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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第一章「湖の国・丘の町」

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第四十一話「死闘:前篇」

 レイは弓術士を攻撃するため、降り注ぐ矢の雨の中、光の矢を作り出していく。

 光の矢が完成するまでの三秒間に、更に一本の矢が彼に当たった。その矢は鎧の胸甲キュイラス部分に当たり、彼をよろめかせるが、彼の肉体にダメージは無かった。

 そうして時間を稼ぎ、作り上げた光の矢を、正面にいる弓術士に向けて放つ。


(引っ掛かれ!)


 彼はそう念じつつ、大きく上に外れるコースに矢を撃ち込んだ。


 それを見た弓術士は


(焦って外しやがった! 今のうちに止めを刺してやる!)


 彼は避けもせず矢を番えて、弓を引き絞り、狙いをつけていた。


 レイの光の矢には追尾機能がある。

 そのことを知らない弓術士は急激にコースを変える光の矢に不意を突かれた。一瞬あっけにとられて動きが止まる。その僅かな間に、光の矢は弓術士の右肩に突き刺さり、その痛みに弓を取り落としていた。


(一人! 光の矢は一発撃つのに三秒くらい掛かる。連射機能が欲しい……連弩のイメージで連射できないか……)


 彼は光の精霊の力を溜め始める。

 弓術士たちは急激にコースを変える、レイの魔法に恐怖を感じていた。


(あんな魔法初めて見たぞ! 治癒魔法を使うとは聞いたが、光属性の魔法をあんなに使いこなすとは聞いていない。やばいぞ、セロンの奴がしくじりやがったからだ……タイミングを見て逃げ出すか……)


 その弓術士はレイに矢を撃ち込みながら、強靭な鎧に弾かれ、ダメージが与えられていないことにも、焦りを感じていた。


(なんていう硬さだ! 顔か首、腕くらいしか通らないぞ! どうすりゃいいんだ!)


 レイは三人の弓術士からの攻撃を引き受ける形で、更にアシュレイから離れていく。

 そして、精霊の力を溜める十五秒間を耐え切り、光の矢三本分の力が溜まったと感じたところで、光の矢の連弩バージョンを発動した。


 彼の左腕に三本の矢が現れる。

 第一の目標にした弓術士に向けて左手を突き出すと、すぐに光の矢を放った。彼は一本目の軌跡は確認せず、続けざまにその右手側にいる弓術士にも矢を放っていく。

 まだレイに狙われていない三人目の弓術士は、その連射される魔法に驚き、木の陰に逃げこんだ。だが、レイはそれに構わず、その男にも矢を放っていた。


 一人目の弓術士は正面から飛んでくる光の矢を回避しようと、咄嗟に地面に飛び込んでいた。

 彼に向かってきた光の矢は、その動きに追従できず、オーバーシュートして地面に突き刺さる。


 二人目は連射されたという事実に驚き、僅かながら反応が遅れた。そのため、彼は胸の中心に光の矢を受けてしまった。幸い革製の鎧を着けていたため、その威力は弱まり、致命傷とはならなかった。

 だが、鎧を貫通した高熱の光の矢によって胸を焼かれ、悶え苦しみ、のた打ち回っている。


 三人目は木の陰に隠れ、光の矢が通り過ぎるのを待っていた。彼が光の矢がどこを通過するのか確認しようと身を乗り出した時、背中に強い衝撃を受けた。彼は自分の身に何が起こったのか判らないうちに絶命した。

 レイの放った光の矢は、弓術士の死角側から大きく迂回して飛んでいき、彼の無防備な背中に突き刺さったのだった。


(一人だけ当てられなかった。追尾機能ホーミングは僕が意識を向けないとうまく機能しないんだな。弓術士を倒すか、いや、アッシュを助けにいくのが先だ……)


 レイがアシュレイを助けようと後ろを振り向くと、既に彼女が三人目の剣術士を倒していた。その男はレイが三本の光の矢を放ち、更に大きく軌道を変える見知らぬ魔法に目を奪われ、その隙を見逃さなかったアシュレイに首を貫かれていた。


