邪をひいてしまったのだ。
『しかし原因はあるにしろ出来すぎだよね、同時に高熱が出るなんて、ゴホッ』
「喋るのはやめろ、お前の心配は分かる。新入生オリエンテーションだろ、ゲフッ」
この日は新入生オリエンテーションの日であった。元々明、明がダメでも俺が話すはずだったのだが
『大丈夫だろうか…おそらく顧問が話してらくれるだろうけど…ケホケホ』
「原稿は渡してある。最悪発表出来なくても俺達に損は無いさ。
それに風邪を引かなくても大声出したおかげで喉ガラガラ。壇上で発表なんて出来なかったさ
もう切るぞ?正直熱がすごくて話したくない」
『そうだね、僕もだ。じゃあお大事に』
そう言って電話は切れた。俺はベットに埋まるように眠る
どうせ心配したところで何も起きない。まぁ、どう転んだって未発表以上のことは起きないさ。
それより風邪を治さなければ、俺はうなされながら眠りについた。
次の日の朝、熱を測ると37.5分今日も大事をとって休むべきだと布団から出ずにスマートフォンをいじっていると明から着信があった
電話は明からだった
布団に寝転びながらスマートフォンを耳に当てる
『あっ、充?すまない電話しちゃって』
スマートフォンからはまだ喉のがらつく明の声がした
「大丈夫だが、風邪は治ったか?俺はもう1日かかりそうだ」
天井を見上げながらぼやくように言う
『そうなのかい?いやそんな事より大変な事件が起きたんだよ!』
慌ててるのか興奮気味に明は言う
「なんだよ?明日じゃダメなのか?」
『いや、早めに伝えなきゃと思ってさ
朝学校に来たらみんな寄ってたかって俺に言うんだよ』
「何を?」
『芸術部って今年も県内コンクール最優秀賞を取るんでしょ?
昨日女の子の部員が高らかに宣言したってさ』
「はぁ?」
『雪ちゃんに確認したんだけど、確かに言ったらしいんだ。顧問が勝手に原稿を変えたらしくて…顧問に聞きに行ったら充なら簡単だろ?って言っててさ』
「なっ、ふざけるなよ。俺は今年出さないことにしてたんだぞ」
『俺もそう言ったさ。でもアイツはやるだけやれの一点張り。
それで問題なのはその後で』
「まだ何かあるのか…やめてくれ、これ以上は熱が上がる」
『雪ちゃんが責任を取って絵を描くって言っててさ。言ってしまったことは私の責任だ。だってさ』
あぁダメだ頭がグラングランする
俺はひとまずこう言った
「学校に復帰したら考える
すまん。ひとまず寝る」
その後、俺はまた熱が出てさらに2日休んだ。