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初めましてバンパイア

「血が欲しい」




ベッドに座り肩を抱かれて至近距離。白い肌に黒髪、中性的なイケメン。切なげに懇願されればそれはもう、いいよいいよ全部飲んできな!とは言いたくもなる。




「いやだ」




だがしかし断る。


途端不満たらたらにゆがむ表情。両肩を掴まれてぐわぐわと揺らされる。




「なんで!こんなに美形な俺が頼んでるのに?!」


「嫌なものは嫌」


「嫌なわけないこんな美形に首元嚙まれたりしたら陶酔ものだ!」


「自己愛が強すぎるなァ」




折角の美形が台無し。口を開かないほうが良い。


離しなさいと肩の手を払い立ち上がり、腕を組みつつベッドに座ったままの相手を見下ろす。




未だ不服げな表情の男。その正体は吸血鬼。


あまりにもファンタジックなその設定は残念ながら事実で、詳細は知らない。


あんまり興味もないから深掘りしていないせいだけど。


当初はへえ、ほんとにいるんだなあぐらいの感覚でいた。


お化けと一緒。いてもいなくても実害がなければどっちでもいい。


そう、実害がなければ。


残念なことにこいつは実害が発生した。




「なーーおなかすいた!血!ちょうだい!」


「うるせえ私の体が生成した貴重な血液だ、やらん!」


「昨日はくれただろ!」


「だからだよ!!」




昨日、突如私の前に現れたこの男は、さっきと同じように「血が欲しい」と懇願してきた。


自分は吸血鬼だと。美形の男があほみたいなことを言って。


というか部屋に出てくるもんだからびっくりした。漫画みたいにどっかから湧いてくるんだ。


まじまじ見るとすっごい美形だった。


ほんの出来心。人生経験上、一回ぐらい吸われてもいいかも。


美形と雰囲気、好奇心に流されて首筋を差し出した。




が。




「い……ってぇ!」




信じられないくらい痛かった。


びっくりするぐらい痛くて、え?少女漫画とかで平気で吸わせてるよね?


なんなら気持ちよくなっちゃう成分とか分泌しちゃうんじゃないの?エロ漫画とかでみるよ?


全然痛い。突き飛ばしたいけど動きたくないぐらい痛い。


めまいがして気持ち悪くてそのまま私は気を失った…完全に、迷走神経反射だった。








昨日の回想を終え、目の前の男をにらむ。




「痛すぎた、ほんっとに痛かった…もう二度としたくない。え、あれ普通?それともあんたが下手なの?」


「下手じゃない。そんなに痛いわけない、お前が弱すぎるんじゃないの?」


「はあ?確かに私は痛みに激弱いけどあの痛さは異常だった!あんた噛まれたことないからわかんないのよ!」


「弱いんじゃねえか絶対そっちのせいだ!」


「うるさい!顔が良ければ何でも許されると思うなよ傷害罪だからね!」




ほら見てみなよこの首の痕!と右首筋を晒す。くっきりと二つの牙の痕、内出血をして青紫になっている。


内出血するとか漫画で見たことない、絶対こいつ強く噛みつきすぎてる。


大体注射ですら痛いのに、牙みたいにあんな太いものが刺さって痛みがないわけない。漫画に騙された!


いよいよ私の苛立ちは多方面に向かい、収拾がつかなくなってきた。




「って勝手に噛もうとしないでくれる?!」


「いや、首筋見せられたからいいのかと…傷の上から歯立てれば傷跡増えないしいっかな??って」


「ふざけんな傷を抉るな物理的に!」




人じゃないせいか人の気持ちわからない男にイライラが募る。


あまりにムカついて、どうにか私の昨日の痛さをこの男に分からせたい。絶対に。






目の前の男を突き飛ばしてベッドに沈める。と、同時にその上に跨る。


突き飛ばされた相手はぽかんとした表情で私を見上げた。


こっちを向いている顔を左に向かせて、右側の首筋に顔をうずめる。




「え、え?」




相手の動揺の声など構わず、その白い首に思いっきり噛みついた。




「っい、!」




体が強張るのがわかる。知るか、昨日の私だって痛かった!


思い知らせるために八重歯をきつく食い込ませる。


私の歯はあれほど尖っていないから刺さりはしない。ので、安心して思いっきり噛みつく。


私を引きはがそうと肩に手は当てられているのに、全然力が入っていない。


不思議ではなかった。なんなら昨日の私も迷走神経のせいで全然抵抗できなかった。


吸血鬼にも迷走神経あんのかな、と思った段階で怒りの収まりを感じた。


噛みつく力を弱め、首筋から顔を離す。つ、と伝う唾液が我ながらちょっとえろい。






「…わかった?痛いでしょ噛みつかれたら!」


「………」




無反応。まさかもしや気絶?


そんな馬鹿なと顔を覗き込めば、頬を赤らめていた。


え?何その反応。




「……初めて噛まれた…」


「おん…」


「悪くないかも…」


「……わあ…」




まさかのドМだ…美形ドМ吸血鬼…。


ドン引きしている私の手を握り、にっこりと微笑みかける。




「確かに痛かった。よくわかった。これでお互い様だな」


「まあ、いや、私の歯刺さってないから私のほうが若干損してる…血吸われてるし…」


「じゃあ俺の血飲む?」


「いらない…」




心底いらない。血に興味もないし吸血鬼の血なんて百害あって一利もなさそう。


間違って変な力とか目覚めちゃったりしたら嫌だ。


吸血鬼はそっか、と言って握っていないほうの手を私の背中に回す。




「俺が噛んだ、お前が噛んだ、この次は俺が噛むが正しい順番だよな」


「は?!」


「よかった、確かに不公平だと思ってたんだ。お前が痛い、俺も痛い、ならお互いさまで恨みっこなしだ!」


「いや全然不公平ですけど?!」




何を爽快に言ってやがるこのドМ吸血鬼は。


上から退こうとするもがっちり手を握られ背中をホールドされ無理。


なんなら引き寄せられる。こええ。




「ちょっと待って、傷害、傷害罪です!」


「俺も噛まれたもん。やったらやりかえされた、そしてやり返す」


「最初にやったやつが悪いでしょうよ!」




押し問答。


この間にも引っ張られてすでに首筋に息がかかる。


牙の生ぬるい感覚が肌に当たり、昨日の痛みを思い出してぞわぞわと鳥肌。




「また明日やり返していいからさ、安心して。俺たち対等でいようぜ」


「……対等なわけあるか!!」




抵抗むなしく。私はまた迷走神経により気を失うことになった。





女の子が理智りち、吸血鬼がレレトといいます。


ちなみにお互いに名前を知らないので話の中でも出ませんでした。二人とも干渉しないタイプ。



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