「アッシュ、大丈夫か!」


「だ、大丈夫だ。レイはどうだ?」


 腕が痛むのか、掠れたような声で答えるが、大きなケガはしていないようだった。


「こっちは三人だ。レイは?」


「弓術士は三人に光の矢を命中させた。セロンは顔に傷を付けたら、下がっていった。無傷の弓術士がいるはずなんだけど、地面に這っているから攻撃できないんだ」


 レイは周囲を警戒しながら、アシュレイの右腕の矢を引き抜き、治癒の魔法を掛けていく。だが、彼の顔色は悪く、魔力切れの兆候のように見えた。


「魔力は大丈夫なのか?」


「多分……そんなことは言っていられないし、何とかするしかない」


 レイの決意に彼女は頷き、


「判った。確認するが、セロンはまだ動けるのだな。弓術士も大きなケガをしていない可能性がある」


 その問いにレイは頷く。


「ならば、こいつらの盾を奪って弓術士に接近戦を仕掛けるべきだ。援護を絶てば二人で対応できる」


 レイは「了解」と微笑んだあと、表情を引き締め「僕が先に突っ込む!」といって、倒れている男の腕から円盾ラウンドシールドを抜き取る。


 二人は蛇竜の死体の陰から身を低くして、セロンたちの方を見たあと、森の中に一旦、駆け込んでいく。

 一本の矢が飛んでくるが、慌てて放ったためか、見当違いの方に飛んでいった。




 ザンブロッタ・アザロは夜明けと共に目を覚ますと、日課となっている朝の勤めを始めた。

 彼は湖で水を汲むと体を清め始め、それが終わると東の空に向けて祈り始めた。


「闇を打ち払いし、光の神、ルキドゥスよ。神の子たる我らに祝福と力を与え給え……」


 その姿は敬虔な聖職者そのもので、闇の神殿で敵意を剥き出しにしたり、神殿で助祭たちを無差別に殺害していったりした人物とは思えない。


 そのアザロの行動を二人の男たちは、興味無さそうに眺めているが、遠くからパーンという音が聞こえ、湖のほうに目を向ける。だが、鳥の飛び立つ音が聞こえるだけで、興味を引くようなことは起こらなかった。


 男の一人は連絡が来なかったことに、不安を感じていた。


(モルトンの姉御から連絡があるはずなんだが……セロンたちの情報もねぇ……もし守備隊がここに来たら、アザロ(お尋ね者)と一緒にいるところを守備隊に見られてしまう……)


 彼の待つ連絡役は昨夜セロンに状況を説明し、モルトンの街に戻っていった男なのだが、アザロの行方が判らなくなったあとにアトリー男爵が敷いた非常線のため、街に入れずに立ち往生していた。

 男爵は彼らが思っていた以上に厳重な封鎖線敷き、モルトンの街は昨日の夕方から街への出入りが禁じられていた。更に街道にも守備隊が非常線を何箇所も張っているため、ラットレーに直接向かうこともできなかった。

 このため、連絡役が来ず、アザロと二人の護衛はラットレー村に比較的近い湖畔で待機したままになっていた。

 本来であれば、セロンが無事に合流したのを確認した後、レイたちが蛇竜狩りをしている場所に向かう予定だった。だが、情報管理を厳重にするため、セロンたちの予定を知らされておらず、セロンたちもアザロが来るとは思っていなかった。

 アザロがセロンに合流していれば、弓術士四人に加え、魔術師、それもかなり高位の使い手が参加することになり、レイたちは更に苦境に立たされていたはずだった。


 そんなことは知らないアザロは、朝の勤めを終えると、二人の護衛が用意した朝食を取り、再び祈りを始めていた。

 二人は神官というものを良く知らないため、こんなものかと思っていたが、いつ守備隊が現れるか判らない状況に焦りを感じていた。


(こんなところで暢気に祈っているんじゃねぇ!)


