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良い奴かと思った私がばかだった

「つっかれた……」


今日の仕事はハードだった。疲れすぎた。むり。

気力で風呂だけ入り、食事をしないでビールを飲み、ぐったりとベッドに沈み込む。

空きっ腹にビールを飲んだせいで酔いがまわるまわる。

あーー疲れた…。


「珍しくぐったりじゃん」


いつも通り音もなく現れるDV吸血鬼。仰向けに転がる私の顔を覗き込む。

途端現れる疲労。思わず顔をしかめる。


「あああ疲れる…!あんたの顔見るとすごい疲れる!」

「失礼な奴…美形に覗き込まれて悪い気しないだろ」

「噛みついてこない美形だったらいいんですけどね…」


あとマジで見飽きた。顔変えてきて。

いつもの小競り合いもする気が起きず、両手両足を投げ出して大の字で転がる。


「もう今日は無理…ひとおもいにやれよ…」

「随分おとなしいこって。そんな疲れてんだ」

「人間は複雑なんだよ…」


トラブルにトラブルが重なってずっとトラブルだった…思い出しただけで死ねる。よく生き延びた私。

もうどうにでもなあれな精神でぐったりとしていると、私に覆いかぶさるように両側に手をつかれる。


「…なんだよこの体勢」

「してやろうか?」

「なにを」

「セックス」

「………あ?」


いかれたことを言う男に思いっきり眉を寄せた。

何をいきなり言い出すんだ。暴力ばかりかセンシティブなことまでしやがる気か。


「今までにもいろんな女見てきたし、そういうこともあるよな。いつも血ぃもらってるからそのぐらいサービスしてやるよ」

「何の話してんだコラ」

「欲求不満なんだろ?わかるわかる、お前男っ気ないもんな…安心しろよ俺そこそこうまいか」


ら、とすべてを言い終える前に目の前の顔に全力ビンタした。

とんでもない音がした。


「ぃってえなこのくそ女!」

「アンタが本当にくそみたいなこと言うから…ああ疲れた、私の手のひらも痛い…」

「人が親切でいってやってんのに!」

「それが親切と思ってんなら本当の親切を知らないんだね可哀想に」


いい加減退いてと相手の自分の上から追い払う。

ああもうだるさがすごい。こいつのせいで。


「アンタの知ってる女は欲求不満で元気なかったのかもしれないけど、私は普通に仕事が忙しかったんだわ…えろいことして元気になるムーブじゃないの」

「…今までの女は喜んでたけど?」

「過去の女と一緒にすんなメンヘラだったら刺されてんぞ」


別に彼女じゃないから関係ないけど。

思いっきり叩きやがってと頬を擦る吸血鬼にため息をついて、自分の襟元を引っ張って首を晒す。


「ほら、飲めば。とっととやって帰ってよ眠いんだから」


行動と言動に驚いたらしい吸血鬼が目を丸くする。

痛いことに慣れない。正直痛いから噛まれたくないけど、もう今日は疲れすぎた。

酒のせいで意識はぼんやりだし、もう寝たい。今日はもう甘んじて受け入れる。

覚悟を決めて、もはややけくそで目を閉じる。

頭が近づく気配がして、吸血鬼の髪が耳にかかってくすぐったい。

首筋に息がかかって思わず強張る。

くそ、いつも騒いでるうちに噛みつかれるからじっとして待つほうが怖い。

きつく目を閉じて痛みを待つが、一向に来る気配がない。


「……?」


なんだよ変に待たせんな余計怖い、と文句を言うために口を開く。



『朝まで寝とけ』



私が言葉を発する前に囁かれた声に、意識が落ちた。





****





「……ん」


アラームで目が覚める。

随分よく寝たみたい、朝まで全然起きなかった。

体を起こしてぐっと伸びをする、と、同時に昨日のことを思い出した。


『朝まで寝とけ』


吸血鬼の声を聞いたら速攻で落ちてしまった。

あれが催眠術なのか、きっちゃんにやったのと同じで。

凄まじい威力、さすがバケモノと感心して首を擦ると、あれ。


「…え、噛まれてない?」


新しい痕が増えていない。どっち側にも。

吸血していかなかったってこと、か?


「……いい奴じゃん…」


疲れた私に対してねぎらいで強制的に寝落ちさせて、そのまま帰ったってこと?

え、いいやつ…いや、良くはない。でも、昨日に限っては良い奴じゃん…。

ちょっと感動を覚えつつ、次来たら肩でも揉んでやろうかとベッドから降りる。


と、違和感。なんか、え、足痛くない?


恐る恐る自分の足を確認する。

履いていたはずのスウェットズボンを履いてない。そして左太腿の内側に、がっつり牙の痕。

その横に、ペンで『もう少しマシなパンツはいたら』と書いてある。


「………」


絶対に日光浴させてやる。ろくな死に方させてやらない絶対に!

おかげさまで前日の疲れは忘れ、はらわた煮えくりかえる怒りに変わった。

吸血鬼なんてろくなやつはいない。



内腿に油性ペンでがっつり書かれたので、しばらく消えなかったようです。

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