学園生活二年目、もう一つの春
時期はリンルート開始時期と一緒ですね。次は琴音ルートです。
季節は巡り、春風が桜の花びらを散らす季節になった。
今年は天鳴学園の学園生活二年目。
俺達六人の人間関係は相変わらずといった感じだ。変わったことを挙げるとすれば、六人がお互いに名前で呼び合うようになったことだろうか。
何はともあれ毎日楽しく過ごせている。
琴姉はそんな俺達を恨めしそうに見て、自分の青春を思い出しては憂いに浸るようになった。……どんだけ灰色の学園生活を送ったんだあなたは。
そして、去年受験生だったリンも今年から高校生。なんとなく予想はしていたけど、リンも天鳴学園に来るらしい。
今日は始業式。何故かいつもより早く目が覚めてしまった。
顔を洗ってからリビングへ行くと、既に母さんがいた。
「ハル、おはよう。早いのね」
「なんか目が覚めたんだ。さて、俺も手伝うよ」
というわけでいつものように俺は朝食の準備を手伝う。
やがて、父さんがリビングへやってきて俺達に朝のあいさつをする。ここもいつもと変わらない日常だ。
ただ、今日は気になることがある。
「琴姉、今日はまだ起きてないのかな」
それは琴姉が起きてきた気配が無いことだ。
「あれ、本当だ。琴ちゃんいつもなら起きてるのにねぇ」
「琴姉も色々と疲れてんのかな? 数日前から仕事で忙しそうだったしさ」
リンが朝遅いのはいつも通りとして琴姉は基本早起きだから、今日のように遅いのは珍しい。
最近は特に忙しそうだったのは知ってるけど……。
「ちょっと起こしてくるよ」
というわけで俺は階段を上がり琴姉の部屋の前に立つ。
ノックをしつつ呼びかける。
「琴姉ー、そろそろ起きないと遅刻するよー」
予想通り反応は無かった。
もうちょっと寝かせておいてあげたいけど新学期だし、教師である琴姉が遅刻するのはまずい。
「琴姉、入るよー」
仕方がないので俺は呼びかけつつ部屋に踏み込んだ。
部屋が資料だのなんだので乱雑していることに驚いたのはほんの一瞬の出来事。
俺はベッドの上の琴姉を見て言葉を失う。
「…………」
「…………ハル?」
そこにはまさに着替えの最中だったと思われる、上下が下着姿の琴姉がいた。
まだ夢の中なのか眠いのか知らないけど……琴姉はぼんやりしている。
「あのー……違うよ? 俺は別にそんなつもりじゃ……」
「………」
しかしあれだ。こうしてみると……琴姉のスタイルってすげぇ。
肌は白くて綺麗だしどこか柔らかそうだし……胸は大きい。
たった一歳差の年上や年下には無い色気があるし……これでなんで彼氏が出来ないんだこの人。
……この部屋を見ればなんとなく分かりそうな気もするが。
いや、それより……この状況はまずい。非常にまずい。
どれくらいまずいかというと……なんて例えている暇も無いくらいまずい。
「……はっ! は、ハル……あんた……」
「だから違うって! 誤解だ!」
半目だった琴姉の目がぱっちりと開き、驚きの視線は少しずつ怒りの視線に変わってくる。
少し頬を染めているのが可愛い……なんて思ってしまい、ごくりと唾を飲み込んで琴姉を凝視してしまう。
「ハル」
「な、何?」
「早く出て行きなさい!」
朝一番の怒号が響いた。
「いつまで見てんのよ変態! えっち! ばかー!」
歳に似合わない罵声を浴びせられつつ
「ご、ごめん!」
俺は急いで部屋を飛び出た。
ドアを閉じて、俺は胸に手を当てる。
あー……心臓がうるさい。超ドキドキしてるよ俺……。
「あれ、ハル兄。何してんの?」
今起きてきたのか、目を擦りながら俺を見ているリンがいた。
「いや、なんでもない」
「ふーん。ところで、琴姉が何か叫んでなかった?」
「きっと春になっても自分には春が来ないことを嘆いているんだよ」
「……ハル兄、私は無関係だからね」
「え?」
リンは俺から目を逸らした。
「へぇ……そんなこと思ってたんだ、ハル?」
「げ」
背筋が凍るような声が後ろから聞こえてくる。
振り返ると、既にちゃんと着替えている琴姉が静かに……そして底冷えするような冷たい笑みを浮かべていた。
口は災いの元……とはこのことだな。
「私しーらない……」
リンがそそくさと逃げていく。
これは新学期早々死んだな……俺……。
「で、ハル。私に春が来ないってどういうことかな? ん?」
「い、いや……あの……」
琴姉の顔が見る見るうちに泣き顔へ変わっていく。
「どれだけ私が苦悩してるかも知らないくせに! ハルのばかー!」
「わっ、な、泣かないで! ごめんって琴姉!」
「いいわよ慰めなんて! どうせ私なんかもうすぐおばさんよ!」
「そ、そんなことないだろ!? だってこんなに美人だし! なんで彼氏出来ないのか逆に不思議だよ!」
「っ……」
物凄い剣幕だった琴姉が一瞬できょとんとする。
そして少しして……頬を紅潮させ、拗ねたような顔をして踵を返す。
「琴姉?」
「い、今のお世辞に免じて今日はこのくらいで許してあげるけど、今度言ったらただじゃおかないからね……生意気になっちゃって……」
「あ、あぁ……えっと……本当にごめん、今度は気をつけるから……」
「いいからもう忘れなさい! あんたの記憶は部屋に来る前にリセット!」
「んな無茶な……」
琴姉はそう言うと階段を下りていく。まだ半裸を見られたことを気にしているのか、顔は赤いままだったけど……。
その後、朝食の場が気まずかったことは言うまでもない。
最近三十台前半までならストライクな気がするわたくしです← 琴姉は二十台ですけどねw