 もう一人の男に目配せをすると、二人で森の奥に入り、今後のことを相談し始めた。


「拙いぜ、これは。あの司教と一緒にいるところを見つけられたら、拙いことになる」


「そうだな。だがよぉ、逃げ出すわけにもいかんだろ。どうしたらいいんだ?」


 二人は知恵を出し合うが、良い知恵が浮かばない。

 ふと、さっきの湖に響いた音を思い出し、


「さっき湖から変な音がしただろう。あそこに奴がいるはずだと吹き込めば、少なくとも森の奥に進める。連絡を待って、こんなところにいるよりよっぽどましだろう」


 その提案にもう一人の男も乗り、アザロに説明に行った。


「司教様。先ほど湖で変な音がしたのをお聞きになったと思います。よく判らんのですが、レイっていう奴が何か罠を仕掛けているって聞いていますんで、それの音かと……できれば先に進んだ方が奴を見付けられるんじゃないかと……」


「よかろう。確かに自然の音ではなかったような気がする。では案内せよ」


 二人は「へい」と言って頭を下げ、先頭に立って森の奥に進んでいく。


 後ろを歩くアザロは暗い眼をしながら、レイとバッサーニのことを考えていた。


(レイ・アークライト、栄えある聖騎士の名を騙る闇の眷属。フラヴィオ・バッサーニ、司祭という名誉ある地位にありながら、神を裏切りし背教者め……神のお導きがあればこの者たちは必ず来る……必ず撃ち滅ぼしてくれる……)




 前日の五月八日。

 ブルーノ・アトリー男爵はモルトンの街を完全に封鎖し、アザロの行方を追っていた。

 更に冒険者ギルドからレイとアシュレイがラットレー村にいることも確認していた。

 男爵はラットレー村に早馬を飛ばし、レイの所在を確認させる。

 三時間ほどで戻ってきた早馬の兵士は、レイたちは泊り掛けで討伐に向かっており、森の奥にいるという報告を持って帰ってきた。

 更に命令通り、レイを確保しようと森に入ろうと思ったが、夜間の森の中の移動は緑蛇竜グリーンサーペントに襲われる可能性があると村長に止められ、止む無く戻ってきたと付け加える。

 男爵は兵士を労ったあと、


(アザロは光属性魔法の使い手。下手な人数では返り討ちに遭う。明日の朝一番で、二十名程度を急行させるしかない。夜明けに出発すれば一時間ほどで村に到着できる。彼らがいるのは、村から二時間くらいの距離……間に合わぬかも知れんな……)


 男爵は部下の騎士に明日、ラットレー村に向かうことを命じた。




 レイとアシュレイの二人は、一旦森の中に逃げこんだ。

 セロンたちがレイの魔法を警戒していることを利用し、容易に狙撃できない木々の間で接近する機会を窺う。



 セロンは頬を大きく抉られたが、光の魔法で焼かれたため、出血は少なかった。その代わり、頬は口の横から顎の付け根まで大きく抉られ、そこから奥歯まで覗くことができるほど傷つけられていた。その傷のため、彼の顔はピエロか悪魔が笑っているような醜い顔になっていた。


 (俺の顔が……レイの奴を殺す! いや嬲り殺してやる……)


 彼は生き残った弓術士のうち、無傷の者と胸に火傷を負った者二人を引き連れ、レイたちの動きを探っていた。右肩を貫かれた弓術士と右腕を斬りおとされた剣術士は、応急処置を受けることなく、その場に放置されていた。


 セロンは痛む頬を押さえながら、思ったより冷静に戦況を分析していた。


レイの魔力はもう切れてもおかしくない。蛇竜サーペントと戦い、俺たちと戦ったんだからな。少なくとも疲労はピークに達しているはずだ……奴はこっちの戦力がどうなったのか判らんはずだ。俺が前衛でレイを押さえ、弓でアシュレイにダメージを与える。自分の女が傷付きゃ、奴も動揺するはずだ。今度こそ……)



 レイとアシュレイの二人もセロンたちの動きを探りながら、木の陰で休憩を取っていた。

 特に蛇竜戦から魔法を使用し続けているレイの疲労は大きく、顔は土気色になっている。アシュレイは右腕の傷も癒えたことから、レイに代わってセロンと戦うつもりでいた。


(そもそもセロンとの確執は私が原因だ。私が奴と雌雄を決すれば問題は解決する……それに、これ以上レイに魔法を使わせれば、魔力切れで動けなくなる。いや、既に気力だけで動いているのかもしれない……レイに助けられてばかりでは傭兵としての私の矜持プライドが許さない……)


