第64話 畑の変化
最初に気づいたのは、リナだった。
「境界、ずれてます」
例外調査局の観測記録を重ねた結果、
畑周辺の侵入不可範囲が、
わずかに外へ拡張している。
公式記録上は変化なし。
だが、
精密測定では、
半歩分、広い。
「自然拡張か?」
副官が言う。
「負荷増大と同期しています」
リナは静かに答える。
世界全体の振動値が上がると、
畑の位相固定が深くなる。
「畑は負荷を受けている?」
「逆です」
エリオットが言う。
「負荷を逃がしている」
山岳例外。
都市縫い直し。
森の消失。
それらの発生直後、
畑の深度振動が一瞬だけ増加する。
圧の移動。
分散。
「幹との接続が強いのは、
ここだけだ」
エリオットは畑の断面図を見る。
他の例外は表層固定。
畑だけが、
深層まで接続している。
「枝ではなく、
根元寄り」
ダーレンが言う。
その夜、
エリオットは再び畑を訪れる。
柵の外に立つ。
侵入はできない。
だが、
観測はできる。
中央で、
カイルが立っている。
「変化している」
エリオットが言う。
「そうか」
カイルは否定しない。
「感じているはずだ」
「深くなった」
短い返答。
土の奥が、
以前より重い。
だが、
不安定ではない。
「あなたは拒まなかった」
エリオットが言う。
「固定を」
カイルは黙る。
「拒まなかったから、
接続が安定した」
「他の例外は拒否されている可能性がある」
その違いが、
大きい。
「ここは枝ではない」
エリオットが言う。
「幹に近い」
その瞬間。
土の奥で、
小さな脈動が走る。
空は軽い。
竜は現れない。
だが、
地中深くで、
圧が流れる。
リナが測定器を見る。
「負荷値、下降」
南部丘陵で上昇していた振動が、
わずかに減少する。
同時に、
畑の深度振動が上がる。
吸収。
処理。
「……安定器か」
副官が呟く。
畑は、
例外ではない。
緩衝点。
枝と幹の間で、
圧を逃がす接続点。
カイルは空を見上げる。
星は普通に瞬く。
だが、
世界の奥で、
張力が移動している。
「俺は何もしていない」
カイルが言う。
「分かっている」
エリオットは答える。
「だからこそだ」
拒まない者だけが、
深層と繋がる。
畑は拡張しない。
侵入不可は変わらない。
だが、
深さが増している。
世界が揺れるたび、
ここに圧が流れ込む。
もし限界を超えたら。
枝が折れる前に、
接続点が裂ける。
その時、
何が起きる。
空は静かだ。
竜は現れない。
だが、
畑は確実に、
世界の根に触れ始めている。
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