 疲れて目を瞑っているレイもこの先の展開を考えていた。


(セロンはここで決着を付けようとするはずだ。僕たちがモルトンに戻ればセロンがこの辺りに潜んでいることがばれる。男爵も守備隊も逃げられた失点を回復するため、かなりの人員を投入するはず。そうなれば、僕に復讐する機会は当分やってこない。それに僕の魔力が切れそうになっていることに気付いているだろうし……僕がセロンを抑えている間に、アッシュが弓術士を倒す。そして、二人でセロンを倒す……うまくいくかな……)


 レイたちはセロンが動き出すのを待つ作戦に出た。

 彼らにとって時間は味方であり、セロンたちが動くのが遅くなるほど、レイの魔力が回復するからだ。

 その待ち時間を利用し、この後の作戦を話し合う。


「私がセロンとやりあう。レイは弓術士に向かってくれ」


 レイはその言葉に驚き、


「駄目だ。アッシュでは相性が悪すぎる。セロンの戦闘のスタイルを忘れたのか?」


「いや、そのことは判っている。だが、今のお前より私の方がマシだ」


「そんなことは……」


「聞け! 私の鎧では弓術士からの攻撃を防ぎきれないかもしれない。最大三人から攻撃される可能性があるのだぞ。勝つため、生き残るためには、お前が突っ込んでいった方がいいのだ」


 レイは彼女の言うことに一理あると考え、「判った」といって頷く。


(確かにそうかもしれないけど、アッシュでセロンを抑え切れるんだろうか?)


 彼は一抹の不安を抱えつつ、セロンたちが動き出すのを待っていた。




 セロンは無傷の弓術士に、大きく迂回して側面に出るよう指示を出す。

 その弓術士、ジェスローはすぐには了解せず、


「お前がしくじらなければ、誰も死ぬことはなく、仕事は終わっていたんだ。何かいうことがあるだろうが」


 彼はセロンの失態を責め、謝罪の言葉を引き出そうとしていた。横にいる胸に火傷を負った弓術士も、その通りだとでも言うように頷いている。


「今はそんな場合じゃないだろうが! お前らは俺の指示に従う契約で、雇われたんだろう。なら、つべこべ言わず俺の指示に従え!」


 その言葉に二人の弓術士が切れる。


「確かにその通りだ! だがな、まともな指示すら出せん奴に従うっていう契約じゃねぇ! それに相手に魔術師がいるなんざ聞いていねぇしな。俺たちは降りるぞ! 奴らも逃げる俺たちを追わねぇだろうしよ」


 怒りに打ち震えるセロンは、二人の弓術士を斬り殺してしまおうという誘惑と戦っていた。


(この馬鹿どもが! レイ(やつ)の魔法に怯えていやがる……あとで制裁を加えるにしても、今はこいつらの力が必要だ……)


 セロンはその引き攣った顔で無理やり笑みを浮かべると、


「すまねぇ。少し熱くなっちまったぜ。さっきは俺のミスだ。頼む、力を貸してくれ」


 セロンが頭を下げると、二人の弓術士も矛を納めた。


「最初ッからそう言ってくれればいいんだ。で、どうすりゃいいんだ?」


 内心の怒りを何とか隠しながら、セロンは二人の弓術士に指示を出していった。


 ジェスローがゆっくりと後ろに下がっていく。

 セロンはその姿を見ながら、胸に火傷を負った弓術士に、


「この場所から援護してくれ。俺が奴らを抑える。もう一人横から矢を撃ち込めば一気に片を付けられる」


(こいつは囮だ。俺が前に出れば、奴らの一人が俺を抑え、一人がこいつを始末しに行くだろう。できるだけ目立たせたい……)


「奴の魔法はギリギリで避けろ。木の陰に隠れても無駄だからな」


 頷く弓術士に手を挙げ、セロンはレイたちの方に向かっていった。




 アシュレイはセロンたちの仲間の一人が離れていくのに気が付いていた。


「レイ、拙いぞ。一人が離れていく」


「どうするつもりなんだろう?」


「恐らく、迂回して側面か、背面に出るつもりなんだろう」


 レイは長距離攻撃のすべを失っていることから、どう対応したらいいのか考えようとした。


「セロンが動き出したぞ」


 彼が方策を考える間も無く、敵は動き始めていた。

 アシュレイは迂回していく弓術士をとりあえず無視することにし、


「作戦通り行くぞ。迂回した敵は警戒だけしておけ」


 レイは頷き、疲れた体で立ち上がった。




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